5章第5話
「おーたーすーけーをー! ウサー!」
とりあえず本人自身の氷の魔術を用いて両手両足を縛り上げ、車の中に転がった状態で憑依を解いてダンテの身体に戻ったところ、イタクァは速攻で命乞いを始めた。なるほど、まるっきり「古きものども」なんてのは看板倒れの、単なる低級妖魔であるらしい。
「そもそもこんなところに連れ込んで――! ウサをどうするつもりウサか――!」
「どうするつもりと言われても」
正直、考えあぐねているのだが。
「ウサに乱暴するつもりウサ! ウ=ス異本みたいに! ウ=ス異本みたいに!」
「しねえよ」
元々自分の方からこっちに危害を加えようとしたくせに、なんか被害者ぶり始めやがった。タチ悪いな。
「そいつが人間に危害を加える存在であることが許せないなら、殺してしまえ。だが、自分がそいつを殺す存在になりたくないのなら、放っておいて解放してやれ。二つに一つだ。要は、お前自身がどう在りたいかの問題に過ぎんぞ」
とリオンは言う。
「いーやー! もう二度と人間に悪さはしませんから、おゆるしをー!」
「と言ってるが」
「……嘘だな」
忘れがちだが、リオンは対象の心を読む能力を持っているのである。
「いやー! ウソじゃないウサー! 神様と仏様とハスター様の名に誓ってウソじゃないウサー!」
「さすがに、これを殺すのは不憫な気がする」
「じゃあ逃がしてやればいいだろう」
「……何か、約束を守ることを強要できる手段はないものか」
やれやれ、とリオンが嘆息する。
「ないことはないが……やるとあとが面倒なんだよな」
「む。どんなんだ?」
「ど、どんなのウサ?」
リオンが説明する。従属化の契約、であるという。通常は、人間の魔術師が使い魔を持つときに行う簡単な魔術の一種だが、悪魔が主になるように契約することもできるそうだ。
「おれがこいつと契約すればいいのか?」
「いや。余がやる」
「乗り気でなかった割に、なんでまた」
「……見ていれば分かる」
リオンはポケットナイフを取り出すと、自分の舌の先に小さな傷をつけた。
「これが一種の魔方陣になるのだが」
そう言うと、リオンはイタクァの上に覆い被さった。
「な、何をするウサ? 女同士で! 女同士でそんな!? ……んん! んー!」
唇が重なり、舌が絡み合う。思わず目を逸らさずにいられないほど淫猥な光景が展開された。
「ふ、フラフラのくらくら~ウサ」
「ここに、誓いの契約は成った。イタクァ、以後余の命ずることに従え」
「はいっ」
元気のよい返事だった。
「余の令なく、人やその他の他者を傷つけるな。余が命じないときは、ダンテの命ずることにも従え。ただし」
ただし、なんだ? と思っていたら、リオンは顔をそむけて言った。
「……ダンテからの性的な命令には従わなくてよい」
おれはずっこけた。
「誰がそんなことをするかっ!」
「しないウサか?」
「しねーよ!」
「うん、まあ、ダンテはしないけどね……いちおう念のため……」
「ああ、だからあんたら
リオンが片足で、まだ転がっているイタクァの頭を思いっきり踏んだ。
「生意気を言うのはどの口だ」
「ごめんなさいウサー! 御主人様お許しをウサー!」
なんだか、騒々しい旅の道連れができてしまったようだった。
《XXXxから×××への報告文》
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