3章第4話
「率直に訊くが、勝ち目はあるのか?」
(ならば逆に問おう。無い、と言われたとしてそれでどうするつもりだ。また逃げ出すのか? どこへ逃げる。ダンタリオンの屋敷に匿われて、魔界の大魔王の庇護でも求めるか)
それは……無理だろうな。リオンだけならともかく、おれは。また仮に可能だとしても、そんなみっともないのは御免だ。
(いずれにせよ
そこでリオンが口を挟んだ。
「ぶちのめしさえすればよいのだな? 手段は問わずに」
(
「ならば、援軍を呼ぼう」
「あてがあるのか?」
「普通なら、難しいだろうな。利害関係も何もない奴に協力を求めても無駄だ。だが、今回の相手なら、因縁のあるやつがいる。誘えば来る」
「誰」
「百年前にスサノオに斬られた、例のやつだ」
「斬られて死んだんじゃないの?」
「神話の神や魔界の悪魔はそう簡単に完全消滅はせんのだ。いまは魔界にいるはずだ。コンタクトを取ってみる」
「どうやって」
「魔方陣で召喚する」
「古風だな……なんかこう、もっと現代的なやり方はないのか? スマホのアプリで悪魔召喚! とか」
「お前な。そんな言うだけなら簡単だが、自分でそんな謎のプログラムが書けるのか?」
「書けません」
「なら雑な無茶を言うんじゃあない」
「すまん。ちなみに、そいつの名は?」
草薙が口を挟む。
(ティーウ。悪魔の身に堕ちる前は北欧神話において軍神と崇められる存在だったと聞く)
「うむ。というわけで、魔方陣作らなきゃならないから、お前買い出しに行ってこい」
「しょうがないな。何が要るんだ」
リオンはさらさらとメモを書き、おれに渡した。書いてあるのは、ペンキだとかロウソクだとか、ホームセンターで買えるようなものがほとんどだったが、二つだけ例外があった。一つは「八つ橋」。八つ橋で北欧の神が召喚できるとは思えないからお茶請けにでもする気だろう、それはいい。しかしもう一つは。
「処女の生き血なんて、そのへんに売ってないと思うんだが」
「何とかしてこい」
「無理だ」
(……我が
瑞穂というのは日本の古称、ないし雅称である。
「仕方ないな。じゃあ、余が自分で用意するか」
「どうやって」
「聞くな。余のこの身体から血を抜けばよいまでのことだろう」
「あ、ハイ」
そうか……そうなのか。まあ、考えてみれば、いや考えてみなくてもそりゃそうか。
「さて。それじゃ、余はその間に部屋風呂でも使うとしよう」
「はいはい。行ってきますっと」
帰ってきたら魔方陣作りが早速始まるのかと思ったら、先に夕食だった。テレビで天気予報を見ながら、今日も二人で御馳走を頂く。
「台風5号は依然強大な勢力を保ったまま、本州に上陸し東へ進んでいます。今夜半には近畿地方に到達する見込みで……」
【ティーウ】北欧神話
北欧神話に登場する神。かつては天空に座する北欧神話の最高神であったと考えられているが、その後戦争の神オーディンの台頭によって一介の軍神として扱われるようになったという。伝承によれば自ら勇敢さを示すためにフェンリルの口に片腕を入れたことがあるが、その結果としてその腕を食い千切られ隻腕になってしまった。なお、現代英語で火曜日を意味する「チューズデイ」の語源はこのティーウである。
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