第14話 黒幕

携帯を操作していた凛はふと画面の上に目をやり現在時刻、日付が変わり深夜の一時になったことを確認して前に目線を戻した。移動してからしばらくして、たどり着いた場所、そこはとある大きな一軒家だった。


白色を基調としたその家の大きさは一軒家は一軒家でも、三階建てでしかも三つの家が繋がった今までに見たことのない程の豪邸であった。


「ここが……」


全員がその家の大きさに唖然として立ち尽くす中で、突然ユウキの携帯がバイブレーションを鳴らし始め、手に取ったそれの画面には見慣れた文字が映し出されておりじっくりと見ることもなくかかってきた電話に応答した。


《よく来たな》

「……俺たちのことを見てるのか?」

《ああ。カメラからな》


凛が門ををくまなく見渡すと、赤いランプのついた監視カメラがそこについていた。


「ここからどうすればいい」


如何せんこの建物は大きすぎるため入ろうにも入ることができない。それに姫奈を助けたいという一心であるユウキはかなりの焦りを本能的に覚えていた。


《そう慌てるな、ちゃんと案内してやる。敷地を囲む塀の真ん中に門があるだろ?その扉の横にパスワードを打つ鍵盤がある。そこに俺が言った番号を打ち込め》


言われた通り、ユウキはパスワードを打つその鍵盤の前にまで行くと二十桁という数のパスワードを打ち込み、すると門ではなく門の隣の塀の一部が下へと落ち地下通路への階段がそこに姿を現した。


《そこを通れ》


電話はそこで切れた。

皆が共に顔を合わせると気合を引き締めていこうと共に頷きそして意を決して中へと足を踏み入れていく。最後尾の凛はふと周りを見渡してから皆の後に続いて中へと入っていった。


上で電灯が照らす地下通路の階段は細くもかなりの長さがあり、金属製の銀色の階段を一つ一つ降りていきながら数分して、やっと一番下へとたどり着くことができた。階段を降り切って一本道が見えたのでそこを彼らは通り始めた。


先頭を歩くユウキが一歩、また一歩と足を出す度に、その上の照明が気味悪く順番に明転されていく。


そして次の曲がり角を曲がったその先に、扉が映った。


全員がそれを目にした瞬間、全員の身体に緊張が迸る。


「……行くぞ、皆」


全員、ここから先に何が待ち構えているのか見当も付かないが姫奈を助けるためだと気合を入れて決意を改める。そして、前進していく。


眼前にそれが映し出されると、目線の下のドアノブを引いて中へと入っていった。中は見えない程ではない物の暗闇で、何があるのかまでは認識ができない。ただ、その部屋全体がかなりの規模であることはわかっていた。全員が密になり、スキのないように臨戦態勢を整える中、天井の明かりが灯され部屋全体が光に覆われた。


その天井は高く、到底手を付けることなどできるはずもない程のものだ。


照らされた部屋全体を見渡してみると、そこには何もなくただ一面に銀色の世界が広がっている。


すると、そこで部屋にアナウンスの様に声が聞こえてきた。


《ようこそ、俺の家の地下へ、歓迎するぜ》

「姫奈はいったいどこにいる!」


ユウキのその言葉に対して、いたって静かに答えた。


《この部屋の先さ。そこにお前らが助けたい助けたいと望んでた天詩姫奈が待ってるぜ》

「ならっ……!!」


そのアナウンスにユウキがすぐに反応して扉の方へと走っていきその扉の方へと行くと、先へとつながるそのドアのノブを思いっきり掴み豪快に開いた。


―――そのつもりだった。


しかし、そのドアはピクリとも動かない。押しても引いてもそのドアが開いてくれる様子は微塵もない。何度も力強く開けようとするものの、それは言うことを聞いてくれることもない。


そして、そこで彼は戦慄する。


照明でできていた自分の影に背後の何かのそれが重なった。そして強い殺気を背中に浴びその直後に横へと緊急回避すると、何かがそこに攻撃を繰り出した。ドアのすぐそばの地面にその腕がめり込み、強い衝撃波が伝播してきた。


受け身をとってからその方へと目をやると、そこには薄い白い布を上に来ただけの格好をした一人の男がいた。その男が地面から拳を引き抜きそしてユウキの方へと目をやると、その男の目は鋭いという言葉では収めてはいけない程のそれで、どす黒い殺意がそこからにじみ出ている。


「なんだアイツ……」


ユウキが大雑把に汗を拭い払いそう口から零すと、先ほどの静かな言い様とは裏腹に興奮したようなアナウンスが聞こえてきた。


《お前らが会いたいとそう願う少女に会うために!勿論試練が必要だ!》


アナウンスと同時に、両端の壁からそれぞれ四つの扉が開き、そこから次々と狂気と化した若い男女の狂人が、先ほどの少年と同様に薄布一枚の格好で姿を現していく。


《俺が使いに使い果たして薬物で侵されたこいつらを全員倒してみろ!そうすりゃあ、お前らが会いたがってる奴に会えるぜ!?さあ、精々頑張れよ!》


アナウンスが切れ、狂人たちは次々と凛やユウキら八人へと襲い掛かっていく。


「こっ、これはピンチだよ!どうしようどうしよう!!」

「い、いったいなにが起こっているんだ……」

「これは結構まずくない………?」


この状況に涙をこぼし始める者、苦笑いを浮かべる者、色々といた。その状況に皆を助けようとユウキが動こうとするが、だがしかし、その心配は杞憂である。


「でもまあ……」

「ああ……」


全員の心は今、一つだ。


「「「「「「やるしかない!!」」」」」」


六人は虚勢や見栄もあるだろうが、ほとんどがその顔に笑みを浮かべそして襲い掛かるその者たちに対抗し始めた。


それぞれ、自身の持つその異能とそもそもの運動神経など使える限りの武器を用いて戦い続ける。凛もまた、彼らと同じ様に襲い掛かる狂人たちを次々となぎ倒していく。


――――なんとか能力を使ってぶっ倒したいところだが……正直異能に有効なモノがないんだよな……


実のところを言えば、この場には異能で使えるモノはある。だが、もしそれを使ったら凛のがバレてしまう。なんとか知られている限りの異能で頑張りたいと思いながら、横から襲い掛かる狂人化した少女に軽い拳を腹のところに与えて沈める。


そこで、ふぅっと息を吐いたその直後、上から突如狂人の少年が襲い掛かってくる。凛に襲い掛かるであろうその者だったが、それに目掛けて一つの鉄の弾丸が繰り出されその狂人の腹に激突、壁の方へと吹き飛んでいった。


弾丸が飛んできたその方を見ると、そこには黒い眼鏡に灰色の髪をした灰城水城はいじょうみずきがいた。


「翔、油断するな!まだまだ相手は山ほどいるぞ!」

「ああ。さっきは助かった!」


水城はそう言って手に残った鉄の塊を飛ばし、それを次々と狂人の肩や足などにぶつけていく。


彼が使う異能、それは“金属操作”である。その異能は金属を自由自在に操作することが可能という能力。ただし、それは鉄パイプ程が限界である。


「きゃーっ!こっ、来ないで下さ~いっ!」


一人、どこか弱弱しい声を発する少女がいる。黒髪に三つ編みの長い髪をしており丸眼鏡をかけているのが特徴的な彼女、三美歩みつみあゆみに、次々と狂人が襲い掛かってくるが、次の瞬間恐ろしいことが起こる。


「や、やめて下さ~い!」


彼女は異能を発動すると、その白い手から縄が現れそれの先端を一体の狂人に投げると首に巻き付き帰ってきたその先端を持って思いっきり横に引き首を絞めた。するとその狂人が泡を吹き始め仕舞いには意識を失った。


「許して下さ~い!」


直後、首を絞めたままの状態で縄をぶんぶんと振り回し、まるで縄に巻き付いた狂人を鉄球の如く使い周りに押し寄せる狂人らを薙ぎ払って行った。


「お、おい、三美。お前相変わらず残酷だな」

「えっ……なっ、な、なんのことですか?」

「変わること無き自然体暴力ナチュラルバイオレンスね……」


同行していたクラスメイトがそんな風に三美の行動に反応した。彼女の持つ異能は“想像形成”である。身近なものだったりサイズが限られていたりと、制限があるものの構造の細かいモノを除く大体の物をつくりだすことが可能な異能である。


だがその異能だけでなく、彼女には異能とは違う潜在素質の様なモノを持っている。それがこの“自然体暴力ナチュラルバイオレンス”である。これは本人にその気はなくとも、自然と体が暴力的な行動をとってしまうという恐ろしいものである。


本人にはその気がないため、なんともタチが悪い素質である。


「あたしらも、負けてらんないね」

「ああ、やってやるか」


皆のその戦いっぷりに負けてはいられないと、和登わのぼりミチルと亜門理月あもんりつきも、自身の異能を使って襲い掛かる狂人を倒しはじめ元1-Cのクラスメイト達は狂人たちから追い上げを見せ始めた。


ユウキは変わることもない強さを狂人に見せつけ、襲い掛かる狂人をなんなく倒していく。


「はっ!」


阿翠もまた同じ様にその力を狂人へと見せつており、その異能で狂人は瞬く間にやられていく。だがしかし、疲れも見せ始めるころだ。油断が生じ、一体の狂人に彼の異能“空砲”が外れた。


異能による空気の弾丸が避けられた阿翠に、次に襲い掛かるのは異能の酷使による疲労であった。先ほど弾が外れたのもこの疲労が原因であったのだが、外れてしまったために彼の命が危うい。


しかし、そこでサポート役の鈴見である。


「はぁっ!」


彼女が異能を発動すると、阿翠の目の前に見えない壁が現れ狂人の攻撃を防いだ。彼はその隙を見て横へと移動して空砲を放ってその狂人を沈めた。


「ありがとう、鈴見さん!助かったよ!」

「大丈夫、私がしっかりとサポートしてるからもっと存分に戦っちゃってね!」

「うん!」


鈴見の持つ異能は“防御壁”。名の通り、どんなものも防ぐ見えない壁を作り出すことの出来る能力である。


「そういうお前も、自分のサポート忘れんなよ」

「えっ?」


その言葉が聞こえたと共に後ろを向くと、背後から襲い掛かった狂人をユウキが殴ったところだった。ぱりぱりと青いスパークを奔らせながら着地したユウキに鈴見はお礼を言う。


「ありがとう、ユウキ君!」

「気にすんな。それより……」


ユウキは周りを見渡して、皆のその戦いっぷりを目にとくと焼き付ける。それを見て彼は言った。


「あいつら、あんなに戦えたっけか?」

「…皆、あの時なにもできなかったって、悔やんでたんだ」


あの時、とはユウキが約束の金を私に言った二週間前のこと、戦いに勃発したが結果的に凛が現れて何とかなったものの、残りの鈴見含む六人は畏怖のあまり何もすることができなかった。それを彼らは悔しく思っていた。


「だから、私も含め皆で強くなろうって隠れて努力してたんだ。そしてその努力が今身をむすんでるってわけ」

「なるほどな……やっぱ人間の成長って恐ろしいわ」


そう言いながら、また襲い掛かる狂人を一体殴り倒した。


それからしばらくして、遂にすべての狂人を倒すことに成功した。


「やっ……やっと終わった……」

「疲れた……」


全員が異能の酷使に疲れ、肩で息をするものやぐったりと地面に倒れれいる者もいる。


「でも、扉は開かないね」

「恐らく……次で最後だろうな」


凛が見据えたその先から現れたのは、今まで現れたどんな狂人よりもガタイが良くそして大きい殺意もどす黒さを超越したかのようなものを放つ狂人だった。


「どうする……僕ら全員体力が……」

「後は俺に任せろ」


水城の言葉に対しユウキは立ち上がってそういった。彼はそのまま巨大な狂人をしっかりと目に捉え一方のその狂人は大きな叫びと共に足踏みで地面を揺らして鳴らしながら襲い掛かる。


そしてユウキの眼前に来たところで、右の大ぶりの拳を繰り出した。それを難なく避けたユウキは大きく息を吸い、一気に吐くと共に


「おらっ!」


青いスパークの纏われた強烈な拳の一撃をその腹に炸裂させた。衝撃波と青い雷電が室内全体に伝播し、腕がめり込んだ狂人の身体はそのまま壁の方へと吹き飛ばされて一発で撃退された。


「………ユウキ、やっぱりお前って凄いな……」

「そうか?」


水城の称賛にユウキはそう反応した。


すると、先ほどまで開かなかった扉が独りでに開いた。


「……開いた……」

「………………」


全員はそこから走ってそのドアの方へと駆け出していった。ただただ長い一本道をずっと走り続ける事数分、遂に光が道から見え始めた。止まることもなくそちらの方へと行きその光を超えたその先には――――


まるで王宮なのではないかと思わせるような、まるで城の謁見の間のごとき場所であった。見上げたその先には玉座がありその更に上の場所には―――――


「姫奈!」


そこには白い布一枚の服を着た天詩姫奈がそこにいた。手首を鎖でつながれた彼女の髪は切らずに伸ばし続けたせいか彼女の身体と同じくらいにまで伸びていた。彼女の存在を確認したユウキはすぐさま助けに行こうとするものの、それを誰も座っていない玉座のそばに立つ人物に制された


「おいおいおい、ちょっと待てよ」


そこで駆け出したユウキの足が止まる。その声がした方向、玉座の方へと目をやるとそこには彼らに背中を向けた状態の男がいた。


「まずは、ここまでこれたことを褒めてやろうじゃねえか。あの薬物の過剰摂取で頭も体もいかれたあいつら相手にここまでこれたのは素直にすげえと思うぜ」


雑な拍手が、広いこの間に響き渡った。


「さて、というわけで。ここまでの頑張りを褒めてやったところで、一つ質問コーナーと行こうか」

「質問コーナー?」

「そう。と言っても訊きたいことは一つ、君ら、俺を誰だかわかってるのか?」


その質問をすると、ユウキは一度口をつぐむがすぐに思ったことを口にした。


「有馬だろ。わかってる……」

「……………」


沈黙が轟く。

水を打ったかのような静けさがこの場に現れる中、突然の笑い声によってその沈黙はかき消されることとなった。


「…ははははは。はははははははははははは!ははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」


突然と響き渡ったその気持ちの悪い笑い声に全員が恐怖を覚え、同時に本能的に感じる狂気さにも同じ感情を抱いた。


「そうかそうか、じゃあやっぱりの作戦は成功していた様だね」


藪から棒に、一人称が変わり言葉遣いも変化した。その変化に違和感を覚るが、そんな全員をよそに上にいたその男は階段を一つ一つゆっくりと降りていく。


「なっ!?」

「嘘っ……」


顔を向けて見えたその顔に、誰しもが戦慄の表情を浮かべる。


「僕の作戦はそれだけ素晴らしかったという訳だ。自画自賛したくなるよ」

「な、なんで……」

「……嘘……」


そしてついに階段を降りきり、凛らと同じこの地面へと足を下ろした。そこで、戦慄し、そしてなにがなんだかわかっていないユウキは震えた声で言った。


「な………なんであなたが………」

「そんなの決まってるだろう?僕が黒幕だからさ」

「ほ……本当にあなたが、黒幕なのか……本当に……あなたが!」


ユウキは目尻に涙を浮かばせて叫んだ。


「なぁ!!」


本当の黒幕は、彼にとって最も世話になっている、最愛の先輩だった。










今日中と言っておきながら日をまたぐ形になってすいませんでした。さて、この章も徐々に終わりに近づいています。ここまで付き合ってくださってみなさまには感謝しかないです。


これからもどうぞよろしくお願いします。

良しかったらフォローや☆の評価の程をよろしくお願いします。

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