4章第4話

「ふしゅー……ぐるるるる」


 知性ある存在のものとは到底思えない奇怪な唸り声を上げるアマテラスだが、攻撃の意思は感じられなかった。まあ、自発的に他者に危害を加えるような狂い方をしているのなら、そもそもこんな風に繋ぎもせず檻や座敷牢にも入れず放っておかれるはずもないか。


「ぐ……ぐぐぅ」

「おれが分かるか? おれとお前さんは同類らしいぞ」

「ギァァ!」


 とりあえず言語によるコミュニケーションは無理そうである。仕方がない。


「とにかくな、そこから出ろ。そこはお前さんのための居場所じゃあないんだ」


 おれはアマテラスの手を掴んだ。そして乗っ取りを試みる。


「ん……んんっ……」

「アアアァァ、ふしゅううううるるるるる」


 抵抗されている。知性はなさそうだが、こいつにも意志の力というものはあるらしく、おれはアマテラスの肉体の中に入り込むことができない。というか、こいつの“この肉体にしがみついていたい”という意思はかなり強固だ。意思や意志というよりはもっとプリミティヴな、本能的なもののような気はするが。


「どうだ、ダンテ。余が手伝えそうなことはないか?」


 残念だが。おれは首を横に振る。そして、二人を呼ぶ。


「ティーウ。スサノオ。来てくれ」

「おっ。おれっちの出番かい」

「何でェ」

「この肉体に攻撃を加えて、気を逸らさせた瞬間におれが身体を乗っ取るしかないと思う」

「おお、そいつはいいなァ。そういうのを待ってたんだ」

「大御神……」

(仕方がありません。妾自身が許可を出します。スサノオ、あなたも手加減せずにやるように)

「しょうがねえな……分かりましたよ」


 と言ってスサノオは草薙を構えたが、おれはそれを手で制した。


「その剣は遠くに離しておいた方がいい。あの肉体にそれを触れさせたら、アマテラスの全神威が乗っ取られる危険がある」

「むう」


 スサノオは草薙を大事そうにアメノウズメに預け、代わりに天羽々斬を構えた。


「気が進まねえ……」

「おれっちはやる気十分だぜ?」

「そんなに自分の姉が大事か?」

「そうじゃねえ」


 スサノオはポリポリと頭を掻いた。


「お前ら、天津あまつ神々のあるじたる神の力を甘く見すぎだっつーの」


 次の瞬間。


「ギャアアアアォ!」


 こちらの戦意に反応したらしく、アマテラスが凄まじい熱と光を放射した。


「嵐よ!」


 スサノオの剣の先からも暴風雨が噴き出し、アマテラスの放つ巨大な熱量を相殺する。


「来い、右手!」

「よし、霊威合体!」


 おれはティーウに憑依し、融合する。今度は二刀流ではないが、この方が力がみなぎることに変わりはない。


「アアアアアァァァァ……!」


 アマテラスが手を差し伸べ中空を指さすと、そこに炎を纏った人間の上半身のようなものが現れた。宙に浮いている。


「カグツチ……! 気を付けろ、そいつは強いぞ!」

 

 スサノオに警告される。ありがとよ。




【カグツチ】日本神話


 イザナギとイザナミの間に生まれた子で、火の神。その性質ゆえに出産したイザナミを死に追いやってしまい、怒り狂ったイザナギによってその場で殺害された。死後、その血や亡骸から多くの神が生まれたとされる。

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