第6話 クラスメイト
テストが終わったので、更新再開します。
久しぶりに書いたから、出来栄え心配…
これから凛の通うこととなるクラス、2-Aのそのドアの前。凛は一度右手を胸に押し当てて緊張に歯止めをかけ、置いていたその手を伸ばしドアをスライドさせて中へと入室する。一歩ずつ足を踏み出していき、教卓の前にまで行き前を向くと教室の中を見渡すことができた。
人数はざっと二十人といったところで、男女は共に半々と見当がついた。
「はーい、みなさん!今日からこのクラスに新しく一人の新しいクラスメイトが転校してきました!おめでたいですね!それでは早速自己紹介をしていただきましょう!」
「
無難に、けれど声は通常よりもいくらか大きく彼は自己紹介をした。決して暗い印象だけは持たれないようにと、意識はしていなくとも中学の頃からそう思っていた彼の無意識で出した声による自己紹介だった。
それ以前に、凛は元より他人に比べていくらか声の通りやすい声の持ち主でもあるため、クラスの皆は彼に対して暗い印象は持たなかった。
自己紹介を軽く済ませた凛に拍手が送られそれが静まると、担任のひよりはにっこりと笑って元気溌剌といった風な声で言った。
「はーい皆仲良くしてね!翔君はそこの窓側の空いている席に座ってね!」
それに頷くと机の間を通っていきながら、指定された席である窓側の一番後ろの端の席に座った。
「はーいそれでは早速授業をはじめまーす!今日は午前授業だから皆がんばろー!」
ひよりが拳を上げながらそう言い、クラスの生徒は「おぉー!」と声を出している者もいれば静かにしている者、机に脚を乗せて聞く耳を持たない人物もいる。どうやら人の種類は色々といるらしいく、それもまた随分と濃さそうだと凛は悟っていた。
ふと、前の席の少年が後ろを向いて凛の方に顔を向けてきた。顔は極普通の少年といった平凡な顔立ちに髪色は黄色に近い金髪で所々には青髪の混じる独特な髪色だった。
一瞬だけ身構えた凛であったが、それに反して前の彼は表情を崩してにっこりと爽やかな笑みを浮かべた。
「俺は
「……おう。こちらこそ、よろしく」
その彼の態度に身構えた身体を解いてそう言った。すると、ユウキは自身の手を凛の前にまで持ってきて、
「ほれ」
「?」
何をしようとしているのか、見当がつかなかった凛だったがひとまず同じ様に手を前に出すとユウキはその手を力ずよく握りしめ、凛に改めて笑みを見せた。
「よろしくなっ!」
「…おう…」
ユウキはその後、凛の手を離すと前に向き直した。
彼がそういうノリのタイプであることがわかった凛であったが。彼にとってそれは全く嫌ではなくむしろ好ましく思った。
異世界での一年では感じることのなかったこの感覚、同年代の友達ができることはあっても、それとこの感覚は全く違う。
手に残る握った手のその余韻。
これは“青春”というものなのだろうか、と彼は思った。
流石はトップクラスに値する、学園の授業というべきか。
それとも、ひよりの授業がすごいのか。
何はともあれ初めて受けたその授業は、今まで受けてきた授業とは別格の授業であった。
最初にでてくるのはその分かりやすさ。
難しい内容に関しては、例えを用いたりして伝えやすくしてくれるため頭の中にもすんなりと入ってくる。
これには、能力の授業にますます期待が沸く凛であった。
さて、そんなわけでいつの間にか授業は終了しており、もう帰宅時間にまでなっていた。
使った筆記用具と教材をカバンの中にしまって、自分も家に帰るかと咳を立った時彼に声をかけたのは前の席に立つ人物、ユウキだった。
「なあ、翔……って呼んでいいか?」
それにコクリと凛は頷く。
「よし、んじゃ翔。改めてになるけど俺は伊龍ユウキ、気軽にユウキって呼んでくれ」
「ああ、よろしく。ユウキ」
「唐突でわりいんだけど、今って時間あるか?」
「?まああるけど」
「なら良かった。今からこの校舎を案内しようと思うんだけどいいか?やっぱこの校舎って広いから、今のうちに一通り回っておいた方がいいと思うんだけど」
「それはありがたいけど……いいのか?」
「おう。俺も最初はよく迷ったからなぁ、それを思うとそういう目にあってほしくねえしな」
「……そうか。ならお言葉に甘えて頼むとする」
「おう!」
嬉しそうにユウキが言うと早速教室を出て、二人は校舎の中を廻り始めた。彼は凛に一か所一か所を丁寧に説明するように廻ってくれ、また近道だったり迷うわないための目印だったりと、至れり尽くせり凛に教えてくれた。
これには思わず凛もその人の良さに、一瞬怖く思ってしまったがそれは失礼だとすぐに頭から流していった。
そうして、時間も経って案内するべき場所もあとわずかとなって、
「さてっと……」
突然、廊下のど真ん中でユウキは足を止め、それに凛も後に足を止めた。
「どうした?」
「さて、ここまでお前に案内させたのには、少し訳があったんだが……いい感じで時間稼ぎにはなったみたいだな」
ユウキは自身の携帯端末を見てそう呟く。
何の話か検討のつかない凛は疑問を浮かべた。
「……なんの話だ?」
「それは……行ってからのお楽しみだな」
「?それはどういう―――――――っ!?」
すると、突如凛は目隠しをされ、視界を封じられる。すると、凛は体をひもで縛られて神輿を担ぐように知らない誰か二人に持ち上げられた。
「なっ、おい!てめえ!」
「おっと動くなよ!落ちたらあぶねえだろ!」
凛は為すすべもなく担がれて、そのまま運ばれていく。
――――――まさか、オレこのままクラスの奴らにリンチにされていじめられる!?
凛の不安など、担ぐ者たちには知る由もなかった。
※ ※ ※
ドアを開くや否や、聞こえてきたのはチリンチリンとなる鈴だった。
耳でどこかに入ったことを感じ取り、少しばかり感覚を研ぎ澄ますとこの室内から凛の鼻孔に香るその匂いは、独特でほのかに苦みを感じるそれ。
それはコーヒーの匂いだと確信した。
それに加えて先ほど聞こえた、鈴の音。
この二つで彼は自分が今どこにいるのかを確信した。
入室してからすぐのこと、担がれていた凛はそのままとあるソファーにゆっくりと降ろされた。
それから横からの人影を感じ、その人物が凛の目隠しを外すと目を隠されていたせいで少しでも光が眩しく、一度強く目をつむるがその後ゆっくりと目を開けると――――――
「司波翔君!ようこそ、2-Aへ!」
前に立つ、一人の少女がそう言うと周りに集まっていた2-Aのクラスメイトの皆が手に持っていたクラッカーを鳴らした。凛は最初、何が起こっているのかよくわからなかった。だが、辺り一面を見渡し部屋の飾り付けを見て、そして先ほどの言葉とあのクラッカーを思い出して、やっと彼は何がしたかったのかを理解した。
「いやー、歓迎会を行うのに部屋の飾り付けがまだできてなかったから、時間稼ぎしてもらって助かったよ、ユウキ君!」
「おう!間に合って何よりだぜ」
その少女とユウキは軽くハイタッチを交わした。
この凛が新しく入ったこのクラス2-Aが彼に隠して企てていたのは、他でもなく凛の歓迎会である。それを昨日の夜から、この場所で飾り付けを行い凛を迎える準備をしていたのだが、時間がなく間に合わなかったのだ。
そこで、ユウキが凛をなんとか学校に残して時間を潰させて飾り付けの時間を稼いだのだ。
元より、ユウキは友達をたくさん作りたいと思っている人物でもあったので、彼にとって転校生の凛と仲良くなるのにはちょうど良かったため、この時間稼ぎ役を名乗り上げたのだ。
最終的に、任務は遂行できたので先程のハイタッチは勝利のハイタッチであった。
が、しかし。
「……えっと、ユウキ。一ついいか?」
「なんだ?」
「オレを担いでここまで連れてくる、ということを考えたのは誰だ?」
「ん?こいつだけど」
そう言って、隣にいる少女を指さした。すると、凛はソファーから立ち上がり彼女の方にまで近づくと、右手を挙げてその少女の頭を鷲掴みにしてアイアンクローをした。
「いたたたたたたたたっ!!ちょっと!何するの!?私たち初対面だよね!」
「関係ない!もっとましな連れてくる方法があったはずだ!なあ、ユウキ!」
今度はユウキの頭を同じ様に鷲掴みにする。
「いてててててててて!!おい!なんで俺もなんだよ!」
「もっとましな案をだすべきだったはずだろうが!」
「いいじゃねえかよ!なんか面白い絵になりそうだったし!」
「反省の色がないようだなっ!」
「痛い!痛いって翔!」
「お前ら二人には制裁を加えてやる!」
それからしばらく、凛は二人の頭を掴み続け制裁しており、それを見て周りは「普通にしておけば良かったのに……」と少しばかり呆れる様子を見せるのだった。
それから、気の済んだ凛は二人を開放して先ほどまで座っていたソファーの席に座った。それの対面に置かれた二つの椅子に、二人は座った。
「まじいてえ……」
「もう……痛いよ翔君……」
「自業自得だ!まじで怖かったんだからな!クラスのみんなでオレのことリンチにするんじゃないかって、めっちゃ不安だったんだからな!?」
「うう、ごめんなさい……」
「…ま、この歓迎会に関しては素直に感謝してるんだけどな」
凛は改めて辺りを見渡して、その飾り付けの豪華さにその費やした時間と努力に自分を迎えるためにここまでやってくれたのかと、内心申し訳なさもありつつ嬉しさが強かった。
「にしても、よくこんなとこ仕えたな。貸し切りか?」
「うん、そうだよ。私のお父さんがこの喫茶店を経営しててさ、一日貸し切りにしてもらってるんだ」
そう、この凛の歓迎会に使っている会場は、広い喫茶店だった。担がれている時の凛もそれだけは察していた。
「まじかよ……なんか申し訳ない……」
「いいの!こうして、転校生をちゃんと迎えたかったから!」
彼女は顔ににっこりと笑顔を浮かべて、椅子から力強く立ち上がると大きく声を張って言った。
「私はこの2-Aのクラス委員長をやってる
彼女はそう自己紹介した。
髪は亜麻色のサイドテールで、すらっとした体形はモデルなのではと思わせるモノ。顔は二重の如何にも美人といった風なそれで、その顔は綺麗というよりも『かわいい』に近いものだ。
「それじゃあ、改めまして。私がこのクラスを代表して言います!」
彼女は一息置いてから、
「2-Aクラス一同は翔君を歓迎します!ようこそ2-Aへ!」
彼女がそう言うと、様々な方向から凛を快く迎えてくれるその声が聞こえる。
凛は、こうして2-Aの皆に迎え入れられ、そして盛大な歓迎会が行われたのだった。
“皆”、と言ってもこれに欠席している人物もいる。
クラスで凛も唯一見つけた不良の様な人物。
そして、
――――未だ行方知らずの少女も
凛はまだ、その真実を知らず歓迎会を楽しむのだった。
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