第9話 強者とその上に立つ者

180はあるだろうその高身長に金髪、そしてワックスで上に掻き上げられた前髪とひときわ目立つその男は、ポケットに手を突っ込んで不敵な笑みを浮かべながら一歩、また一歩と風真との距離を詰めていく。


水を打ったかの様に静かになった空間で彼の顔に浮かべられた笑みは変わらず、風真の眼前にまで歩み寄った所で鋭いその眼を彼に向けて言い放った。


「なあ、次は俺とやろうぜ」

「……君は、有馬ありま君、だったね」

「ああそうだ。まさか有名な先輩に名前を知っていただいているとはなぁー」

「今、君のことを知らない人はそういないと思うよ」


風真はその実力故に、学園内ではちょっとした有名人の一人である。だがしかし、その一方でこの男、有馬竜次ありまりゅうじもまた学園内じゃかなりの有名人であった。


その理由は言わずもがな、その容姿とそれにそぐ合った性格故にこの学園でも稀の不良として、一際目立つ存在として名を広めているのだ。


人口に膾炙する風真の一方でありまはむしろ逆、その容姿と素行の悪さから悪辣な評判と噂が後を絶たないのだ。しかし本人はそんなことを気にしている素振りもない。


「そんじゃ、早速やろうぜ?せんぱ―――」

「おい、ちょっと待てよ有馬」

「……あぁ?」


二人の間に現れたのは先ほどまで風真と戦闘を行っていたユウキである。彼は有馬を少しにらみつつ口調を濁らせてケンカ腰で彼に言い放った。


「風真先輩の代わりに俺がてめえと戦ってやるよ」

「はぁ?なに馬鹿な事をほざいてんだよてめえ。三下がしゃしゃり出てくんなよ」

「ああ、三下だ?てめえは一体いつの話してんだよ。てめえに負けたのはあの時だけ。今となっちゃてめえは俺より弱いだろうが」

「ああ?」


実を言うとこの二人、一年だったころに一度だけ対戦を行っておりその際は熱戦の末に有馬が勝利を手にした。これはユウキがクラスで上位に入るほどに強くなることとなったその理由の一つでもある。


二人が共にガンを飛ばし合っていると、そこに仲裁の風真が現れてユウキの方へと首を振った。


「風真先輩……」

「大丈夫だよ、僕が戦う」

「…………」


ユウキはそこで身を引いた。有馬は嬉しそうな顔をしながら「わかってるじゃねえか」と言って、


「それじゃあ、早速始めようぜ」

「ああ」


二人が闘技台に登壇し、そして距離を取ると風真と有馬は共に対面する。風真は真剣な顔付きで、有馬は未だ不敵な笑みを浮かべている。


先程の熱は一体どこへ行ったのか、この場はもうただただ静かなばかりである。


その傍らで、


「あいつ、クラスで結構印象強かった奴だな」

「有馬のことね。まあ、あの素行の悪さを見れば印象に残るのも無理はないわ」


凛が初めて教室に入った際、クラスメイトそれぞれが静かに椅子に座っているその中で、ただ一人有馬だけは机の上に足を乗っけて椅子に体を預けるようにしており、その素行から少しばかり他の人物と比べて強く印象に残っていた。


また、今日行われた三時間目の異能の授業の際もただ一人、隅で寝ており確実に不良の類であることは凛も想像はついていた。


「どうやらバトルするみたいだけど………実際のところ、有馬?は強いのか?」

「……答えるよりもその目で見た方が早いと思うわ」


緋乃がそう言って闘技台の方に指を指し、凛がその方に目を向けると、既にそこでは戦闘が幕を開けていた。


凛が目を向けたその瞬間、有馬の鋭い突きが風真に向かって放たれた。細長く伸ばした手で空気を穿つように放たれたそれを、風真は横に体を傾けて避けると実力の読めない相手だからか一度様子を見ようと蹴りを繰り出す。


すると、それを有馬は軽々と掴んだ。

そして彼の顔から――――先ほどまでの笑顔が消えた。


「おい……なめてんじゃねえよ、てめえ」


目つきをより鋭くさせて、有馬はドス黒いオーラを放った。それに冷や汗が頬に伝う風真は掴まれたその足を振り払って強引に取り返すと、有馬は尚も続けて言った。


「これ以上、なめるようならてめえ、どうなっても知らねえぞ?」

「……安心してくれていい。もう僕は君のことは決して侮らない」

「へえ、じゃあちゃんとかかって来いよ!」


有馬は足を力強く踏み込んで駆け出した。風真の方に向かって行き、彼が腕を振り上げるとその腕が白いオーラに包まれていく。彼の異能、“身体能力強化”である。それによって鬼に金棒、力強いその腕に更に凶暴な力が加わり打撃を振るう。


それに対する風真はゆっくりとその拳を受け止めるために右手を挙げて、それに有馬の一撃が入ろうとした時、骨を折る勢いで放ったその一撃を彼は受け止めていた。しかもそれは触ることもなく。


「なっ」


驚きを見せる彼のその拳に感じる感覚は押し寄せる風の様なものがあった。


「例え弱い風だとしても、攻撃を受け止める程度の力はちゃんと持ってるんだ」


右手から放っていた弱風を強くして強風へと変貌させると、その勢いでカレの拳が上へと上がる。そこのスキを狙って今度は有馬のガラ空きの腹に左手を添えるとそこから強い衝撃をそこに加え強い痛みを彼に与えた。


有馬が衝撃で後ろへと飛んでいき着地をすると、「チッ」と舌打ちをして腕を横に添えて構える。すると、その腕が徐々に徐々にと形を変えていき、そして終いにその腕は肘関節よりも前の辺りから銀色に煌めく剣へと姿を変えていた。


それを見た凛は驚きを隠せなかった。


「腕が剣に変わった?じゃあさっきの身体能力の強化らしきあの異能は一体……」

「あんたもしかして知らないの?」

「?、何がだ?」

「異能を二つ持つ者がいるってことよ」

「……は?」


先ほどと同様に、その顔に驚愕を浮かべた凛は自分の知る限りの異能についての知識を振り返る。未だ謎が多く解明もすらされていないその異能だが、そんな異能でも唯一立証されるとされていた立説は、“異能は一つしか持つことができない”という事だ。


異能が生まれてから長い年月を経た日本で唯一判明していたこと、それこそ異能を持つ者は皆異能は一つしか持っていないという事だった。のだが、現在になり異能を二つ持つものが続出し始めているのだ。


そのためその説も立証されることはなくなった。


――――――まさか、オレが異世界に行っている間にそんな大発見までされていたとは……


凛は内心でそう呟いていた。


「本当かって聞きたいところだけど……この眼で見てるしなぁ……」

「隣にも、異能二つ持ちがいるしね」

「ああ………え、お前も?」

「ええ」

「ええ……」


同じ言葉の様で少々ニュアンスの違う言葉を放つ凛、そして心の中で彼女は大抵なんでもありかなのか、と呆れていたり感心していたり。


「それにしても、あいつも中々の実力者みたいだな」

「有馬君は一応この学園に四位で入ってるからね。確実に猛者であることは確かだよ」

「ふむ……」


恐らく、学年が上であるために経験も含めて勝つ確率はあきらかに風真の方が高い。しかし、四位でこの学園に入ってきた相手、故にその勝敗の行方もそう見当がつくわけもない。


だから、今は一人の傍観者として凛は観客席でその光景を見届ける。


腕が剣へと変化した有馬は次の瞬間に飛び出して猛烈な勢いで風真の方へと突進していく。彼との距離を縮めていくと、その腕を大きく上げて彼の身体に目掛けて剣を振り下ろす。


それを避けて距離を置くとすぐさま有馬はその方に顔と身体を向けて、今度は横薙ぎの一閃を空振りする。一瞬何をしたのか理解ができず風真は呆けたがしかし、飛んでくるそのを感じ取った彼はすぐさま突風を放った。


すると、その突風に対抗するように何かがそれとぶつかり合う。

その勢いのあまりに一度それを蹴り上げると天井に切り裂いたような跡が付き、そこから風真はその攻撃が有馬から放たれた『飛ぶ斬撃』であるとこが分かった。


「今のはよく、耐えたな。だが、次は同じようにはいかねえ―――――」


彼は両腕を大きく振り上げ、


「ぞっ!」


刹那、両腕を交互に振り続け数多の斬撃を次々と風真へと襲わせる。地面を削りながら飛んでくるそれに焦るような表情をすると、腕に回転する風を纏わせてそれを次々と弾いていく。風真も必死なのか、周りにそれが次々と吹き飛んでいき観客も避難しざるを得ない。


焦りを覚えながら必死に逃げるそんな観客をよそに、二人の戦闘は未だ続く。なんとか全ての斬撃を弾ききった風真は息を落ち着かせようとするが、そんなことなど知ったことではなく、むしろ好都合の有馬は彼との距離を一気に詰めて上から斬撃を繰り出した。


それを横へと跳躍して避け、受け身を取って着地するものの有馬の攻撃は止まらずむしろその勢いは増していき、どんどんと風真は追い詰められていきその必死さも分かりやすく顔に浮かんでいる。


「ど、どうしよう……風真先輩、どんどん追い詰められてる……」


凛の隣で不安げに呟く鈴見だが、今の凛にはそれが聞こえておらずそれくらいに今のこの戦闘に見入っていた。


有馬は両腕の剣を振るい続けそれを風真は必死に弾き続けていたが、その時有馬は相手にできた疲労によるスキを見逃さなかった。それを見定めた彼は獲物を駆る狩猟の目をし、とどめを決めようとかかった。


観客が皆、風真の敗北を予知したその瞬間に、突如として有馬の胸部に緑色の玉が出現した。これに、油断していた有馬は突然のことに呆けてしまうが、風真は勝利を確信して笑みを浮かべた。


「ずっと溜めてるのに時間がかかったよ。でもこれで終わりだ」


刹那――――その球が爆ぜた。

圧縮された風が一瞬で放出されそれが有馬に襲い掛かる。強力なその攻撃に有馬は勢いよく吹き飛ばされ、室内の壁に激突しそのままずるずると壁に背を預けたまま落ちていく。


勝者、風真将人―――――


「やった、勝った!」


先ほどの不安の顔が吹き飛び、鈴見は飛び上がって喜んでいるその一方で、乾いた眼を瞬きさせて潤いを取り戻させる。瞬きもせずに見ていたのだから随分と見入っていたものだ。


やはり、、どのようなモノかは気になる。凛もこの戦闘に目を奪われていたのだった。次々と風真先輩の元に人が集まろうと駆け寄る人がいる中、壁のそばで有馬が叫んだ。


「おい!」


そこで、観客はみな動きを止めてその方を向いた。風真もまたその方を向くと続けて有馬は言う。


「確かこのコロシアムには、勿論“殺すような行為はするな”ってルールに書いてあったよな?」

「そうだね」


風真が反応を見せると、有馬の顔にはまた不敵な笑みが浮かび上がった。


「でもよ、ルールなんて結局、破るためにあるんだよな」


有馬の身体全体に白いオーラが纏われたと思えば、その瞬間に彼の姿はもうそこにはなく風真の目の前にまで迫っており、そして腕の剣を突き刺すような構えで有馬は彼を確実にしていた。


そして、剣の刃が彼の顔に届こうとしたその時―――――――――――――――――その腕はもう止まっていた。


有馬は、身長173と少しの身長差がありつつも凛に羽交い絞めにされ、腕は緋乃の手によって止められていた。


「それくらいにしておけ」

「殺したところで、意味なんてないわよ」


二人がそう言うと有馬が力を抜いたことを確認した凛と緋乃は、その束縛を解いた。その直後にすぐさま、凛に向かって剣が振るわれそれを緋乃が片手で剣を指で挟む形で受け止めると、彼女は彼の目元に人差し指と中指突き付けて言った。


「あんたは確かに強いわ。でも、それよりも上に立つ奴なんていくらでもいるのよ。自信過剰になって慢心しきってないで、出直して来たらどうかしら」


緋乃は威嚇するような目つきで有馬に向かって言い放った。

しばらくして、黙り込んでいた彼は掴まれていたその腕を強引に離させるとその腕を元に戻し、それをポケットに戻すと舌打ちを最後に室内から出てていった。


沈黙が響き渡る。


それからすぐに、全体が騒ぎそして興奮し震えた。


「よっしゃあああぁぁぁ!」

「怖かったあああああ!」


有馬が居なくなったことの喜びで全体が喜びであふれていた。


「……緋乃、お前かっこいいな……」

「ふふん、でしょ?」

「いやどや顔すんな」


せっかくのかっこいい姿が台無しだぞ、とでも言いたくなったがそれでも先ほどの姿がカッコよかったのは確か、風真に感謝されていたり、鈴見に抱き着かれてたり、そんな緋乃に、凛はもう何も言わなかった。


何はともあれ、事態は収拾されたのだった。









主人公だけじゃなくて、そのほかのキャラの戦闘も需要があるとわかっていただけると幸いです……

でも、自分自身も早く凛の戦闘を書きたくてうずうずしていていつの間にかこんな時間に……本当にすみません。


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