第4話:修羅場・クラリス王女視点
私は知る限りの神々に祈り願いました。
どうかこの視線が憎しみや蔑みでありますようにと。
つがいを見つけた恋心ではありませんようにと、祈り願ったのです。
眼を瞑り耳を塞ぎ視線に背を向けて、ひたすら無視しました。
消えてしまいたいとさえ思い、そう祈り願いました。
ですが、強く熱い視線は、一向に衰えることがありません。
「姫様、どうかなされたのですか?
御気分が悪いようなら、残念ではありますが、退席なされませか?」
護衛の侍女が最高の助言をしてくれました。
自分から帰るという選択など思いつきもしませんでしたが、体調不良なら早期退席しても問題ないのですね!
「ええ、ありがとう、気遣ってくれて嬉しいわ。
本当に先程から気分がすぐれなかったから、貴女の助言に従って、残念ではあるけれど早退させてもらいます」
私は本当に顔色も悪く声にも元気がないのでしょう。
それも当然だと思います、これほど不安と恐怖と嫌悪感を感じているのですから。
私は震える手を戦闘侍女に差し出し、エスコートしてもらおうとしました。
救いが得られた事で、少し気分がよくなりましたが、侍女には気分が悪いままだと思ってもらいましょう。
「どうしたのです?
早く退席させてください」
私は何故がクズクズしている護衛の侍女をせかしました。
私が帰ろうと決意した途端、先ほどからの視線が一段と強くなったからです。
嫌な予感がするというよりは、確信に近い嫌な想像が浮かびます。
視線の主が私に話しかけようと近づいてくると予感するのです。
「姫様、誰かが近づいてこられます。
服装からして、かなり身分の高い御方だと思われます。
挨拶もせずに帰るのは流石に問題がありますから、私が対応いたします。
姫様はこのまま目を伏せていてください」
ああ、普段から礼儀正しく頼りになる護衛の侍女ですが、こんな時にまで礼儀正しいのも考えモノです。
私がこれほど不調が明らかな状態なのに、礼儀を優先してしまうのですから。
それにしても、かなり身分が高そうな方ですって?
それでは身分差を理由に断ることができないではありませんか。
まあ、今の人族に、異種族連合の公式な願いを断る力などありませんが……
「どこに行かれるつもりだ、今日は大切な婚活舞踏会だぞ!」
優しさや思いやりを全く感じさせない、冷たい厳しい思いを込めた、無礼を咎める言葉が耳を打ちます。
「これはこれは厳しいお言葉でございますね。
我が姫様は体調が悪いので退席させていただきのでございます。
それを叱責なさるとは、誇り高いと噂される竜人族が、か弱いご婦人を思いやる事もできないのですか?!」
護衛の侍女が私を庇って堂々と返答してくれています。
ですがその返答が気に喰わないのか、周囲の温度が下がったのかと思うほどの、恐ろしい殺気を放ってきました。
それにしても、何故竜人族なのですか!
せめてもう少し弱い獣人族でもいいではありませんか。
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