3章第3話

「百年前、つまり、世に第一次世界大戦と呼ばれる大戦争が終わってしばらく経った頃のこと。この日本は、今では信じられないくらい空前の好景気に沸いていて、また怒涛のような洋化の波が押し寄せていた。首都東京は無論のこと、この古都京都でさえも例外ではなく、歴史ある伝統建築物が次々に取り壊され、ハイカラな“デパートメントストア”が町に立ち並んだ」


 それはいいが、それと西洋の魔王に何の関係があるんだ。


「このようにして古き神々への信仰が失われるとき、新たな悪魔や魔王が大勢生まれることがある」


 それで?


「また、多くの魔術具や神器の類が散逸の憂き目を見ることも多い。そこでだな、大勢の物好きな悪魔が、大挙して日本へ渡ったのだ。ある者は力を求めて、またある者は好奇心の導くままに」


 少し話が見えてきた。その後者の中に魔王ダンタリオンも混じっていたってことか。


「そうだ。西欧某国で人間ひとり分の身分を偽造し、交易商人に身をやつし、余は日本へと渡った。その目的は」


 目的は?


「三種の神器、と呼ばれるものだった」


 それならおれも知ってる。なんせ、さっきからそこにある。


(うむ。我と、八咫鏡やたのかがみ八尺瓊勾玉やさかにのまがたま。これを合わせて三種の神器という)


 そんなもの、どうするつもりだったんだ。


(そんなものとは言ってくれるな)

「別にどうもせん。実在するのかどうかも疑わしいとか言われているからちょっと真相を知りたかっただけだ。……余は、な」


 そうじゃない奴もいたのか。


「当時の知り合いに、趣味で刀剣を集めている悪魔がいてな。利害が一致するから行動を共にしていたのだが……」


 いたのだが?


「細かいことまで説明しても仕方ないから、話をはしょろう。草薙剣を盗み出したことが日本の神に知られ、余らは追い掛け回される羽目になったのだ。その討伐隊を率いていたのがスサノオだった。余はかろうじて最終的には逃亡に成功したが、連れの方はぶった切られた。よりによって、その追い求めていた草薙で」

(うむ)


 本人(?)がうむとか言ってるならまあそうなんだろうな。便利だな、喋る刀。


「とまあ、ざっと説明すればそんなところだ。しかし、草薙が意思を持つ神剣だなどということは、そのときは……というかついさっきまで余も知らなかったな」

(そのような事実を、当時は知られたくなかったからな。逆にこちらには、汝らのことは筒抜けだった。討伐隊の追跡があったのも、我が密かに話を通したるがゆえのことよ)


 つくづく油断ならないな、この刀。


(で、改めて聞くが、爾来じらい百余年、此度こたびは何のつもりで再びこの日本に姿を現した?)


「おれが、おれの正体を探して旅をしている。リオンはそれに付き合ってくれているだけだ。ここに寄ったのはその途上で、スサノオと会ったのも偶然だ。リオンは関係ない。……この説明で納得してくれるか?」

(我は理解できるが)


 草薙はちょっと口(?)ごもった。


(主は無理だろうな。大御神の変事ゆえに、完全に頭に血が上っておられるからな)


 ふむ。


(我としては主の頭を少し冷やしてやりたいのだが、汝ら、協力してくれるか?)


 具体的にどうするんだ。


(ここに我がいることは、いずれ三日とは待たずに主の知ることとなろう)


 え。


(そこで、そなたが我を用い、それを迎え撃つ。少々荒療治だが、ぶちのめして目を覚まさせる。そういう計画でどうだ)


 えー?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る