第21話 新たな予感
風真との戦いを終えてからしばらくの月日がたち、姫奈も学校へと復帰し通うようになってからしばらくの月日がたったある日のこと、凛は一人家の付近にある公園へと向かっていた。
時間帯は夜の九時を過ぎた頃、丁度人通りも少なくなるころである。
そもそも何故凛がこんな時間に公園へと向かっているのかと言うと、それは遡ること二週間前。風真との戦いを終えてからすぐ、件の事件の詳細を説明するべく鈴見の付き添いとしてアルヴァンの建物へと向かった時の事。
詳しい話を終えいざ帰るぞとなった時、話をしていたアルヴァンの隊員の人物から凛宛の手紙を渡されたのだ。差出人はその人物とは別の人物で、なんでもアルヴァン内でも屈指の実力を持つ序列の高い隊員なんだとか。
その手紙には“話がしたい”という一言だけが添えられており、その文面の下には待ち合わせ場所として凛が向かっている公園の名前を示し、またその時間も記していた。
差出人は一体誰なのか、あまり検討がつかない凛であったが、なんにせよ警戒はしておいた方がいいのかもしれないとその危機感だけを頭に入れて彼は公園へと向かっていた。
彼が移動してしばらく、その公園へとたどり着いた。
言わずもがなその場所に人の一人もおらず、ただ少しばかり広いその公園の道を何本もの街灯が照らしていた。公園へと入りその道を歩いてしばらくすると、とあるベンチを見つけそこに人が座っていることが分かった。
―――――あの人か?
こんな時間に公園に来る人など例の差出人の人物しかいないだろうと、凛は意を決してその人物に近づいていく。かなり近づいたところでその人物は見ていた携帯の画面から凛の方へと目を向けた。
紫色の短髪にほんの少し目に鋭さのある顔つき。
目があった時、凛の記憶のタンスから一人の人物がよみがえった。
「…………
「…俺のことを知っているということと、その見覚えのある顔。やっぱり凛か。お前」
「ああ……やっぱりお前、武蔵か?」
「おう!久しぶりだな、凛!」
凛の中学時代の同級生である。
中学一年の頃から三年にかけて、凛とは同じクラスで彼とは非常に仲の良かった友人の一人だ。別々の高校にいくことになりそこで別れた人物でもある。まあ、凛の場合は異世界に行っていたのでそれを機に別れてしまった、というのが正しいが。
凛の中で、中学時代の彼を脳裏に浮かべそれと目の前の彼を比べると、やはり昔に比べ大人の顔立ちに変わっており、凛の中で変わったなぁと昔を懐かしんでいた。しかし、それと同時に寂しさも覚えていた。
それを心内にしまい込んだ凛は武蔵に訊いた。
「お前、今アルヴァンにいるのか?」
「おう、序列は19位の上位でな」
武蔵の座っているベンチの空いている一席に凛は腰を下ろした。すると、武蔵がアルヴァンの隊員だからこそ知っているそのことを話し出した。
「それにしても、お前四年間もどこ行ってたんだよ。行方不明になってるって聞いて心配したんだぞ?しかも、見るにお前の顔全然成長してないし」
「あーーーー……それには深いわけがあってな……」
しばらく考え込んだ末、凛は信じてもらえるかどうかは別の話として彼に自分自身の身に起こったことを話した。そのすべてを話し終えた後の武蔵の反応は、仲が良い親友の凛だからかその話を信用してくれた。
「そんな今ありがちなライトノベル小説みたいなことが……」
「それで帰ってきたら四年も経ってたってわけ」
「それでまだ顔が若い顔つきなのか…」
実際、そんな事でもない限り凛の若い顔つきの説明が上手くいかず、手掛かりすらないのが突然の召喚だったがためと凛の消失の辻褄はあっているということも大きかった。
「今はどうしてんだ?高校には通ってんのか?」
「ああ。まあ、中学の時受験したところとはまた別のところだけどな。それに自分の正体ばれないようにするために名前も偽名使ってるけど」
「そういえば紅蓮さんってお前の親父さんだもんなぁ……因みにどこの学園に通ってるんだ?」
「桜京学園」
「………そうか………」
そこで、彼の顔が少しだけ暗くなったのが分かった。それを不審に思った凛は彼に訊いた。
「どうした?」
「………一つ忠告しておく。最近アルヴァンの中でもかなりの被害を出されてるとある犯罪組織があるんだが、つい最近に入った情報によるとどうやらその組織の一人が桜京学園の中にいるそうだ」
「それって……教師の中にいるのか?」
「いいや、違う。教師じゃない、生徒の方だ」
なんでもその組織は若い者たちを中心とした犯罪組織らしく、しかしそれにもかかわらず実力は大人と引けを取らないらしい。また、もう一つの情報ではその人物は組織の中でも屈指の実力者で、隊員たちの何人かは重傷を負わされただとか。
「くれぐれも気を付けてくれ」
「わかった」
凛は武蔵の言葉に頷いて見せた。それからはアルヴァンの生活はどうなのかと武蔵に訊いてみたり、逆に凛が高校生活はどんなふうに送っているのかと訊かれたり。他愛もない話で盛り上がり、気づいた頃には時間は三十分も経過していた。
「……そろそろ時間だな、んじゃ俺行くわ。困ったら交換した連絡先に連絡してくれ」
「ああ、助かる。そう言えば、一つ言い忘れてたんだが、くれぐれも俺とつながりがあることは言わないでくれ」
「
「おう」
そう言って武蔵は公園から去っていった。凛は一人公園のベンチに座り、昔の思い出に浸っていた。
武蔵にはよく戦いを挑まれていた覚えがあり、よく突拍子もなく「勝負だ!」などと決闘を挑まれていたのを覚えている。それに比べて今はまさに大人の風格と言うべきか冷静さが増しており、そして体からあふれるオーラが今の武蔵の実力を物語っていた。
―――――――やっぱり、先越されてるな……
四年という月日の大きさと皆に置いて行かれたというその実感に、凛は改めて学園生活を頑張ろうと決意するのだった。
しかし、当の本人が気づくこともない。
武蔵が今日、戦いを挑んでこなかったのは大人になったからという理由よりも大きいもう一つの理由があったという事に。
そしてその理由が、“今の自分では勝てる余地がないから”でもあることに。
※ ※ ※
家に帰り風呂に入ってから自分の部屋で凛は一人考え込んでいた。それはほかでもない、先ほどの武蔵から忠告された言葉である。正直なところ、今まで生活してきた中で、それらしき人物というのは彼の目ではわからず見当も付いていない。
あまり学園の友達たちに疑いの目を向けたくはないため、正直なところそもそもその話が本当なのかどうかを調べたいところではあるが、それも今の状況的には出来そうにない。凛は止むを得ず一応そのことは頭の隅に置きながらいつも通りに生活していこうと決意した。
と、そんな風にベッドの上で考えていると凛の部屋のドアがノックされた。それに応答すると、ドアを開けアリスが姿を現した。
のだが、
「入る、リン」
「う、うん。あのそれは良いんだけどさ……」
凛は思わず自身の目を疑った。それは、今の彼の目に映っているアリスの姿は今まで見ることもなかったその新鮮さと共にありえないその光景だという理由があった。そしてそのアリスの姿とは、
「お前なんでメイド服着てんだよ………」
「…やっぱり似合ってない?」
「いや、似合ってるんだけどさ。すごく似合ってるんだけどさ。写真撮りたいくらいには似合ってるんだけどそうじゃない」
なんでそれを着ているのかという問題なのだ。
実際それは見当がついている。
「誰に着させられた」
「凛のお母さん」
「よし、ちょっとお話してくる」
凛はそのままベッドから立ち上がりドアへと足を進めた。こうなるのにも一つ理由があり、アリスはメイド服というものがあまり好きではなかったのだ。その理由はただ一つ、“自分に似合わないと思うから”。
彼女は異世界の中で極まれに如何にも女の子が着る服みたいな洋服を着させられることがあったのだが、それでも断固として拒否していたのがメイド服で合った。普通に似合いそうではあるのだが本人は本当に嫌がっていたためそう見ることができなかった。
そんな嫌がっていた服装を着させたなんぞ言語道断、家族会議が必要だと母の元に行こうとした凛をアリスは制した。
「待ってリン。これは私の意志で着た」
「えっ、お前ずっと嫌がってたじゃねえか。どうして急に……」
「リンに………アプローチ……」
ほのかに頬を赤く染めながら恥ずかし気に応えるアリスの姿に思わず凛も照れてしまい頬を染めた。
「そ、そうか」
「うん………」
なんとも言えない沈黙が部屋に響いた。しかしアリスはそんななかで凛に一つ訊いた。
「……そう言えばリン、一つ訊きたいことがある」
「ん?なんだよ?」
「さっきメイド服を着た時に同時によく分からない物を貰った」
「ん?どれどれ」
アリスがそう言ってポケットから取り出したのは、コン―――――――
「没収です!!」
「………リン?凄い必死な表情してる」
「そりゃそうなるって………」
今、彼女がポケットから取り出したのは俗にいう避妊具というやつである。いったい誰がこんなものを渡したのか。
実際それは見当はついている。
「誰に渡された」
「リンのお父さん」
「よし、ちょっとお話してくるパート2」
凛は再び外へと足を運ぼうとするがまたしても、それをアリスに制されてしまう。しかも今度は魔法によって生み出された光のひもで身体全体を縛られて拘束される形で。そんな拘束状態でそのままベッドへと置かれた凛の上に更にアリスが乗っかった。
「………アリスさん?」
「……いいでしょ、リン」
「え、いや、ちょっ」
凛は必死に束縛しているその光のひもを必死に解こうとするものの、アリスのその実力故にか縛る力が強くどうにも解くことができない。そのままアリスは徐々に彼に顔を近づけていく。狙う先は唇だ。
「ちょっと待って、アリス。流石にそれはだめだろ、おい。止まって、止まってくれ!おーい!!」
今や凛の声など届くはずもなく、アリスは更に顔を近づけていく。遂に意を決した凛はそのままゆっくりとそれを受け入れようとしたその時だった。
ドアの隙間から二人の人物の姿と声が聞こえた。
「キャぁーー!アリスちゃんその意気よ!そのままキスしちゃって!」
「そしてそのままレッツ既成事実だ!」
カメラ片手に写真を撮る凛の母、秋桜と凛の父紅蓮であった。
「おいこら脳内真っピンク両親!」
途端に怒りの沸いた凛の力は倍増、いつも通りの力を発揮しその暇を力ずくで解いた。そしてそのまま紅蓮と秋桜の元へと制裁を下すべく歩み寄った。
「二人とも。アリスに一体何を教えた……」
「何ってそりゃお前との中を縮めるための」
「最短手段よ~」
「覚悟しろ、桃色夫婦!」
凛の叫び声と共に、彼の父親と母親には怒りの鉄槌が落とされた。そんな中でアリス一人だけは「もう少しだった……」と少しばかり物足りなさもあったのだった。
今はまだ凛は平和に暮らしている。だが、早くも凛の正体がバレる危機が訪れることは彼には知る由もない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
このような終わり方は不本意でしたが、他に締め方が思いつかず第二章の一話で持ってくる予定だった話を持ってきました。
という訳で第一章はこれにて完結です。
凛のこのサブキャラっぽくしかし主人公だよっていう感じを出すのになんとも苦戦しましたが、そんな中で多くのフォローや星をいただけて感謝しかございません。これからもこの作品にお付き合い頂けたらと思います。
さて、これから第二章に入るわけですが、正直凛の力をいつ発揮させようか今迷っていますが、ぶっちゃけ結構早めでもいいかと思ってます。
そういったことに関しては要望があれば意見をコメントに下さるとありがたいです。
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