第30話 戦乙女は戦場に舞う

緋乃は体に炎を纏わせた状態で更に腕を上へと掲げる。すると彼女の腕につけられていた黒色のリングが光り出し、それの形に添って光が輪の形に大きくなっていく。すると、彼女の手に何かが投影されそれが徐々に剣の形を作り出していく。


そして投影が完了し光が消えるとその剣が具現化され、緋乃はそれを握りしめて下へと振りおろした。


彼女の持っているその剣は全体が黒いがしかし、滑らかに沿ったそのブレード部分は赤色となっている。


「お前、武器免許ライセンス持ちか」

「ええ、持っておいて損はないもの」


武器免許、通称ライセンス。

これは名前の通り武器をその人が所持、使用してもいいという免許。三年前の“717の悲劇”を境に戦闘が増したこのご時世に導入されたもので、高校一年生になってから取ることが可能のものだ。


――――本当なら緊急時しか使っちゃいけないんだけど、まあこの事態は緊急事態だし免許剥奪なんてならないわよね。


そんな余計なことは隅に置いておき、剣を彼女は大きく上に上げるとそれを振り下ろし目線の先の日人に剣先を定めた。


「全力の力を見せてもらえるその上にその全力に武器まで加わるのか………!ますます面白くなってきた!」


笑う日人に対して彼女は直後にゆっくりと目を閉じる。そして息を吐きその吐いた息の倍吸い込むと瞬時に目を開いて剣を大きく上げて振りかぶる。


その剣の赤いブレードの部分がその色の様に光りそこに彼女の炎が纏われていく。そして彼女はその剣を勢いよく振り下ろした。


一見ではただ空を切っただけの空振り、そのはずだが日人は確かに迫りくる“それ”を感じ取り即座に横へと身体を移動させていた。


その刹那、緋乃の方から一直線に先へと炎の一閃が通り過ぎ地面を焼き切った。


「うわっ、すげえなぁ!」


それに感嘆の声を上げると視線を緋乃に戻す。すると、彼女は剣を持ち直してからすぐ日人の方へと向かって走り出した。


「いいじゃねえか………さあ、本気だぞ!ちゃんとぶつけてきやがれ!!」


緋乃は加速を使い一気に間合いを詰め、彼の眼前にまで迫る。


「はぁああああっ!!」


今度はその剣を上へと振り上げ日人へと攻撃を仕掛ける。しかしその攻撃を日人は慣れた動きで素早く動いて避け、その後彼が腕を上に上げ手を爪を立てる様に広げるとそこにオレンジ色のプラズマが迸る。


「おらぁっ!!」


それを豪快に振るい彼女に攻撃を仕掛ける。緋乃はその剣でその攻撃を受け止めるが直後、そのぶつかった部分が爆発を起こす。その威力により地面を転がりながら後ろへと下がった彼女はすぐさま身体を起き上がらせ、剣を地面に刺して勢いを殺す。


「一つ勘違いしないで欲しいんだが俺の異能は決してあの爆発する球体を作るっていう異能じゃねえ」


その爆発の黒煙から出てきた日人は緋乃に尚も攻撃を連続で繰り出す。それに緋乃が対抗する様に繰り出す剣の攻撃を避けながら彼は続ける。


「俺には人間に流れている生体電気と共に“爆破エネルギー”っていうエネルギーが微弱に流れてんだ。俺の異能はそれを自在に操る能力だ」


彼は腕を引きその手にオレンジ色のプラズマを迸らせると、緋乃のガラ空きのその腹部に手を添える様に当てるとその部分が眩いまでに光り爆ぜた。


「かぁっ!!」


その破壊力と威力に口から赤いその液体を吐き出し、同時にその腹部に強い痛みが生じる。しばらく転がり続け静止すると、腹部を抑えながら尚も口から血を吐きだす。


「この通り、そのエネルギーを増幅させることも可能だ」


一歩一歩、ゆっくりと歩みよってくる日人に彼女は剣を使ってゆっくりと立ち上がる。彼女の姿は爆破による燃焼やかすり傷土などで肌は酷く汚れ、なにより先ほどの爆発によって着ていたジャージの腹部が燃え今となっては彼女の白肌の腹が露わになっている。


そんな緋乃も先ほどの攻撃もあってか肩で息をしながら何とか呼吸を整えている様子だった。


「おいおい、へばんなよ。すげえ面白くなってきたんだ、興ざめさせんなよっ!」

「言われなくても……そのつもり―――よっ!!」


彼女は地面に突き刺していた剣を抜く動作と共にそれを振り上げ攻撃を仕掛ける。


「いい加減その攻撃も見飽きたんだよ!!」


彼女の繰り出した攻撃を慣れた動きで避けると、緋乃の顔に容赦なく拳を繰り出した。日人の繰り出したその拳は彼女の完全なスキをついており、確実に緋乃の顔面に直撃してしまう。

だが、彼女はそれを許さなかった。


多重加速アクセルチェイン


小さく呟いたその次の瞬間、彼女の身体が小刻みにブレた。


――――なんだ……姿がブレて……


その光景を見ていた彼は何が起こったのかもわからず拳を止めようとした。その小さな間は緋乃にとって十分のスキだった。


一瞬の間で、日人の上半身にはいつの間にかバツを描くように斬撃が入れられていた。


「なんだ…と……」


斬られたその傷から炎が爆ぜ同時に血しぶきが空気中に飛び散った。


「がぁっ!!」


彼女は瞬速で切ったその傍から彼と距離を置き、何とか息を整える。


今使った技は彼女の持っている異能、“加速”の異能の技の一つで本来の加速の付与状態に更に付与を換算させその累乗の加速状態を作り出すもの。それを使ったことにより彼女は本来の加速の倍の速度を出し、瞬速で日人に攻撃を与えたのだ。


だが、その一方で強力である故に体への負担はかなり重く筋肉への負担が半端なモノじゃない。体力も根こそぎ持っていかれるためそう何回も使える技ではない。


――――これで倒れてくれるのが一番ありがたいんだけど……


彼女は焼き切られた自身の上半身を抑えながら必死にもがく日人の姿を見ていた。


「がぁぁぁぁ!!がぁぁぁぁっ……………がはははははははっ!!!ははははははっ!!」


しかしその雄叫びの声もいつの間にか笑い声へと変わっていた。


「ま、そう簡単にはやられてくれないわよねぇ……ほんとどうしたモノかしら…」


影華には自信を持ってああは言ったものの相手はアルヴァンの序列高位の人物もやられてしまうエセルスの幹部、正直なところあれは虚勢の発言でもあった。だが、みんなを守る以上は自分を犠牲にしようと彼女は決心したのだ。


とはいえ、やはり強者であることに変わりはなく押されていることは確かであり、彼女にはこの戦いの突破口がそう見つからなかった。


「お前はやっぱり最高だよ、緋乃。その戦闘における天賦の才、実に最高だ」

「それは光栄ね。まあ事実だからそれも当然だけれど」


緋乃は彼に対して虚勢を取って見せる。対する日人と言えば顎に指を添えて少し考えると、一つ質問をしてきた。


「お前、この世界は異能が全てだと思うか?」

「?何よ、藪から棒に。でも、私はそんなことは全く思わないわね。異能がこの世の中心だなんてそれは馬鹿な話だわ」

「なるほど……その考えがあるのなら、お前に一つ提案がある」

「提案?」

「俺たちの組織、エセルスに入らないか?」


彼女はその言葉に対して口を閉じて黙り、その際も日人は喋り続けていた。


「俺たちエセルスの掲げる目的、それはこの世界にいる異能力者を全員殺すこと…ってなるとまあほぼ全人類を殺すことになるんだが、それは兎も角そうすることでこの世から異能は消える。そしてまるで異能が中心とも言っている様なこの世界の歯車を壊してやるんだ。どうだ、いいだろ?お前も入ろうぜ」

「断るに決まってんでしょ、バーカ」


緋乃は笑って言い返していた。


「確かに異能がこの世の中心になってることは確かだわ。そして今やこの世が異能中心だってことも間違ってるってことも大いに同意よ。でも、異能もまた一つの人間の個性でありその人の証なのよ。それをこの世から消そうだなんてそんなことを考える組織になって入るわけないでしょ」

「そうか………それは実に残念だな。だが助かった、これでお前をしっかりと殺せる!!」


歯を見せつける様に口をにこやかにさせ不敵な笑みを浮かばせると、彼は緋乃との間合いを一瞬で詰めた。


「さぁ、もっと俺を楽しませて見せやがれ!!」


オレンジ色のプラズマを迸らせるその拳を緋乃の横腹を砕くように繰り出す。メキメキと骨の軋む音と共に爆発が起こりそのまま横へと吹き飛ばされる。地面へと弾む様に落下し殴られた横腹に激痛が奔るが、この際はそれも気にしていられない。


歯を食いしばって体を起き上がらせると、向かってきた日人にすぐさま迎撃態勢を取る。


残りの体力で力強く握りしめたその剣を日人へと豪快に横薙ぎに振るう。


「俺との戦いで消耗して、傷まで追っているにも関わらずその剣を振り回す力はあるのか。随分とパワーがあるんだな!」

「デリカシーないわねあんた!」


炎を纏わせたその剣を彼女は加速で剣撃を数は作り出すも、それももはや通用する余地もなく日人は最小限の動きで避けていた。


「同じことを繰り返しても意味ないぞ!」

「そうみたいね!」


彼女は後ろへと飛び上がり距離を置くと持っていたその剣を引き、そこに力を強く籠める。すると先ほどまで纏われていたその炎の数倍とも言えよう紅蓮がその剣に纏われ、辺りの草木をその熱気だけでかき消していく。


「なら……一気にかたをつけるまでよっ!!」

「そうか、なら一思いに死ね!!」


日人はその腕にプラズマを迸らせ雷鳴を鳴らしながら、脚を一歩だしその踏み込みと同時に強く飛び出し、彼女も同様に走り出した。


即座に詰められていくその間合い、そしてお互いを眼前に捉えると緋乃は攻撃を繰り出した。


「喰らいなさい!!!」


彼女はその灼熱の豪華の剣を横から斜め上にかけてその目標を目掛け振るう。

だがしかし、


「だからそれはもう意味ねぇって言ってんだろうがよぉ!!」


彼は片手でその剣に触れると同時に爆発を起こしその剣を弾いて見せていた。


「おいおいバカかよ!言っただろうが、同じこと繰り返しても意味ねえって!!」

「馬鹿はあんたよ」

「は?」


剣に目線の言っていた彼は気づいていなかったのだ。彼女がその手に豪炎を溜めていたという事を。


「なっ!?」

「喰らいなさい!!」


掴んでいた剣を手放し炎を溜めていたその手を強く握りしめ拳を作り出す。そしてその業火の豪腕を今ここに放った。


「残念だったな!!お前のその速度じゃあ俺にには届かねえよ!!」


日人は手を腕に上げ異能を発動させるとそのプラズマの迸る腕を彼女に向かって振り下ろす。


「っ……!」


彼女自身もそれはわかっていた。今のこの状況では彼女に勝つすべはない事。でもそれはあくまでも彼女の身のことを考えない上でのこと。


――――例え、この身を削ってでもっ!!


三重加速トリプルチェイン!』


その言葉が放たれた直後、彼女の目から青い閃光が迸る。


「なっ………!」


日人の口から言葉にならない叫び声が上がり、そんな彼の腹に本来の加速の三乗された超速の一発が繰り出された。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「ぐはぁぁぁっ!!!!」


その拳が日人の胸に激突メキメキと入り込んでいき、同時に彼女の拳が炎の咆哮を唸らせる。そしてそのまま彼を殴り飛ばした。


勢いよく一直線に飛んでいきそのまま地面へと落下した。


「はぁ………はぁ……」


先ほどの『三重加速トリプルチェイン』を使ったせいか疲労感が半端ではない。その上、


「あっ……!」


筋肉は切れてしまうのではないかと思わせる程に、骨は拉げたのではと疑わせる程に痛みを伴わせる。体全体が言うことを訊かずそのまま彼女は横に倒れこむ。その彼女は、目を開けて思わず言ってしまった。


「………もう……お手上げだわ………」


彼女が目にした光景は、日人が立ち上がるその瞬間だった。


「今のは結構効いたぜ」


緋乃の攻撃を受けたその胸部は黒焦げになり殴られたことによる痣もできている。また口からは赤い鮮血がたれており、それを手で拭いながら彼は言う。


「おいおい……倒れこんでんじゃねえよ…これからだろ?本当の戦いは」


ゆっくりと歩み寄ってくる彼の背後にいくつものオレンジ色の球体が作り出されていく。


「正直なめてたんだよなぁ…たかがただの高校生だって。でも、お前は強かった。だから俺もその強さに応えないとなぁ……!」


彼から消えていた笑みがまたしても浮かび上がり、同時に背後に作られたいくつものその球体を緋乃へと繰り出した。


――――………まあ、皆を守れたんだもの。これでいいのよ……


ゆっくりとその瞼を閉じ、彼女は気を失った。

尚も飛んでくるその球体が緋乃に激突するその寸前、その前に何者かが姿を現しそれを腕で横へと吹き飛ばした。


「………誰だお前」

「俺はアルヴァン序列19位、箕輪武蔵だ」


そこに現れたその男、その肩書を訊いた瞬間に日人の顔の笑みがより強まった。


「序列十番台!!最高かよ!はははははははははっ!!」


日人をよそに森林から姫奈や凛、ユウキが姿を現した。


「結希音ちゃん!」

「すぐに運ぼう」


凛は彼女を抱えると即座に森林の中へと戻っていく。


「皆早く戻って、ここからは危ない」

「は、はい!」


ユウキはそう言って凛に続いて森林の中へそして姫奈も同様に戻っていった。


「さあ、これで戦う準備は整ったぞ」


彼は日人にそう告げた

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