第20話 さよならとただいま

ユウキの一撃が風真の顔に炸裂し、バキィィィィッ!という鈍い音が鳴り響き彼はそのまま殴り飛ばされ一直線に壁に激突した。大きなクレーターをそこに作り、最後には目を白目にしたまま彼はばたりと地面へと倒れた。


大きな殴打の音の次に響いたのはたった一つの静寂。起こった現実がまるで嘘であるかのように、その光景を見ていた凛や鈴見らは呆ける様に立ち尽くしていた。


だがそれが解かれるのも時間の問題だった。


徐々に勝利の喜びが込みあがり、声を上げようとしたがしかし、


「………」


直後、風真を倒したユウキはその五体満足の身体故、目を静かに閉じて銀色の地面へとうつ伏せに倒れた。


「ユウキ君!」

「ユウキ!」


凛らが倒れたユウキや有馬の元へと駆け寄っていく。

今の現実の余韻に浸る暇はなく、ただその場に残るのは勝利したという事実のみであった。






       ※       ※       ※








それからほどなくして、彼らはアルヴァンへと連絡をすることとなった。


本来、同行していたユウキや鈴見ら七人は今回のことはおおやけにせず、自分たちだけにとどめて他言無用を貫こうと考えていた。だがしかし考えてみればそれは甘い考えであり、そもそも誘拐者がいる時点でアルヴァンへと通報するのは避けられないことであった。


それに加えて人の手によって薬に犯された者たちも見ぬ振りができるはずもない。


現在、こういった事件を取り扱うのは警察ではなくアルヴァンの仕事の一つでもある。故に、一行はアルヴァンへと通報しここへと来てもらおうとしたが、凛がその時彼らに待ったをかけた。


それは通報するな、という意ではなくすでに通報はしてある、の意であった。


凛の言った通り外へと出るとそこにはアルヴァンの隊員が複数人待機しており、その隊員らはすぐに駆け寄ってきた。鈴見がアルヴァンに今回のことについてある程度端折った説明をすると、風真はけがを負っているとはいえ事件の犯人でもあるため念のためにアルヴァンが一時的に保護することとなった。


またユウキと有馬は近くの病院へと運ばれた。


気付いた頃には深夜の三時を過ぎた頃、故に詳しい話は後日改めて話すことになったのだった。






       ※       ※       ※







時間がたつのは早い、というのはまさしく本当である。時間という物は遅くもなければ早くもなく、ただ定められた速度で時を刻む物。そんな時間という存在こそが何よりの理不尽であるのかもしれない。


時間の進む速さがなによりのその証拠だろう。


凛が学園に登校し自身の教室のドアを開けるとそこには多くのクラスメイトがおり、その中にはユウキと鈴見の二人の姿があった。


「よう、翔」

「おはよう翔君」


ユウキの机のそばで立っていた鈴見とその机に添えられた椅子に座るユウキがそんな風に挨拶をしてきた。凛はいつも通りの平凡な声で「おはよう」と一言言ってユウキの後ろの自身の椅子に腰を下ろした。


ユウキの姿を見てみると顔にはいくつかの湿布が貼られ、また制服のワイシャツの袖からは包帯で巻かれた腕が見えていた。未だ傷の完治とは行かないようだ。



「それにしても、二週間が経ったなんて思えないな」

「ああ、本当に」


凛のその言葉に、同意を示すユウキ。

そんな彼の表情には暗い雰囲気が漂っている。しかしそれも無理はなく、彼からしてみればあの戦いから二週間しか経ってないのだ。心の整理をしろというのもまた無理な話だ。


「そういえば、風真先輩退学になったってな」

「ああ、俺もついさっき聞いた。ま、あそこまで犯罪に手を染めてりゃそうなるのが普通だわな」


ユウキの顔が暗いそのもっともの理由、それは風真が大きい。例え、彼がユウキが懸想を抱く少女を誘拐した本人だとしても、それでも風真将人という少年は彼からすれば最もかけがえのない先輩の一人だった。


来る日も来る日も、風真と共に拳をまじ合わせ試合が終われば彼から自分に足りない物は何なのか指導を受け、また戦う。偶には一緒に出掛けたりもしたそんな仲だった。


だからこそ、そんな風真が居なくなったというその消失感が、後になって彼の元へと襲い掛かってきたのだ。


今までの日常が一つ崩壊するというその事実、故に彼の顔は暗いモノだったのだ。


「正直先輩がいなくなるのは結構寂しいわ、やっぱり。なんだかんだ俺が一番お世話になってた先輩だし」


しかし、そう言ってから彼の顔は先ほどまで浮かべられていた暗い表情とは打って変わって明るい顔になる。


「でもま、もういい加減気にするのもやめるわ。これからはちゃんと一人で頑張るぜ!」


そう言って、ユウキはいつもの彼の少し軽いノリでそう言ってグッドマークを右手で作った。最初はほんの少し心配そうな顔をしていた鈴見も今は優し気な表情を浮かべながら彼を見ていた。


だが、その一方で凛はと言えば、


「おらっ」

「いったっ!!」


いつぞやの時と同じ様に彼のその額にデコピンをかました。それもその時に比べて何十倍も強い一撃をだ。これには鈴見も驚かざるを得ず、ユウキも想定していなかった出来事と威力に思わずその額を抑えた。


「なにすんだよ翔!」

「ちょっと翔君!」

「なーに勝手に馬鹿な事ほざいてんだよ。そんなにお前はカッコつけたいのかよ」


その時もこれと同じようなことを言われた気がすると、ユウキは微かに既視感デジャヴを感じていた。


「わざわざ強がる必要もないだろうに」

「………別に強がってませんけど?」

「だから、そんなお前に安心できる一言を送ってやる」

「話聞けよおい!」


ユウキのツッコミをよそに凛は自分の事を親指で指しながら彼に言った。


「ひとりじゃない、オレがいる」

「――――っ」


その言葉にユウキは思わず声を失った。


「実力は兎も角、オレから教えられることがあったらお前に教える。だからお前もオレに色々教えてくれ。先輩と同じ役が務まるかはわからないけど、オレもお前の成長に関わらせてくれ」


凛の本心からの思いが、ユウキの心に告げられる。

そんな彼の心もドクンと高鳴った。


その言葉を訊いたユウキの顔は本当の明るい笑顔へと変わった。


「ああ、勿論だ。よろしく頼むぜ、翔!」

「こちらこそ」


ユウキと凛はそこで強いハイタッチを交わした。





















一番上のボタンを締めリボンを結び姿見の鏡に自分を映してそんな自分を見つめてみる。久々に着た制服に、私は「本当にこんな感覚だったっけ?」制服の着こごちに疑問を覚えた。


この制服を着たのは一体いつぶりになるのだろうか。

今がもうすぐ七月に入るころだから……大体一ヶ月くらい前?になる。


私、天詩姫奈は今日久々に学園へと登校することとなる。


そもそもなんで久しぶりの学園登校となるのかというと、私が学園の先輩に拉致監禁をされていたからだ。


家に急にその人は現れ私をどこかへと連れて行き監禁した。


最初は一体自分が何をされるのかと想像し恐怖し続ける時間が続き、仕舞いにはその人物の目的が私を操り人形にするという想像を絶するそれを知り、よりその感情を覚えいつ自分がそんなことになるのかとただ怖かった。


しかし、時間がたつにつれてそんな感情は徐々に徐々にと薄れていき私の心の中ではあきらめという物がついていた。


そんなある日のこと、私の元に助けが来てくれた。


その時の私に意識はなく、私をどうやって助けてくれたのかはわからない。ただ、それでも意識が冷め病院で目を覚ました時は思わず泣き崩れてしまった。


やっと解放されたという喜びと安心感が必然的に私の目に涙を運んだのだ。


話によれば、助けに来てくれたのは同じクラスメイトの中でも私と同じ1-Cの皆みたいでしかも、その中にはまだ転校してきて間もない人や縁も所縁もない人もいたみたいでそんな皆には感謝しかなかった。


皆に早く会いたいと思いながら、私はなまった体のリハビリを行い。そしてそれから二週間の月日がたちこうして今日、学園へと行くことができる。


「ん~~~~~~~っ!」


喜びのあまり、私は改めて悶絶し声にならない叫びをあげる。


「こうしちゃいられない!早くいかないと!」


カバンを手に持って私は自分の部屋を出て学園へと向かった。自然と体は皆に会いたいと思っておりそんな思いが私の足を自然と走らせた。風を浴びながらそれでも止まることはなくただ私は走り続ける。


そうして気が付けば、私は自分の通う“桜京学園”にたどり着いていた。


物凄いスピードで全力で走ったはずなのに、なぜか全く息が切れておらず門の前で一度立ち止まるとすぐに私は校舎の中へと入っていった。


靴を履き替えると階段を二段飛ばしで駆け上がる。


そして教室の扉が遂に目に見えた。


勢いが止まることはなく私は廊下を走り続ける。その時から徐々にではあったが私は息を切らしていたのだが、そんなことは今の私にはどうだっていい。


皆に言いたいことはたくさんある。


でも、やっぱり帰ってきて最初に言うことはこれに尽きると思う。ドアに手を伸ばしガラッと勢いよく私は扉を開けた。



「ただいま!」







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




風邪直りました。

という訳で更新頑張ります!

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