4章第6話

「皆の者、御苦労でした。……ウズメ、もういいですよ。ウズメ」

「あ、はい。じゃああと一枚で終わりに」

「ウズメ」

「すいません調子に乗りました」


 アメノウズメの舞いはかなり淫らなところまで進行していたが、自分本来の身体に戻った大神の一喝により中止となった。そして、おれはそんなことを気にしている場合ではない。やっと見つけた、自分の正体の手がかり……と思ったところで。


「閉じよ」


 その一言で、一体のノーライフを閉じ込めていた炎の檻が爆縮し、小さな光となって弾けた。


「あっ」

「あっ、とは何ですか。捕らえたままにしておくには危険すぎる存在です。それに、生かしておいても情報など引き出せはしませんよ。こいつからはね」

「それはそうかもしれませんが……」


 同族だからって仲間だとも味方だとも限らないとはいえ、おれは複雑な気分になった。ほとんど自分が殺したようなものだ。と、リオンがダンテの身体に戻ったおれに駆け寄ってくる。


「ダンテ!」


 そしてそのまま抱き着かれる。おいおい、何の真似だ、と思うのだが。耳元に顔を寄せて囁かれた。


「警戒を緩めるな」

「え?」

「声が大きい、馬鹿者! ……なるべく早く逃げるぞ、この高天原から」

「なんで」

「アマテラスに狙われている。ダンテ、お前がだ。お前から今回の一件に関する情報を引き出すつもりだ」

「なんだと……」


 と、アマテラスが一見にこやかな表情で皆に声をかけた。


「それでは、一件落着を祝って、客人たるティーウ殿、ダンテ殿、そしてリオン殿を迎えて宴を一席設けさせていただきましょう。ウズメ、準備をなさい」

「はっ、大御神。仰せのままに」

「おっ、酒か? 酒が出るならおれっちは付き合うぜ」


 まさか、そう言われるものを「お断りします」と言って回れ右するわけにもいかない。おれたちは案内され、広間らしき部屋に出た。スサノオら今回の一件に関わった面々がいるのは当然として、誰だか分からない日本の神々も大勢現れ、場は大きな宴となった。


 ティーウがおれの盃に酒を注ぎながら、小さな声で言った。


「まずいことになったな。こりゃ、おれっちでも生きてここから出られるかどうか」

「あんたにも分かるのか?」

「お前、おれっちの事をただの筋肉馬鹿だと思ってるな? これでも昔は神々のかしらをやってたんだぜ。仕方ない、おれっちが一肌脱いでやろう。注意を引き付けてやる」


 そう言うと、ティーウは剣をひっつかんで座の中央に進み出た。


「北国の剣舞というものを一つ、御披露して進ぜよう。誰ぞ、相手を務める者はあるか」


 おお、ならば自分が、と言って男が進み出た。


「おー、いけータヂカラオ」


 と言って誰かがはやす。剣舞が続くこと、しばし、リオンがおれに肩を借りるふりをして立った。


「いかん、余はしたたかに酔ってしまったようじゃ。厠はどちらかの」


 スサノオが立ち上がった。


「案内してやる。来い」

「あら、そんなことはわたくしがいたしますよ。スサノオさまはもっと御神酒を」

「いい。俺様も行きたいんだ、どうせついでだ」


 まずいことになった、とおれとリオンは顔を見合わせた。スサノオに見張られては、とても逃げられない、と思った。のだが。しばらく歩いて、明らかに厠などではない場所でスサノオは言った。


「ここからまっすぐ進めば、その先が地上に通じている。お前たちはそこから逃げろ」

「スサノオ……? どういうつもりだ?」

「姉上はこの後、お前たちを捕らえるつもりだろう。だが、姉上がどう考えていようと、俺様はお前らに借りが一つある。だから、ここで返してやる。次に遭うときは敵だと思え。そういうことだ。じゃあな」

「……ありがとう」

「礼は要らん。これで貸し借りなしだ」


 そう言われたが、リオンも去り際に小さく会釈をした。そしておれたちは、地上に戻る。




【アメノタヂカラオ】日本神話


 記紀に登場する男神。アマテラスの岩戸隠れのとき、アマテラスが内側から少しだけ岩戸を開けた際にそれを力づくでこじ開けたという逸話で知られる。

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