4章第2話

 最初にぱっと見たときは大きな怪我はなさそうに見えたのだが、縄を解いているときに気付いた、リオンの片指から血が出ていた。


「その傷は? あいつらが?」

「いや。魔方陣を起動するために、自分で付けた傷だ。心配は要らん」


 おれはリオンのその手を取り、指先を口に含んだ。傷口に舌を這わせて、離す。


「ななななななななな、何をする!」

「何って、おれたちはお互いこうすると傷が塞がるんだろう?」

「そ、そりゃあそうだが! こちらにもこ、心の準備というものがだな……」

「……あ、うん。ごめん」


 リオンが真っ赤になっているので俺は謝った。


 そして気が付くと、スサノオとティーウと、そしていつの間にか息を吹き返したらしい鞍馬天狗が白けた目でこちらを見ていた。


「ダンタリオン……なのか? また、随分とめんこい姿になっちまって」


 とティーウ。半名付与とかいう魔法、誰でも知ってるものというわけではないらしい。


「久しいなティーウ、よく来てくれた。今この身体ではリオンだ。そう呼んでくれ」

「お、おう」


 いっぽう草薙剣はといえば、既にスサノオの掌中に再び収まっていた。おれは質問する。


「結局、どういうことなんだ? その剣は本物の草薙剣じゃなくて、天照大神が化けているものなのか? アメノウズメに看護されているっていうアマテラスは何なんだ。そっちは偽物なのか?」


 剣が答え、そして説明する。


(わたしは本物の草薙剣で、そして同時に本物の天照大神の化身。そして、いま自失の状態で高天原に在るアマテラスもわたし自身です。分霊わかつみたまというのはもとよりそうしたもの。そこにいるリオンがリオンであり、また同時にダンタリオンであるのと同様に」

「それにしても、姉う……」

(大御神)

「……大御神。一体、そもそも何があって今こうなっているのですか。なぜ今まで、黙っておられたのです。みな心配しておりましたものを」

(わたしの神威を乗っ取ろうとしたその誰が犯人で元凶なのか、そして誰が内通しているのか、分からない状態でしたから……しばらく姿を消していようと思ったのです。そなたがああまで暴走するのは計算の埒外でしたが)

「ああ、余らはそれで危うく殺されるところであったからな」


 と、皮肉げに言うリオンだったが、それはそれとして言葉を続ける。


「しかし、それで、過去形で言うということは、犯人が何者か、分かったのか?」

(正体までは分かりません。ただ、この者、つまりダンテと接触したことで一つ、分かったことがあります)


 全員がここで固唾を飲んだ。そして、次の説明でおれとリオンは目を剥くことになる。


(わたしの身体を乗っ取った存在は、既知の神や悪魔ではありません。肉体も霊体も持たず他者に憑依するだけの、正体不明の意識体です。……そう、おそらくは……)


 ……まさか。


(そこにいるダンテさんの同類でしょう)

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