第5話:修羅場・グリード皇太子視点

「護衛の分際で偉そうな口を利く、身の程を知れ!」


 生意気な口を利く人族の護衛に殺気を放ってやった。

 卑怯下劣な人族では耐えられないくらいの、少々強めの殺気だ。

 獣人族の戦士でも戦意が挫ける強さの殺気だから、人族だと死ぬかもしれないが、生意気な口を利いたのだから、それくらいは覚悟してもらう。

 まあ、蘇生魔法で生き返らせてやるから、竜人族の偉大さを思い知るがいい。


「このような大切な場でこれほどの殺気を放つとは、英邁と誉れ高い竜人族とは思えない愚かな行いですね。

 身なりから高き御身分のようですが、恥を知りなさい!」


 驚いた、死なぬどころか私に啖呵を切って来た!

 人族にしておくには惜しい度胸だが、それだけに腹立たしい。

 確かにこの行動は、少々恥ずべきところがある。

 このような野蛮な行動は、天虎族なら勇敢だと褒められるだろうが、竜人族では野蛮で礼儀知らずと叱責されてしまう。

 人族に惹かれてしまったという、前代未聞の出来事に、狼狽えてしまっていた。


「……確かにこれは少々礼を失していたようだ、許されよ」


 人族の、それも身分の低い護衛に詫びを口にするなど、本来なら恥ずべきことなのだが、ここで更に威丈高に出てしまったら、皇室や竜人族の名誉を損なう恥の上塗りなってしまう。

 ここは俺個人の名誉を損ねても、皇室と竜人族の名誉を守らなければならん。


「その謝罪は受け入れましょう、その代わり、体調を崩された姫様の退出をこれ以上邪魔されますな。

 うぅぐぅほっ!」


「マーガレット!」


 なんと、これほどの胆力と忠誠心を備えた者が人族にいたのか?!

 獣人族の戦士が戦意を失うほどの殺気を受け、身体に吐血するほどの酷い損傷を受けながら、主人を護ろうとする。

 私はこれほどの戦士を愚弄して恥をかかせてしまった。

 それは、自分の戦士を見る眼のなさ、愚かさを露呈したも同然だ。

 私は自分が思っているほど英邁でも公平でもない、ただ地位を振りかざす愚物だ。


「治癒。

 許されよ、護衛殿。

 私はまだまだ未熟で不明であった。

 貴殿ほどの戦士の真を見抜けずにいた」


「お気になさらずに、竜人殿。

 多くの人族が卑怯下劣な事、戦場往来の私もよく知っております。

 ただ、僅かな数ではございますが、人族の中にも戦士の心を持った者がおります。

 その事、覚えていてくだされば幸いです。

 尊き御身直々に治癒の魔法を唱えてくださり、心から感謝いたします。

 誤解も解けたと思いますので、このまま不調の主人を案内して、退出させていただきます」


 礼儀から言えば、このまま退出してもらうしかない。

 私が失点を重ねてしまい、これ以上の言葉は皇室と竜人族の名誉を損なう。

 そんな事は分かっているのに、心から帰したくないという思いが湧き上がる。

 それが忠勇を示した護衛に対するモノなら、これほど悩みはしない。

 悩み苦しむのは、忠勇を示した護衛に態度に報いる事もなく、ただここから逃げ出そうと考える、主人を帰したくないと思ってしまっているからだ。


「ならん、このまま俺様に挨拶もせずに帰る事、絶対に許さん!」

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