第17話 DOG AND MONKEY
「「早い者勝ちだ」」
声をそろえて告げた二人がその目に見定めるは他でもない風真将人その人。そんな彼はその二人の一言を聞くとその顔には笑みが浮かべられ、身体からはピリピリとしたプレッシャーが放たれる。
「へえ……早い者勝ち、ね………」
風真の一言、これが決して二人の耳に届くことはなかった。
「さて、それじゃあ早速はじめるとするか」
「てめえが仕切ってんじゃねえよ」
「ああ?文句あんのか?」
「ああ?」
二人がまたしても言い争いを始めそうなところだったが、尚も笑みを浮かべる風真がそんな二人に話しかけた。
「どちらからでも構わない。好きなタイミングでかかってきなよ」
敵に気ぃ遣われてるじゃん……と全員が思っているのをよそに、二人はその言葉を訊いた途端先ほどまで浮かべていたその不敵な笑みを改めて浮かばせると、
「そんじゃ」
「遠慮なく」
次の瞬間二人は駆け出しそして一瞬で、風真とのその間隔の差を縮めお互いに腕を引いてその手に拳を構えた。目つきを尖らせ共に目の前にいる風真という男に、その拳の照準を定めた。
「はっやっ!」
「二人とも、風真先輩に引けを取らない速さだ……」
その二人の速さに思わず感嘆の声を漏らす傍観者のクラスメイト。もしかすると、この二人なら本当に風真を倒してしまうのでは、と思わせたその矢先だった。
ユウキと有馬がその異変に気付く。
全く動くこともない風真、しかもその顔にはもはや張り付いてしまったのではないかと思わせてしまう程に、彼の笑みは崩れていない。それは自身に満ち溢れている様な、自分が勝つことが当然だと思っている様なそんな表情。そんな顔に更に笑みが強まった。
「――――――――っ!」
「――――――――っ!?」
その刹那、ユウキにもそして有馬にも、まるでこの極太の鞭にでも打たれたかのような強烈な衝撃と痛みが、上半身に迸った。骨はピキリという嫌な音を鳴らし内臓の拉げる音が木霊する。
二人は口から赤い鮮血を吐き出しながら、そのまま吹き飛ばされ奥の壁へと激突した。
しんと静まり返り、全員が何が起こったのか全く持って理解できなかった。だが、次の瞬間、瞬く間に出来事を理解し壁の方に鈴見が勢いよく首を向け飛ばされた二人を見た後、恐る恐る前を向き風真の顔を見つめた。
「……全く、僕のことを甘く見られたら困るよ。今まで本気すら出したことがなかった僕に、雑魚の君らが勝てるわけないじゃないか」
子馬鹿にするような言い草でユウキと有馬にあえて聞こえるような大きさの声でそう宣った。
彼らは、彼女らは、勘違いしていた。
気付いていなかった。
気付くはずもなかったのだ。
今まで見ていたその風真将人という少年が、今まで本気を出していなかった、妥協をしていたという事に。
元々、彼の持つその風を生み出し操るその能力は、世が持つ印象とはかけ離れた殺傷能力と強力さが存在している。生み出された風は強弱が自由自在、姿は風だけでなく他の物にもなり得る。
そんなその異能を、風真は学園内では半分程度出しているかどうか。
ここにいる者はその事実を知る由もなかった。
改めて彼らが敵の強大さを感じるとその脅威の大きさに勝ち目がなくなったと、徐々に恐怖が感情に巡っていき、全員の顔が真っ青に染まっていく。
それとは裏腹に、尚も風真は笑顔だ。
「所詮は経験も少ないガキで詰まるところの雑魚なんだから、調子に乗ってもらわれると困るんだよね。これだから木偶の坊って嫌だよ。すぐに自分が強いって過信するし」
「あーやだやだ」と言いながら、彼は上に顔を見上げた。すると、そこから顔を元の位置に戻し目に凛の顔と姿を捉え、気味の悪い笑みを顔に浮かべた。
「いやぁ、待たせたね。今度はちゃんと君を殺してあげるから、安心して――――よっ!」
残像を残しながら風真は凛の元へと駆け出していき、その距離を一気に縮めるとそこから手を大きく振りかぶり凛の方へと繰り出そうとする。その速度故に、周りにいる者らはみな彼が凛に攻撃を仕掛けたことに全く気が付いていない。
――――貰った。
風真は凛の命を確実に殺めることができると、そう確信した。だが、その手が届く前に凛の手に握られていた輝く何かが彼の顎に直撃した。赤い閃光と共にスパークを発するそれの威力によって、大きく縦回転しそのまま一回転する。
何が起こったかもわからないまま、地面に着地していくらかの距離を取ると地面にチリンと何かが落下した。
――――コイン?
黄金色の硬貨が地面に転がり、まさにそれが自身の顎に直撃したそれだと彼はすぐに実感した。同時に凛の方に顔を向けると、彼の指は親指だけがはねた言わばグッドマークに近い形になっており、コインを弾いたその後の形ととらえることもできる。
転がったコインが散りとなって空気に消えていく中で、僅か数秒の時間の中の話であったため何があったのか六人のクラスメイトは理解が追いついていなかった。だが、やっと何かが起こったという事に気づき、しかし何も見ていなかったがために言葉を失った。
しかし、言葉を失っていたのは風真も一緒だった。
――――なぜ、僕の動きに反応できた?
彼が凛に向かう際のその速度は、風の異能の応用により本来の持つスピードを遥かに凌駕するもの、そして先ほど見せたその動きの速さこそが彼の最高速。確実に殺す気で合ったが故にその速度だったわけなのだが、それを彼は反応して攻撃まで仕掛けてきた。
ありえないことだったのだ。
この一つの出来事を知る者は風真しかいないのだが、そんな彼に一つの説が浮かび上がる。
彼は、ただの三下とは話が違う?
それが出てから凛の姿を改めて見た。一見ではただの高校生である。しかし、何故だろうか、どこかその奥底に隠された力があるような……それを諭される。感じ始めた静かな威圧感に汗が一筋彼の頬を浸った。だがしかし、そんな彼はやけくそ気味に心を戻すために、
――――いや、気のせいだ。きっとそうに決まっている。
自分にそう言い聞かせて先ほどと同然の笑みを顔に浮かばせた。
「今の攻撃よく避けたね、褒めてあげよう。だが次はそうはいかないよ」
風真はそう言って改めて構えようとすると、一方の凛は尚も笑みを浮かべた。
「先輩、何を勘違いしてるんですか。先輩と戦うのは決してオレじゃない」
その言葉を告げた瞬間に、奥の壁から鈍い金属音がなり同時に白煙をそこから上げた。左右の空中を何かが通り過ぎ、その刹那に風真の前に現れたのは先ほど攻撃を受けたユウキと有馬であった。
二人は頭から出血をしており額の端から顔の下部まで赤色の鮮血が垂れている。また口からも顎にかけてそれが浸っていた。
風真は最初、驚きはしたものの彼はコイツらなら負けることはないと、笑みを強め周りに風を螺旋状に回転させて壁を作った。それと同時にユウキと有馬は腕を引きギュッと手を握り拳を作ると、ユウキは蒼いスパークを、有馬は白いオーラを纏わせた。
そしてお互いに歯を食いしばりながら風真にその拳を繰り出した。
しかし、その攻撃は今さっき作られた風の壁によって防御される。それにコイツらは自分の敵ではないと先ほど消えていた余裕を思い出しその笑みを浮かべて、
「はははははっ!さっきも言っただろう、結局君らは雑魚に過ぎないんだよ!三下も当然の木偶の坊、そんな君らに僕の異能を突破できるわけないだろう!」
まさに嘲笑。
嘲笑い彼らの実力を見下す風真、それを訊くと歯をより一層強く噛み締めると二人は言った。
「………さっきから、黙って聞いてりゃぁゴチャゴチャと………」
「随分と言ってくれるじゃないですか………」
有馬とユウキがそう言った途端、今も尚二人の攻撃を防いでいる風の壁が徐々に押され始めた。風が外へと弾かれるように流れていき、壁が徐々に薄くなっていく。風真はその事態を予測しておらず、その壁を作り直すのに一足遅かった。
そしてその壁が―――――破壊された。
風真はすぐに攻撃を仕掛けようとするが、それよりも先に腕を大きく引いた二人の拳が、彼に繰り出された。
「「なめんなっ!!」」
ユウキの青いスパークを迸らせる鋭い拳が風真の顔に、有馬の白いオーラを纏った強力な拳が彼の腹に直撃した。
※ ※ ※
二人の拳が振るわれ、それが直撃した風真は勢いよくその向こうにある壁の方へと飛ばされていった。めり込む様に壁に激突しそこで首が下がり脱力したような姿になった。
それを見た全員は驚きの表情をその顔に浮かべていた。
「よっし!」
ユウキが攻撃を当てることができたことに喜びを示しているとその隣から有馬が言った。
「あぁ?なんでてめえが喜んでんだよ。てめえみてえなただちょっと痺れる程度のヘタレのパンチなんかアイツに訊いてるわけないだろ」
「あぁ?てめえのその気持ち悪い色のオーラ纏ったパンチこそ、訊いてる分けねえだろうが?」
「「ああ?」」
何度見た光景か、犬と猿のケンカが再度勃発。にらみ合いながら共に口汚く相手をあおっていく。それに思わずクラスメイトの六人はまたしても乾いた表情を浮かばせた。しかし、それもつかの間、向こうから感じる殺気にすぐに顔が真剣なものに変わった。
「まだだよ!二人とも!」
鈴見のその声が二人の元に届けられると、壁から抜けた風真がゆっくりと歩み寄ってくる。
「………わかってんだろうな、これは早い者勝ちだからな」
「たりめぇだよ」
二人がその敵の存在を認知すると、地面を蹴って彼の方へと向かって行く。そして眼前にまで迫った所でユウキは拳を放ち、有馬は横蹴りを繰り出した。風真の元にそれが迫りくると、それを彼は仰け反る形で避けその状態から左右に手を広げてそれを上に振った瞬間に、二人の身体に風で作られたハンマーが下から振るってきた。
先ほど受けた攻撃に加え、今の攻撃。口から吐血することを間逃れず骨はまたしても気味の悪い音を鳴らした。
二人はその痛みに我慢してなんとか持ちこたえると、その攻撃で飛ばされた二人は着地をして風真の方に尚も顔を向けた。その風真の今の顔はユウキに殴られたせいか頬が赤紫に染まり、また有馬の攻撃によってか口からは鮮血を垂らしている。
彼は歯を見せつける様に笑みを浮かべた途端、手を大きく上に上げそこから幾多の風の槍が創成された。
「君ら、殺される覚悟はできてんだろうね?」
決してその質問に答えることはなかった。しかし、構わず向かって行くその姿がまさに答えだろう。
風真は腕を上から振るい、作り上げた長い風の槍を二人に放つがそれをお互いに全て避けていく。すると、有馬の腕が剣に代わりそこに白いオーラが纏われると、大きく上に上げて下に向かって振るった。
その真下にいる風真が手を上げその剣を受け止めた。
「いい加減君は戦いから学んだ方がいいよ。前にもこうなっただろう!」
風真は手を開き指をそろえると、その状謡の手を有馬の腹に添えそこに強い衝撃波を放った。
「かっ……っ!」
その威力に彼が吹き飛ばされると、その後即座に風真の前にユウキが現れ回し蹴りを繰り出した。それを風真に簡単に受け止められると、彼に有馬と同じ様に衝撃波を放とうとするが、ユウキは慣れた動きでその腕に絡みつきその後風真を地面に倒した。
しかし、その状態から風真は見た目とは裏腹な腕力でユウキごと腕を上げて、立ち上がると地面に彼を叩きつけそこから更にすかさず拳を放った。
地面に叩きつけられダメージが更に蓄積されるが、上から放たれるその拳を受ける前に横へと避けてそれを回避すると足を上げ風真に踵落としを炸裂させようとするが、それも腕をクロスさえる形で受け止められる。
すると、その隙をついて吹き飛ばされた有馬が彼に向かって行きそこから剣を横薙ぎに振るった。
惜しくもその攻撃が風真に受け止められると、ユウキは更に強い力を入れて風真においこみをかけた。
地面に彼の足がめり込んでいき、そして横からも受け止めたものの徐々に有馬の攻撃が詰めている。そんな状態で風真は大きく雄叫びを上げると周りから暴風を発して二人を自身の身体から離させた。
二人は着地すると、そこからすかさず風真に攻撃を繰り出し続ける。ふと見てみるとそれはまるで二人で共闘しているように見えるそれだが、実際はそうではない。腐っても彼らの仲は犬猿の仲、故に実際はお互いにまるで競い合うように高速で攻撃を繰り出し続けているのだ。
その結果、まるで奇跡的に共闘しているように見えるのだ。
徐々に追い詰められてきた風真、そしてついにユウキの蹴りと有馬の剣が左右から襲い掛かってきたが両方を抑えられると、
「おい、調子乗ってんじゃねえよ」
今までに聞いたことのない声を彼は発し、同時に有馬を思いっきり上へと風で吹き飛ばすと彼のその手から風が生み出されそれが動物の形を作り出していく。そして創成されたそれの形は「虎」だった。
『
すると、その虎は咆哮を上げて上の有馬の元へと向かいそれが彼の身体に噛みついた。
「ぐああぁっ!」
その激痛についに叫び声を有馬は上げる。
更には、ユウキは掴まれた足を上へと持ち上げられそこから身体ごと投げられバランスを崩しながら空中に飛ばされると、風真は手の形をまるで引っかくように作りそれを斜めに振るった。
その刹那、ユウキの身体が右上から下にかけて斜めに切り裂かれ、その傷口から激しい血しぶきを上げた。
あとがき失礼します。
今日は少し長めです。
お伝えしたいことが二つございます。
まず一つ目ですが、更新についてです。
二日に一回を目標に投稿していたのですが、正直部活で忙しかったり作品のネタが思いつかなかったりと色々と難しいことがわかりました。なので、これからは更新は一日~三日に一回と思っていただけると幸いです。
今回は遅くなってすいませんでした。
二つ目についてですが、これは僭越ながら自分自身のことです。自分は小説を書く時、どうしてもコメントだったり人からの評価を気にしてしまうようになりました。また、自分は心が弱いタイプなので何か批判的なコメントやストーリーに関する指摘のコメントが来るとどうしても落ち込んでしまいます。
これは作者としてとても致命的なものだと思いますが、どうかそれを理解していただけると幸いです。
こんな自分ではありますがこれからもこの作品を面白く描けるように頑張りたいと思いますので、何卒よろしくお願いします。
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