第6話:修羅場・ブルーザ王太子視点
俺が人族に惹かれたことは、絶対に秘密にしなければいけない。
誤魔化すためなら、その人族を喰い殺す事すらやってやる。
だが、それも、俺独りが魅かれた場合だけだ。
俺一人が魅かれたのなら、勝負が発生したわけではない。
だが、俺以外の者が同じ人族をつがいと認め、惹かれたのなら、これは雌を奪い合う勝負に他ならない。
誰が相手でも雌の奪い合いに負けるわけにはいかないが、特に相手が竜人族というのなら、しかもそれが皇太子のグリードが相手なら、絶対に負けられない!
「おい、グリード、その人族の女を俺様に渡せ。
その女は俺様のつがいだ、お前が口を利いていい相手ではない。
お前のように気取った男でも、獣人族のマナーは知っているだろう。
つがいを見つけた獣人の邪魔はしない、それが最低限のマナーだろうが!」
くっくっくっくっくっ。
こんな最高の偶然が引き起こされるなんて、なんて運がいいんだ。
獣人が当たり前につがいを見つけられていた頃には、極稀に一人の雄や雌に複数のつがいが見つかり、求婚されることがあった。
そんな場合は、殺し合ってでもつがいを奪う事が許されていた。
合法的な殺し合いが認められるのが、つがい争奪戦だ。
普通なら立場上絶対に戦えない俺とグリード。
天虎族の王太子と竜人族の皇太子が戦うなど、大陸を破滅させかねない大戦争となるから、父上も母上も許してはくれない。
だが、つがい争奪戦なら、種族を巻き込むことなく、一対一のタイマン勝負が心置きなくできる!
「マナー知らずはそちらだろう、ブルーザ。
先に話していたのは私の方で、お前は後から話しかけてきたんだ。
私より遅れて後からつがいを見つけたくせに、偉そうな事を口にするな。
この女性は俺のつがいなのだ、お前こそマナーを守れ」
しめしめ、まんまと挑発に乗りやがった。
高慢なグリードは、普通なら人族をつがいだと認めるはずがなかいのだ。
どれほど本能に耐えるのが苦痛でも、相手が人族ならば、つがいだと認めずにこの場を後にしただろう、それくらいの胆力は持っているやつだ。
そんな事に成ったら、せっかくのつがい争奪戦が流れてしまう。
だが、普段から張り合っている俺がつがいだと名乗り出れば、グリードも負けじと名乗り出ると分かっていたのだ。
「ふん、マナーだと?
だったら古式に則ったマナーに従ってやろうではないか。
天虎族王太子ブルーザから竜人族皇太子グリードに、つがいが誰の花嫁になるのかを賭けての決闘を申し込む。
臆病風に吹かれたのでなければ、見事応じてみせよ!」
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