末章 世界の警察
末章第1話
というわけで、おれたちは旅館に戻ってきたわけだが。
「すぐにここを引き払うぞ」
「昼飯もなし?」
「なしだ」
ここの飯、うまかったのに。まあ仕方ないか。何せおれたちがここに居ることはアマテラスに知られているのだ。というわけで詳細は省くがいろいろとキャンセルしたり無理を言ったりなんだりして、おれたちは睡雲閣を出た。もちろん金はリオンが払った。タクシーに乗って、とりあえず適当に走り出してもらって。
「これからどこへ行く?」
「どこでもいいんだが、人の少ないところに行くのは危ない。人の姿で隠れる以上、人混みに紛れるのがいい。ダンテ、適当に好きな数字を言ってみて。一桁で」
「じゃあ五」
「五……札幌だな」
「どういうこと?」
「日本で五番目に人口の多い都市が札幌。東京都特別区、横浜、大阪、名古屋、札幌の順」
知識の魔王、ほんとにどうでもいいことまでよく知ってるな。というわけで、タクシーに伊丹空港へと向かってもらい、そこから新千歳へと向かう。
「当機はまもなく離陸いたします。お締めのシートベルトをもう一度ご確認ください」
フライトアテンダントのアナウンスが入る。と、おれの隣でリオンがぷるぷる震えていた。
「どうした? 乗り物酔いでもしたか?」
まだ乗ったばっかりなんだけど。
「そうではない。飛行機って、乗るの初めてなものでな……その……」
「……まさか」
怖いのか。子供か。
「飛行機がどんな原理で飛ぶのかくらい知っているだろうに」
「じゃあ訊くがお前、重力について知っているからといって、100メートルの断崖から蹴り落とされても平気でいられるか」
「それはまあ」
「そんなようなものだ」
知識ではどうにもならないことって沢山あるんだなあ。さて、飛行機は加速し、そして離陸する。Gがかかる。
「~~~!!」
リオン……。おれだって飛行機初めてなんだがな。おれは平気だぞ。
「そういう問題じゃないやい」
いや、ないやいって。
「機内販売のご案内をさせていただきます」
離陸してだいぶ発ってもリオンはまだ小刻みに震えていた。もしかして、と思ったのだが。
「お前、もしかして高所恐怖症?」
「うっ……実は、まあな」
「魔王なのに?」
「ダンタリオン本体が高所恐怖症なわけじゃない」
といって、弱々しい眼でこちらを見るリオン。
「リオンであるわたしが、そうなんだ。おかしいか?」
こいつが自分を「余」以外の一人称で呼ぶところを初めて聞いた。
「おかしくはない。怖いなら、手でも繋いでやろうか」
と、おれは冗談のつもりで言ったのだが。
「……じゃあ、お願い」
というわけでおれは飛行機が着陸するまでリオンの手を握っていた。なんだか無駄に気恥ずかしかった。
「じゃ、まずは宿の予約をしないとな」
空港に着いて、やっと落ち着いたらしいリオンがスマートフォンを取り出してそんなことを言った。魔王だろうがノーライフだろうが、人間世界に混じっている以上は人間世界のルールに従わなければならない。そのはずだったのだが。
「……ん?」
リオンが何かスマホをカチカチしている。
「……! 見ろ、ダンテ! これを!」
「どうした」
スマートフォンの画面には、ニュース画像が一面に映し出されていた。アメリカの大統領が何やら声明を発表した、というものなのだが。見出しがこうあった。
「合衆国大統領、“ノーライフ”は人類の新たな脅威であり敵であると宣言」
……は?
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