終章/命無き者の夢

終章第1話

「イケメン。これを飲むウサ」

「ん?」


 イタクァがペットボトルを投げてよこした。


「なんだ、これ」

「黄金の蜂蜜酒ウサ。それを飲んで、イアイア・ハスターと唱えるウサ。そうすると、お前の足元に従魔が現れるウサ」

「そうか」


 俺は素直に飲んだ。で、唱えた。


「イアイア・ハスター!」


 ぼん、と煙が現れて、俺の下に、羽根の生えた巨大なアリみたいな生き物が現れた。


「そいつの名はバイアクヘー。宇宙空間を飛翔する力を持っているウサ」

「なるほど」


 俺はバイアクヘーに自分の意思を伝えた。どうすると伝わるのかは、なんとなく分かった。


「イケメン。お前、このあとどうしたいウサ?」

「一つだけ夢が叶うなら。人間の寿命の限りだけ生きて……リオンと添い遂げたい」

「うん……」


 と呟いたのは、俺にしがみついているリオンだった。


「その方法は分かっているウサか?」

「ああ。行ってくるよ。リオン、お前は一緒に来てくれ」

「分かった」


 俺たちは凶星ペレグリヌスの元まで、超高速で飛翔した。バイアクヘーの力はすごいものだった。


「……母さん」


 俺は脈動する意思の塊に向かって、そう呟く。


「リオン。こいつの神威を、俺たちで乗っ取る。ダンタリオンの知識のすべてを、こいつに流し込んでやれ。できるな?」

「あなたと生きるためなら」

「よし」


 俺たちは『着陸』した。ものすごい力の脈動を感じる。俺のすべてが乗っ取られようとしている。俺の意識が。だが、俺にはリオンがいた。俺はリオンと手を繋いでいた。そして、どちらからともなく抱き合い、唇を合わせる。星の上で。


「——————————————————」


 ペレグリヌスは音もなく咆哮した。母は強大な神威を持っているが、全知、という性質は持っていなかった。俺とリオン、すなわち悪魔ダンタリオンの知識が、その意識を塗り潰した。その瞬間、俺は『ペレグリヌスを乗っ取った』。


 俺は意識を持つペレグリヌスとなり、その神威の全てを支配下に置いた。

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