第19話 務めが導く

風真を見ながら有馬は言う。


「あの野郎と戦うのも飽きちまった、いい加減決着付けねえと」

「お、珍しくお前と意見が一致したな。まあ、なんも嬉しくはねえけど」

「そりゃお互い様だろ。俺もてめえみてえな三下と同じ意見だなんて人生最大の汚点だ」

「そうかよ」


お互いに足を後ろに引き、そして構えを取る。風真はただ立ち尽くし、彼らが攻めてくるのを待ちわびている。この一時の間合いは空間全体に大きな緊張感をもたらし、場をピリピリと痺れさせた。


先ほどまで、風が吹き荒れヒバナの飛び散る音や金属音が轟いていたとは思えない程、この場所はただ沈黙に包まれ水を打ったかのように静寂が響き渡っている。


「作戦、うまくいかなかったらぶっ殺すからな」

「ああ。煮るなり焼くなり殺すなり、好きにすりゃいい」


後ろ脚を共に更に引き前足に強い力を入れると、そこから二人が駆けだした。最初に風真に攻撃を繰り出したのはありまで、一定の距離にまで来るとそこで飛び上がり、上から拳を放ってきた。


それを風真が即座に体を捻って避けると、そこから風の刃を一つ放つが、有馬は体を横に傾けて避けた。流石に風の刃が通じないのは案の定といったところで、特に何も反応はせず風真は彼の次の行動を待っていた。


しかし、それからすぐの事、後ろから気配を感じその方向に首を傾けると、そこにはユウキの蹴りが顔に迫ってくる光景があった。


その蹴りと自分の間にある距離に加え、迫ってくるその速度からすると避けることは不可能であると考えた風真はすぐさま自身の身体を突風で覆い、その蹴りを防いだ。


「おっと……」


弾かれた足の反動でユウキはいくらか後ろに後退るが、それからすぐにブレーキをかけて仰け反ると拳を強く握りしめ、体を前に向けて一気に駆け出していく。


風真が構えを取り風の刃を放つと、ユウキは握っていた拳を解きそして手を広げるとその風の刃に電気の波動を放ちそれを霧散させた。勢いよく爆ぜ襲い掛かる風に顔を庇う風真であったが、それが収まりクロスしていた腕を解いたその刹那、顔にユウキの手がせまっていた。


直後、彼の顔を手で掴んだユウキはそのまま銀色の地面の方へと叩きつけ風真の後頭部に強い衝撃を与えた。


彼の意識が飛びそうになるものの、その直後に風真は腕を使って飛び跳ねユウキの顔面を蹴り飛ばし、有馬の方へと蹴り飛ばすと跳ね起きて、すぐに有馬対して迎撃態勢を整えた。


「おらっ!」


有馬が剣を振るうと、今度は有馬の脳天に手を置いて先ほど蹴り飛ばされたユウキが姿を現す。


「はい、失礼するぜー」


すでに失礼しているのだが、そう言ったユウキは直後大きく足を上げて有馬の頭に手を乗せたまま風真に踵落としを繰り出した。


さきほどの有馬の攻撃と同じ様にこの攻撃も避けきるが、その時の風真は明らかに違和感を感じていた。


「おいてめぇ、いい加減に頭から手ぇ離せ!」

「おいそう言うなよ、協力プレイが作戦だろ?」

「だから、それがさっきから全くできてねえんだろうが!」


有馬の頭から手を放したユウキが地面に足をつけたそのそばからまた口げんかの様なことをし始める二人に対して、率直に風真は違和感の正体を探るべく彼らに訊いた。


「君たち、そういえばさっき何か話していたけれど、何か作戦でも立ててたのかな?」

「ん?ええ、そうですよ。先輩を倒すための作戦、二人で協力作戦です」

「一ミリもできてねえけどな」

「有馬は黙ってろ…それをすれば、確実に先輩を倒すことができるんですよ」


ユウキのその自信ありげな表情に、その作戦がそんなにも強いものなのかと疑問に思いつつ、仮に先ほど感じた違和感がなのならもしかすると、と風真は心境でほんの少しだけ、警戒心を強めた。しかし、表上では虚勢を張ることを怠らない。


「あははははっ、それなら是非僕に見せてくれよっ!」


風真は指を鋭く尖らせ曲げると腕を振るい、先ほどユウキを切る際に使ったものである斬撃を飛ぶ刃の様に放ち、二人にそれが迫りくる。地面を削りながら攻め寄せるそれだったが、ユウキが拳を繰り出し有馬が剣撃を繰り出し二人の攻撃が同時に刃にぶつかると、それが意図も簡単に消え去った。


「なっ……?」


その光景に唖然とし驚愕の声を漏らすと、二人はそんな風真の様子など気にすることもなく、同時に走り出し風真の元へと向かう。先ほどのことを気にすることを頭から離れさせた風真は、更に先ほど同様に風の刃を放つ。


だが、それを有馬に剣で弾かれてしまい、更にユウキが風真の元へと攻撃を繰り出す。風真の頬に彼の豪腕が掠り、横に避けた風真はユウキに風で斬撃をくらわそうとする。それを今度は有馬が剣ではじき返した。


「させねえよ」


有馬は一言ただそう言う。

油断し、態勢を崩した風真のスキの出来た腰にユウキは膝蹴りをもろで入れた。


「かはっ……!!」


威力故に声を漏らした風真は激怒し、


「ふざけてんじゃねえぞ!!!」


またも、まるで人が変わったかのような荒い言葉遣いを漏らし、目を血走らせる風真が今度は有馬に攻撃を繰り出すが、それをユウキによって阻まれそこに有馬が攻撃を仕掛ける。


風真の胴体にかけて鋭い斬撃が繰り出され、瞬時に反応した風真であったがそれを完全に避けきることができず、胴体に軽く切り裂かれた。


深くはないモノの、自分に攻撃を与えられたことに徐々に憤慨し始める彼はついにキレた。


「殺す!!!!」


口にして言い、物凄い勢いで破壊力のある攻撃を繰り出していくものの、二人のコンビネーションの賜物か、どちらかに攻撃を防がれそこをもう一人が攻撃を繰り出す。ただそれの繰り返しであった。


徐々に押され始めた風真が、初めて必死な装いを顔に浮かべ叫んだ。


「何故だ!なぜ僕が押されてるんだ!」

「そりゃ決まってんだろ」


有馬とユウキは風真の放つその一撃を共にはじき返したその瞬間に、脚を上げてお互いに片足を風真の腹へと炸裂させた。そのまま彼は勢いよく後ろへと飛ばされた。


「俺たち二人が共闘してるからだよ」


お互いに一人の敵として、そして“好敵手ライバル”としてお互いを認識している彼らだからこそ、強さを磨き続ける二人だからこそ共に手を取り合い共に戦うことで圧倒的な戦力を得るのだ。


決して、これが風真に伝わることはないだろう。


「………そうかい」


風真はユウキのその言葉を訊いた直後、手をぶらりとぶら下げる様に脱力しそのままで片腕を横へと広げた。すると、風がそこに収束し始め螺旋状に回転し始める。あたり一帯の空気を巻き込む様に風がそこに集まっていき、それは徐々に巨大な槍を形成し始める。


暴風が吹き荒れ、空間全体を揺らしながらそれが徐々に完成へと近づいていく。


「………ユウキ君………」


鈴見の浮かばせるその表情は心配そのもので、それは周りの者たちも同じであった。だが、一方でユウキと有馬と言えば、その顔に浮かべられているのは他でもないである。


「そんなに笑っている余裕があるのかなぁっ!?」


風真はついに完成したその巨大な暴風の槍を遂に二人の方に向かって繰り出した。瞬く間にせまりくるそれであったが、そんな中でユウキの取った行動は、


「よし、じゃあ任せた」


なんと有馬の肩を叩いてそう言うと後ろへと下がっていった。


「はぁぁ!?」


流石にこれには、同行していたクラスメイトの者たちも気が狂ったのかと叫ばざるを得ない。しかし、そんな中で凛は、


「お前ら、よく見ろ。何かする気だぞ」


騒々しい程にユウキに対して怒りを見せていた彼らだったが凛のその言葉を聞いてからユウキの方を見ると、彼が途中で立ち止まり足を後ろに下げ腰を低くすると前足に力を入れ、そこに青いスパークを奔らせるその光景があった。


一方、有馬はユウキの考えたその作戦が成功すると信じ、風真の放ったその大技を食い止めることに専念することになる。


遂に眼前にまで迫ったその槍に対して全身に白いオーラを纏わせ、そして両腕の剣でそれに対抗した。


「くっ…………」


歯を食いしばり全身の筋肉を使ってそれを食い止め続ける有馬。しかし、その槍の勢いは止まることを知らず、尚も進行してくるそれに徐々に押され始める。だがしかし、それでも有馬はまだ粘った。


「おらぁぁああああああああああああああああああっ!!!」


剣を前へと押しその槍もろとも前へと突き進んでいく。火事場の底力と言ったところか、その力で徐々に徐々にと前へと歩んでいく。


だが、それも長くは続かなかった。


直後、遂に力尽きた有馬はその槍に肩をえぐられる羽目になった。肩の上部分を槍が穿ちそこから血が溢れる。だが、そこで彼は終わらなかった。


「おらっ!」


未だ無事の腕を振るい、そしてついにはそれを切り裂いた。


白いオーラを同じ位置に多重使用することでより力を増幅させたのだ。倍明るかったその白いオーラがその腕から消え去ると、その多重使用の代償が発生し腕が強く軋んだ。


激痛が奔り、遂には意識を失う。


―――――………これで決めなかったらぶっ殺すぞ、三下……


そこで彼の意識はプツリと切れた。


「………ほんと助かったぜ、有馬。あとは任せろ」


ユウキが溜めていた電気を足に放出すると共に、その前足により強い力を入れ地面を強く踏みしめる。


それを目にした風真は迎撃態勢を取った。


―――――何をしてくるはわからない。だがこの距離で間合いを詰めてくるのならば反応できないはずもないし、技の反動ももうすぐ―――――


と、考えていたその瞬間、


一定距離にまで離れていたはずのユウキが、すでに風真の目の前に迫っていた。


「なっ!?」


すると、直後ユウキのその軌跡をたどるように黒い足跡が地面に浮かび、そこでスパークが迸り雷鳴が空間に轟いた。


彼は一定時間に電気を蓄電することで瞬間的にだが本来出すことの出来ない力を放出することが可能となる。筋肉繊維にまで電力を干渉させ、人体の能力を爆発的に上げているのだ。


「ちっ!」


舌打ちを一つする風真であったが、それが何かを変えることもなく凛は溜めていた電気をスパークとして更に放出し、腕を引いて手を握りしめ拳を作り出した。


「先輩、俺は知ってるんですよ。先輩があの技を使った後は、一定時間反動が起こって能力を使うことができない。ずっと戦ってきたからこそわかるんです」


ユウキと有馬にはもう一つの作戦があった。それは、風真にあの技を使わせ反動が起こった時に、ユウキが一気に畳みかけるというもの。


有馬には、その時間稼ぎを頼んでいたのだ。


ユウキは、風真将人という少年とは一年の付き合いになる。その間に何度戦い何度あの技を繰り出されたことか、もうその技のことは本人以上に熟知していた。


「これで、終わりだっ!!」


ユウキはその叫びと共に、巨大な青いスパークの迸るその拳を腹部へと直撃させた。








       ※       ※       ※







ユウキのその会心の一撃が風真へと直撃する。

だが、そこではまだ終わらなかった。


「……ふふふ……ははははははっ!惜しかったね、惜しかったね!確かに君は強い!だが、まだまだ詰めが甘いよ!」


風真はあろうことか、只の気合のみでその一撃に耐えていた。


「さあ、反動も解けた。これで―――――」


風真は静かにユウキの腹部に手を当て、


「終わりだよ」


ユウキの腹を、風によって生み出された衝撃波が穿った。内臓が拉げ骨がピキピキと気味の悪い音を鳴らし、彼の口からは想像を絶する血の量が吐き出された。


風真は、静かに勝利を確信し、鈴見らは静かに終わりを受け入れようとした。


だが、そこで終わることはなかった。


風真がユウキのはらにそえたその手を彼が強く握りしめたのだ。その力強さのせいか、強引にその手を離すこともままならない。


口から顎にかけて血の浸るユウキは、俯かせていた顔を上げ風真と目を合わせた。


「…………いい加減に、目ぇ覚ましてください――――」


―――――どんな後輩よりも、先輩と一緒にいた後輩として、俺には俺の務めってもんがあるんだ。だから、俺は自分勝手ながら、その務めを果たす。


心に決めるユウキの拳が風真の顔へと直撃した。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」


喉が裂けているのではないかと思わせる程のその叫び、叫びながらも血を吐き続ける。それでも叫ぶ。


そして、彼はその腕を大きく振るい殴り飛ばす。


ユウキは、遂に絶望を打ち砕いた。










――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


遅くなってすいませんでした。

第一章は後二話程度で終わらせるつもりです。

どうか最後までお付き合いくださいませ

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