第25話 静かに轟くその放課後
翌日の朝の事、学園へと向かうべく家を出た彪雅はいつも通りゆっくりとした歩きで学園へと向かっていた。歩きながら携帯を見る彼は、画面に映るニュース一覧を見ながらとあるニュースを探していた。
――――見たところまだないな……
昨日凛を殺すべくエセルスの組員を向かわせたわけだが、夜のうちには殺すということだったため、それに関したニュースが今朝のうちに上がっていると思っていた。だが、見たところまだその内容のものは見当たらない。
「まあ、もう少し時間も経てば出るか」
彪雅が画面を閉じたその瞬間に携帯のバイブレーションが鳴る。彼が改めて画面を開くと、通知のところにメッセージがあり誰かと思えばそれはボスであった。
届いたその内容を確認した瞬間に、彼は戦慄した。
『昨日向かわせた奴らがアルヴァンに連行された。恐らくターゲットにやられた』
「っ!?」
声にならない叫びをあげると同時にポケットに携帯をしまい込んだ彪雅は急いで学園へと向かい走っていく。その勢いのまま門をくぐり校舎へと入っていった彼は階段を駆け上がっていく、
そして教室へとたどり着いた彼が勢いよくそのドアを開けると、そこには無傷で元気に友達と話す凛の姿があった。
――――嘘だろ…
昨日送った組員の中の一人には幹部もいた。にもかかわらず傷の一つすら見当たらないのは一体何故か。
彪雅はただ唖然としていた。
「よう、おはよう彪雅」
「…ん、おはよう」
声をかけてきた席の近い友達に挨拶され、彼は少し遅れてそれに返した。
ひとまず席に座り彪雅は腕を組む。
ここからどうするべきなのか、今回のことがあってはまた誰か組員を向かわせるわけにはいかない。
そして、思いついた一つの考え。
――――いい機会か。
携帯を取り出した彪雅はメッセージの画面を開き、ボスに「俺に任せて」と送った。
「そういえば昨日、彪雅と最後に戦ったってな。どうだったんだよ?」
「凄い強かったな。かなり苦戦したわ」
「だよなぁ。あいつ俺とか有馬を相手に善戦するくらいの実力持ってるからな。しかも俺達が本気でだぜ?」
「でも確か緋乃さんには惨敗だったんだよね」
「ま、あいつは強すぎるから……」
朝の教室で、いつも通りの面子で話をしていた凛。ふと、彼は立ち上がった。
「悪い、トイレ行ってくる」
凛が教室を出て廊下を歩く。すると、背後から足音が近づき徐々に迫ってくると凛は誰かに肩を叩かれ声をかけられる。
「翔君、今日の放課後。少し時間貰ってもいい?」
※ ※ ※
「放課後にわざわざ時間取ってもらってありがとね、翔君」
「いや、気にしなくても大丈夫だ。暇だったし」
放課後を迎え夕日が出てきたころ、彪雅と凛がやってきたのは車通りや人通りの全くないところにある大きな空き地。
その場所で凛と共にいる彼はその決意を改めた。
それは凛をこの手で殺す、ということ。
情報を持っている凛のことを殺すことができればこれ以上の漏洩も防げる上、必要な“殺す覚悟”も手に入る、一石二鳥だ。
ひとまず自然な流れを作るべく彪雅が話そうとした時に、それより先に凛が口を開いた。
「それで、こんな人の一人もいないこの場所で犯罪組織の一員であるお前がオレに何の用なんだ?」
「えっ……なっ、なんでそのことを……」
彪雅は自分の正体が知られているとも知らずそんな声を漏らしていた。
「昨日襲われてからそれは知ったよ」
凛が彼が犯罪組織の一員であることに気づくのは早かった。
サバイバルトレーニングを終えて、彪雅が実力を隠していることに気づいた凛は一つ仕掛けた。
あえて自分が学園内に犯罪組織の人物がいるという情報を知っていることを彼に言ったのだ。
もしそこで彪雅がその人物であれば、その情報を知っている凛を消しに来る。一方で知らなければ何か行動を起こすことはない。
そして結果として前者だったため、彪雅がその人物だと確信することが出来た。
そして先ほどの彪雅の反応を見れば、もはや誤魔化のしようもないだろう。
「んで、襲ってきた奴らが俺の排除に失敗したとなっては今度は彪雅自身が来ることも予想できる。そこで誘ってくるかどうか見るために、トイレに行く振りして一人になって誘いやすい状況を作ったら、まあ案の定誘ってきたってわけだ」
「っ……」
そこまで読まれていたことに彪雅は驚きを隠せなかった。だが彼はただ凛が予想以上に頭が回る男であることに驚いただけ、ここからの動きが変わるという事はない。
「じゃあ今の翔君は俺に誘われた理由、わかってるよね」
「言わずもがな」
「そっか、なら――――」
語りながらは彪雅は手に冷気を発生させそこに夕日で煌めく鋭い氷剣を作り出す。それを力強く握ると一気に加速し間合いを詰め、呟くように小さく言った。
「殺すね」
声とは裏腹に虚勢を張るように勢いよく凛の顔を目掛けてその剣を突き出す。殺す覚悟を得るためにと目をはっきりと開きその瞬間をしっかりと見ようとした。だが、その剣も凛に届くことはなかった。
それは決して彪雅がその攻撃を止めたわけではない。彼は確かにその剣を力強く突き出している。ならば何故届くことがなかったのか、それは今の二人の間に起こっている光景を見れば一目瞭然だった。
「………」
「嘘っ……だろ……」
凛は彪雅の高速で繰り出したその突きの一撃を、剣を鷲掴みして受け止めていたのだ。先程の彪雅の出した速度は、学園内の生活では見せることもなかった彼の出せる最高速度。それをまさか止められるとは彼は思いもしなかった。
更には切れ味のよいその氷剣を握っているはずなのに、それを掴む彼の手が傷ついた様子や血が流れている様子は全くなく、また剣を握っていることに痛がる様子もない。
彼はただ平然とした表情をそのまま保っている。
彪雅はその剣を必死に動かそうとするもピクリとも動かない。
「ちっ…」
剣を彼の手から離させることをあきらめた彪雅は剣の刀身から冷気を発生させて彼の腕を氷結させていく。それにすぐに反応した凛はすぐさま剣を折り、その隙に彪雅は後ろへと飛び退いて距離を取った。
凛の前腕が氷結したことを確認しつつ折れた氷剣を再生させる。
――――ひとまず右腕は凍らせた。そこから他の部位も凍らせて最後に心臓を突く。それで……
と、そう立てた計画通りに、うまくいくわけもない。
否、計画は練り直すしかない。
パリィン!!
直後、凛が手を広げた瞬間に束縛する様に凍てつかせていたその氷結が瞬く間に解かれる。握っていた剣の半分が地面に落ちるとそこから砕けた氷が地面へと落ちていく。
「っ……ならっ!!」
彪雅はすぐに次の攻撃へと移る。氷剣を突き刺すとその刺し込んだ地面の奥から氷結が広がっていきその氷結が凛を飲み込んでいく。そして終いには大きな氷柱を作り出した。
「………」
彪雅は黙ったまま掴んでいた剣を離しゆっくりと立ち上がり、改めて自分のつくりだしたその氷柱を見つめた。
だが、その氷柱は一瞬にして無に帰した。突然ひびが入ったかと思えばそれは瞬きの暇すら与えぬ間に砕かれ、そこにポキポキと首を鳴らす凛の姿があった。
「……実力を、隠してた…のか?」
「色々と事情があってな。攻めるなよ、お前だって実力隠してたわけだし」
攻めるなというが、そもそも攻めるというその感情も今の彪雅の心では全て驚きで埋め尽くされている。先ほどの雰囲気からは全く想定することもできなかったその実力。本当の実力者が実力を隠すのが上手い、というのはこういう事なのか。
「それにしてもさっきからお前、随分と殺すことに怖がってるな」
藪から棒に飛んできたその図星に彪雅は胸で強く鼓動が鳴った。だが、今度は先ほどの虚勢を張って――――いやこれは虚勢ではない。この時初めてできた、“殺す”という事への覚悟か。
「そうだね、人を殺すことが怖いさ。でも今の俺には果たしたいことがあり、背負ってるものも使命もある。だから――――」
次の瞬間、彼の周りから冷気が一気に放出される。その冷気が彼の両手に収束していき氷剣が作り出され、それでも尚その冷気は止まらず地面そのものを凍てつかせ始めている。
氷の双剣を握った彪雅はそれを構え、その目に先ほどよりも遥かな殺意をむき出しにして言い放つ。
「君を殺す」
剣を構えた彪雅に対して凛は一つ息を吐いた直後に、物静かな声で喋った。
「そもそも人を殺すことに慣れちゃダメだろ。後、お前はオレを殺せねえよ」
凛は右腕の手を強く握りしめて硬い拳を作った。
両者が共に目を合わせ構える。
夕日は徐々に沈んでいき橙色の光も薄くなり始めている。そんなこの頃のその空き地で、沈黙というその緊張の音が空間全体に響き渡り水を打ったかのような静けさをもたらしていた。
そして刹那、両者が共に足を踏み出し駆け出した。
徐々に徐々にその間合いは狭まっていき間隔は近くなっていく。そしてお互いがその眼前にまで迫った瞬間に両者はその攻撃を、目の前の敵に目掛け繰り出し――――
「あれ?翔に彪雅じゃねえか!!」
突如として両者の耳に聞き覚えのある声が入り込んできた。その方にお互い顔を向けるとそこには、ユウキ、鈴見、そして姫奈の三人が歩いていた。それが見えた瞬間に凛は手を止めてその方へと走って近づいていった。
「お前ら、どうしてこんなとこにいんだよ?」
「いや、実はうちの親戚が新しく開くラーメン屋に行くのにこの道が近道なんだよ。というかお前らこそどうしてこんなとこにいんだよ」
「あー、体育祭に向けて彪雅と少し手合わせをな」
「なるほど……あ、そうだ!なんならお前も一緒に来いよ!」
「えっ?いや、オレは今ちょっと……」
「いやいや、いいからいいから」
「うんうん、一緒に行こうよ!」
「そうだよっ!」
ユウキが凛を羽交い絞めにし、鈴美は彼の右腕を、姫奈は左腕を掴んで三人は一斉に凛を連れて行った。
「悪い彪雅!翔借りてくぞ!」
「あ、うんいいよー」
ユウキの言葉に肯定を示した彪雅は彼らの姿がなくなった直後、地面に膝をついて服越しに胸を掴んだ。そこでなり続ける鼓動をどうにか抑えようと必死になる。
――――もしさっきの攻撃を受けていたら……
先ほどの一場面。
間合いを詰め両者が共に攻撃を繰り出したその時だった。凛の雰囲気が一瞬にして変貌したのだ。先ほどまでは感じることもできなかった赤黒いオーラを発し、そしてギラついたその目で彪雅を捉えて攻撃を繰り出したのだ。
ユウキが来たことにより、それはすぐに消え去っていったがその強大さはそんな一瞬でも彪雅の記憶が忘れさせない。
―――――ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン―――――
僅かにでもそれを思い出すと、彼の鼓動は更に早くなっていき呼吸も早くなる。
彼はただその場でしばらくその“恐怖”を打ち消すので精一杯だった。
追記
最近、自分ではわかっているものの自分の実力不足かかなりフォロワーが減りPVも減りで少し落ち込んでいたりもしていました。しかしそれに左右されないようこれから頑張って書いていく所存です。
どうかこれからもこの作品を見ていただけると幸いです。
また誤字報告や思ったこと、感想などコメントに出してもらえるとありがたいです。しっかりとコメントは返します。
自分は一人の作者として失格かもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
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