5章第3話

 まあ道の駅併設というだけあってそんなに広い水族館というわけでもないので、小半時もしたら出口だった。で、おれは聞いた。

 

「今夜はどうする?」

「どどどど、どうするもこうするも……そんなまだ心の準備が……!」

「……いや、どこに泊まるのかと聞いただけなんだが。ここで夜明かしするのか? それとも今日中に札幌に向かうのか?」

「あ、ああ……それなら」


 とリオンが言いかけたところでおれたちは水族館を出た。


 外は、視界もまともに効かなくなるほどの猛吹雪だった。


「……北海道って、夏でもこんな天気になる日があるのか?」

「あるわけがなかろう、南極や北極ではあるまいし」

「じゃあ、この異常気象は」

「心当たりが多すぎてこれだけでは特定はできんが、人ならぬものの仕業であろうな」


 そのときだった。天から、風のように舞い降りてきたものがあった。


「ばーにはー! イケメンげーっとウサ!」


 おれは猛烈な風に巻き上げられ、と一緒に宙を舞う羽目になった。


「バッハハーイ!」


 そいつは飛翔した。風の力だけで巻き上げられ、おれはそいつに連れ去られそうになる。だが、そいつが狙ったのがリオンではなくおれだったのが幸いだった。


「お前は何だ?」

「なんだイケメン、人間の癖に意外と落ち着いてるな。ウサの名前はイタクァ。黄衣こういの王の眷属にして、風に乗りて歩むもの。お前はこのまま星間宇宙の果てを漂い、ウサなしでは生きられない身体にされてしまうのだ! なっはっは」

「おれを人間だと思ったのがお前の運の尽きだ。こちとら、人類の敵らしくてな」


 おれはダンテの身体から幽体となって抜け出し、イタクァと名乗るそいつの足を掴んだ。真っ赤な瞳をしていて、背が高いが、見た目そのものは人間によく似ていた。


「ウサ!?」


 おれはイタクァの身体を乗っ取り、その全神性を支配下に置いた。力の使い方、止め方も分かる。とりあえず嵐を止め、ダンテの肉体を伴って地上へ舞い降りる。


「ダンテ! 無事か!」


 下ではリオンが待っていた。




【イタクァ】クトゥルフ神話


 クトゥルフ神話に登場する、古きものどもの一柱。風の属性を持ち、黄衣の王ハスターの眷属、または子であるとされる。吹雪を司り、また星間宇宙を渡り歩く性質を持つ。 

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