4章第5話

「あらよっとぉ!」


 ティーウは例のルーン文字の刻まれた愛用のヴァイキングソードを振りかざし、豪快にカグツチ目掛けて斬りつけた。カグツチの身体は真っ二つに裂けたが、その炎はゆらゆらと揺らめき、裂けたものがまた一つに戻ってしまった。


「なんだ、こいつ……効いてないのか!?」


 おれが叫ぶと、向こうでアマテラスの攻撃を凌いでいるスサノオが叫ぶ。


「カグツチは死せる神だ、簡単には意気を挫けねェよ!」

「はァん。簡単には、か」


 ティーウは獰猛な笑みを浮かべて、さらに剣を振るう。そしておれはと言えばティーウの身体でカグツチの力を乗っ取る算段を立てているのだが、何しろこいつ燃えているので、触ることができそうもない。と、カグツチが頭部(見えないけど、たぶん口)から猛烈な火炎を噴いた。ティーウの前に突如として盾が現れ、その火炎を遮る。ティーウは中空でその盾を取り、剣とあわせて両手に構えた。


「これで……どーだぁー!」


 ティーウは盾でカグツチを殴りつけ、怯んだところをまた斬りつける。一方、スサノオはどうしているかというと。


「でぇぇぇえい!」


 自らの身体を水と風、すなわち嵐そのものに変じさせたスサノオは、勢いのままにアマテラスの身体に斬りかかる……と見えて、刃を逸らし峰で打ちかかっていた。


「ひぎゃあああアァァァ!」


 効いてはいるのだが、効果十分とは言い難い。


「こらスサノオ! 相手が女だからって、手加減してんじゃあねえ! おれっちは真剣に戦ってんだぞ!」

「そんなんじゃあねェ! あ、待ておい!」


 業を煮やしたティーウが、カグツチを怯ませた拍子に後ろからアマテラスに斬り付けた。背中が大きく裂け、血が噴き出す。


「馬鹿、こら!」


 その血はただの血ではなかった。血液が火を噴く。ただの火ではない。凄まじい熱量を持った炎の塊と化して、まるで太陽のフレアのようだ。


「うわっちっちっち! なんだこりゃあ!」

「だから言っただろうが! 相手は太陽の神だぞ! ただの血が流れるか!」


 スサノオが嵐を放ちフレアを掻き消そうとするが、なかなか消えない。そうしているうちに、カグツチがまた襲い掛かってきた。ティーウは剣で防ぐが、その剣が真っ赤に赤熱していく。


「うわっ! おれっちの愛剣が!」


 ティーウはカグツチを蹴り飛ばした。しかしなんだかどうにも、埒があかないな。と思っていると。


「みなさーん、ちょっとこっちをご覧くださーい」


 アメノウズメの声だった。


「今から一枚ずつ脱いでいきまーす。ご注目ぅ。はい、まずはかんざしを取りましたー」


 言葉を話さないので何考えてるのか分からないカグツチまで含めた全員が、突如としてウズメのおっぱじめたパフォーマンスに視線を奪われていた。正気なのはおれだけだ。何を隠そう、片目でしか見ていない。


「ティーウ! いまだ!」

「お? お、おう!」


 おれに声をかけられて正気に返ったティーウは、陶然とした状態でアメノウズメの痴態に見惚れているアマテラスに躍りかかり、握り合わせた両拳で後頭部を殴り倒した。おれはそこから飛び出してその身体を掴み、意識を乗っ取る。そしておれより先に憑いていた“誰か”を追い出した。アマテラスの記憶と力が、おれの中に流れ込んでくる。


「炎よ!」


 おれは念じ、炎の檻を作り出して「そいつ」をその中に捕らえた。命無き者。おれと同じ、ノーライフを。

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