第8話 放課後コロシアム

「う、うまそう……」

「だろ?見た目だけじゃない、ちゃんと味も一流の逸品だぜ。早速食ってみろよ」

「お、おう」


凛はトレイに並べられたカレーを銀色のそのスプーンですくって自身の口の中に運ぶと、そこから口全体に広がるのはほのかな辛みとあっさりとしたまろやかさ、まさに逸品と言える味であった。これには思わず凛も叫ばざるを得ない。


「うんまっ!!なんだこのカレー、今までに食べたことのない味してるぞこれ!」

「だろだろ!?まじでうまいんだってこれ!」


凛の食す手は止まることを知らずドンドンとお皿に盛られた特盛のカレーがみるみると減っていく。現在、先ほどの三時間目を終えてお昼休憩、学園内にある巨大な食堂に凛はユウキと足を運んでいた。


現在テーブルで食しているこのカレーは桜京学園でも生粋の人気を誇るメニューである「絶品!桜京カレー」という少しネーミングセンスを伺いたくなるような名前をしたもので、だが人気があるだけに見た目はA級、味はSSS級という逸品である。


これは毎日メニューにあるものの、品数の限られたものでこれを食べることができるかは時間との闘いである。


ユウキは是非凛にこのカレーを食べさせたく、着替えを終えた瞬間に凛を引きずり回しながらここへと超特急でやってきて無事カレーを手に入れることができ、現在それを食べている次第である。


テーブルの端っこで食べる凛の反対側に座るユウキもまた同じ様にそのカレーを頬張っている。


そんな二人のもとに現れたのは、一人の少女であった。


「二人とも、凄い勢いで食べるんだね」

「「ん?」」


二人が向いたその先に立つその少女は鈴見音々、その人であった。

相変わらずのサイドテールに結ってあるその髪を揺らしながら、彼女は言った。


「相席いいかな」

「おう、いいぜ。な、翔?」

「ああ」

「ありがとう。じゃあ失礼しまーす」


そう言ってユウキの隣の席に座ると、早速トレイに置かれた料理の品を食べ始めた。しかしその品はカレーではなく、とんかつ定食であった。


「鈴見はカレーじゃないんだな」

「うん、やっぱり着た頃には売り切れてて……二人は物凄い速度で食堂に向かって行ったから、カレーはちゃんと手に入ったみたいだね?」

「オレの場合、コイツに引っ張られてきただけだけどな」

「あははー、ごめんな翔」


まあ、こんなにもおいしいモノを食べさせてくれたわけだしと、あまり気にしてはいない凛であった。


「そういや、今日のお前凄かったな」

「何が?」

「そりゃあ決まってんだろ―――――」

「緋乃さんのあの一撃を避けたことだよ!」

「おっと俺の台詞セリフを言ってくれてありがとう、鈴見」


そう、彼女らの言う事は十中八九、三時間目に行われた授業の中で緋乃の攻撃をかわしたことであった。


「あれのことか?何度も言うようだがあれは本当にまぐれだったんだよ」

「それでも凄いと思うよ。緋乃さんのあの攻撃、初手で読める人なんてそういないし」

「ああ、ありゃ凄いと言わざるを得ない」

「ええー……」


凛の反応の薄さに自分がやったことの凄さを教えるために顔を近づけながら発言する。


「緋乃さんはこの学園に次席で入ってきた物凄い人なんだよ!?それをまぐれだとしても最初から避けたんだから凄いと思うよ!」

「そうだぞ、もっと胸をはりゃいいのによ」

「いや、なんか調子乗ってるみたいでなんか嫌なんだが」


凛は二人の言葉にドライに返すと、「でも」と続けて、


「あいつが強いのは最初からなんかわかってはいたんだよな」

「ん?そうなのか?」

「ああ。なんというか、彼女からあふれるその実力者の風格と言うのか、プレッシャーというのか、強い奴にしか出ないような何かを発していたんだよな」

「そりゃあ意識してるからね」


ふと横から声が入ってきた。

噂をすれば、というのはこのことを言うのだろうか。その方を見ればそこにいるのは、張本人である緋乃結希音であった。彼女は「相席してもいいかしら?」と訊くとそれに凛たちが頷くと、凛の隣の席に座った。


「私はいつもなめられないように、そういう雰囲気を出してるのよ。でも、それに気づくやつはそういないけどね。精々感覚が鋭い奴くらいしか気づかないわ」

「なめられないようにって……昔なめられたりしたのか?」

「別にそう言うことじゃないわ。でも、相手になめられるとなんか凄くイラっとするのよ」

「確かにそれは同意だな」


凛だって、異世界に召喚されて旅をするなかで盗賊に襲われた時、そいつらになめられた態度を取られた時、無性にムカついたのを覚えている。


「それにしても、あんたセンスあるのね。感覚が鋭かったり俊敏性が高かったり」

「そう?」

「ええ。もう放課後のコロシアムに出てもいいんじゃないかしら」

「確かに、出ても問題ない位の実力は持ってるな」

「いいかもねそれ!」


緋乃のその言葉に対して同意を見せる二人に対して凛は「放課後コロシアム?」と一人首をかしげており、それを見たユウキは一度それの説明をしようとするものの、それを止め、


「詳しいことは放課後にだな。を見りゃよくわかる」

「そう、か?」

「そうだ。今日の放課後は時間あるよな?」

「ああ、勿論あるけど……」

「なら決まりだな」


こうして凛は、その「放課後コロシアム」なるものを知るために放課後に学園に残ることになったのだった。






       ※       ※       ※







放課後、凛が訪れたその場所はすでに人が多く集まっており、その真ん中には大きな闘技台の様なモノが設置され、そこで人が戦闘をしそれを周りの観客が興奮しながら見ている。熱気は凄いモノだった。


訪れた凛、ユウキ、鈴見、緋乃の四人の内のただ一人凛はあっけに取られたように、


「こ、これは……?」

「これが“放課後コロシアム”よ。学年問わず、男女問わず、闘技台で一対一で戦闘を行う催し。やりたい奴は言えば普通に試合をさせてもらえるわ」


こういうことを言っていたのかと、凛は内心で少し驚いていた。


「相変わらず凄い熱だね~」

「だな~。おっ、試合終わったみたいだな。じゃあ俺行ってくるわ!」

「お、行ってらっしゃーい!今日こそは勝てるといいね!」

「おう、勝ってくらぁ!」


鈴見とそんな風に会話を交わすと、ユウキは闘技台の方へと向かって行った。どうやら、彼もこの放課後コロシアムで戦いを繰り広げるつもりらしい。


「あいつはよくここで誰かと戦ってんのか?」

「うん、そうだよ!ユウキ君にはお世話になってる先輩がいてね、その先輩といつも……おっ!始まるみたいだよ!」


鈴見がそう言うと、その通り闘技場の上にはユウキともう一人の先輩らしき人物が上がっており、その周りには更に多くの観客が集まっていく。その人だかりの出来ように、この二人の戦闘が有名だったり人気があったりするという事を凜に知らせてくる。


「ここじゃちょっと見えにくいわね、少し見やすいところに行きましょ」


緋乃の提案に頷くと、横にある観客席(使われることはそうない)に座ってその試合を見届けることとなる。闘技場の周りがより一層盛り上がっていき熱も上がり続ける中、闘技台に上がっているユウキの顔は不敵な笑みである。


「今日こそは、勝たせてもらいます。風真かざま先輩!」

「やれるものなら、やってみるといいよ……ユウキ君!」


この“放課後コロシアム”、仕切る者はいないため試合開始の合図もあるわけがなく、本人たちのタイミングで始めることとなる。仕切る者はいない、と言っても学園長である美鈴が、このコロシアムを推奨しそして時間になれば帰るように放送で伝える様になっている上に、ルールも備わっているため問題ごとが起こることもない。


―――――閑話休題―――――


ユウキと対立するその青年、風真将人かざままさとの二人は同時に駆け出した。感覚が狭まる中で二人の手にはそれぞれに、自身の能力を発動させた。


ユウキの手には青い雷電が迸り、その一方で風真の手には螺旋状を描くように風が生み出され纏われている。


「「はぁっ!」」


二人の重なる叫び声と共に、互いの能力が放たれてそれが強くぶつかり合って空間全体を震わせる。


凛は襲いかかる突風を腕で顔を庇って防ぎつつ、薄目で闘技台の様子を改めて見る。すると、そこで行われているのは白熱した戦いであった。


ユウキの鋭い拳の突きを紙一重で避けると、相手の風真はスキの出来た彼の腹部に生み出した風で攻撃を加えようと試みて、先程と同様螺旋状の風を纏わせてそれを放とうとする。


だが、しかしスキが出来たそれこそが風真にスキをつくる鍵となる。


「っ!?」


ユウキにその攻撃を打ち込まうとしたその直前、その彼の手に青色のスパークがはしり、作られた手刀にそれに纏われると豪快に風真に向かって振り下ろした。


風真はそれに間一髪で気づき、体を無理矢理動かして避けようとするものの一足遅く、肩にその手刀が炸裂する。


強力な攻撃に歯を食いしばり我慢しつつ、風の発生させ応用を用いてそれの衝撃波を放ち、ユウキの腹元に浅い凹みができ、直後に彼は一定距離まで飛ばされた。


着地は出来つつも腹には激痛がはしり、胃から逆流してきそうな液体を何とか抑えつつ、立ち上がって虚勢を張っていく。


「先輩、どうしたんですか…………全然本気出してませんね………」


虚勢と言っていいものか、どちらかと言えば挑発と言った方が信憑性の高いその言葉に対して、あえて風間はそれに乗っていく。


そして、この二人の戦いにおいていつもこれで決着のつくこととなる、そので彼を沈めようとする。


「それなら、僕の本気の一発を放ってあげようじゃないかっ!」


次の瞬間、風真の辺り一帯が暴風で包まれそれが彼の眼前で巨大な槍へと変貌していく。それを見た闘技台のそばにいた者たちが、皆次々と離れていく。


「やべえっ!いつもの来るぞ!」

「避難するんだ!」


それを聞いた凛は、


「随分と騒がしくなってきたな」

「闘技台の周りにいると危ないからね、その理由も見ていればよくわかるよ」


鈴見の言葉を受けて少し緊張のする凛は唾をゴクリと飲み込んで、何が起こるかをこの目で見ようと刮目する。そして、形作られていった槍が巨大になるまでに成長すると風真はそれをユウキに向かって放った。


対してユウキは、


「今日ばかりはいつもとは違うぜ――――っ!」


その風の槍が彼に激突するかと思われたその直前に、ユウキは掌底の形を作ったその右手に先ほどに比べてより強いスパークを奔らせ、それでその槍に対抗する。迫りくる突風の槍に必死に抵抗するかの如くユウキは自身の力の全力を振り絞ってせめぎ合い、それは闘技台全体を、そして周り一体にもとてつもない衝撃と風が襲っている。観客が避難したのはこれを避けるためだった。


「………ぉおおおおらぁあぁぁぁぁっ!」


ユウキの発した気合の一声。

これはいけるか?とも思われたがしかし、やはりそう甘くはなく次の瞬間その槍に打ち負けたユウキはもろでその攻撃を喰らい、闘技台の外へと吹き飛ばされて落下した。


伊龍ユウキと風真将人のこの勝負は今回も風真の勝利で幕を閉じるのだった。


「ちぇーー……今日も負けたかーーー………」


満身創痍の状態であおむけで倒れながら、ユウキはそんなことを述べていた。

この一部始終を見ていた三人はそれぞれ言う。


「あちゃ~、これで三十敗目かー」

「三十敗?そんなに戦ってるのか?」

「うん、そうなの。今日は惜しかったから次こそはいけるかも!」

「……だな」


そう言った後、凛は独り言ごちに言った。


「にしてもアイツ、あんなに戦える奴だとは」

「ユウキ君はすごく強いよ!クラスじゃ上位に軽く入る実力者だもん」

「ええ、一応強くはあるわよ」

「……なんだその上から目線…」

「私の方が強いもの、当然よ」

「……さいですか…」


まあ、本人がそれでいいならいいのだけど、と凛はひとまずそのことは置いておく。同時刻に、負けたユウキの元に風真は歩み寄って手を差し出した。


「今日はもしかしたら負けるかもってひやひやさせられたよ。また強くなったね」

「ありがとうございます……次こそは―――――負けませんよ」


その手を取ってユウキは立ち上がってそう言った、いつも、二人が戦い合った後はこうして楽しく笑い合いながら終える。これが一番平和でそして心地よい。


だがしかし、今回ばかりはそれも長くは続かなかった。


避けていた観客の集まりがザワザワとざわめき始める。一体何事かとその方を見ると、その集団は道を作るかのように捌けていき出来上がったその道を歩いて現れたのは、2-Aで凛が唯一見つけた不良少年、有馬竜次ありまりゅうじであった。












あとがき失礼します。

今回の話を機に、コメントの返信をし始めようと思います。

感想・コメントをくださると幸いです。








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