4章第3話

 その場にいた全員の眼がおれに集中する。その中でもっとも剣呑な目をしているのは、やはりスサノオだった。


「……やっぱり、てめぇが噛んでやがったのか?」


 おれは正直に答えた。


「分からない。分からないとしか言いようがないが、或いはもしかしたらそうなのかもしれない。仮にそうなのだとしても、おれは、その事実を知りたいんだ。頼む、真相究明に協力させてくれ」

「何を抜け抜けと……」

(おやめなさい、スサちゃん)


 シリアスな場面なのに、気が抜けるなあ、その呼び方……。


(あなたを尋問したところで解決する問題ではないのは分かっています。向かいましょう、高天原へ)

「では、拙者はここに残ります」


 鞍馬天狗はそう言った。


「余はもちろん付いていくが……ティーウ、お前はどうする?」

「まだ喧嘩の匂いがするぜ。付いて行っていいなら、俺っちも助力してやらあ」

「……では、妾からお願いするとしましょう。少なくとも、戦力にはなるでしょうからね」


 おれはリオンに小声で話しかけた。


「高天原に行くのはいいが……魔界と高天原は、同じ世界なんだよな?」

「同じ神性アティルト界であることに違いはないが、没交渉だし、相互に連絡はしていないぞ。移動する場合も、物質アッシャー界を経由した方が早いくらいだ」

「アッシャー界って?」

「現実の地球のこと」

「そうか。それなら安心だ」


 何しろ魔界ではおれは(多分)既に指名手配の身である。


「ただ、な。アマテラスにも油断するな。存外に曲者なんだ」

「分かった。心の隅に置いておく」


 そして、音頭を取ったのはまたスサノオだった。


「面子は決まったな。じゃあ、連れていくぞ」

「どうやって?」

「何も知らねえのか、てめェは……俺は嵐の神。嵐の中に顕現し、嵐の中に偏在する。嵐の中なら、何処であろうと移動は自由よ。たとえ高天原と地上の間であろうとな」


 そうか。なんで旅館で風呂に浸かっていたものがおれより先回りしてここにいたのかちょっと疑問だったが、端的に言えば嵐の中限定で瞬間移動に近い力を持っているのか。後で何かの参考になるかもしれない、忘れずにおこう。


「行くぞ」


と、結界の力が解かれ、嵐が吹き込んできた。物凄い暴風雨だ。そして、そう思った次の瞬間には、おれたちは見知らぬ建物の中に移動していた。


「ここが……高天原」


 どういう力によるものなのか、さっき嵐に遭ったはずなのに不思議と服は濡れていなかった。って、そんなことより。


「ふぅっ、ふぅっ、ぐぅっ……」

「はいはい、よしよし、御食事をお持ちしましたよ大御神……おや、スサノオさま。なんだか大勢お揃いで」

「ウズメ。ご苦労だった。しばらく離れてろ」


 おれたちの前には、肉体を備えた方の天照大神がいた。強大な力の脈動が、熱となって感じられる。


(あれに憑いているものを、追い出せますか? あなたの力で)

「やってみます」


 おれはアマテラスに近づいていった。

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