3章/北欧の軍神ティーウ
3章第1話
登場人物紹介
ダンテ:この物語の語り手。自分が何者であるのかを知らず、また誰も彼の正体を知らない。接触した対象に憑依する能力を持つが、相手の身体を乗っ取る際には意志の力で相手を上回らなければならない。
リオン:少女の肉体と精神性を持った魔王ダンタリオンの分霊。有する知識の量は本来の魔王としてのそれと変わらないが、戦闘能力はからきしであり、姿相応の身体機能しか持っていない。
スサノオ:日本神話に登場する英雄神。何らかの理由からダンタリオンに敵意を抱いている。
草薙剣:日本神話に登場する神剣。自律した意識並びに言語能力を持つ、それ自体で一個の神魔と言うべき存在。現在、ダンテらと行動を共にしている。
草薙剣を持っていくのはいいが、そもそもここはどこだろう。なんか、人気のない山の中だ。車道くらいは通っているが。
(この場所では何だ。もう一度、我を用いよ。いずこなりと連れてゆく)
もう一回あれをやるのか……。
「それは勘弁してくれ」
と、口を挟んだのはリオンだった。
「そしてその前に、ダンテの傷を確認せねば」
(その男はダンテというのか。一体何者だ?)
一体何者なんでしょうね、ほんとに。
「話はあとだ」
リオンは俺の上着を脱がせて、応急処置を施した。そんなに深い傷ではなかった。それが済むと、スマートフォンを取り出して、何か操作を始める。
「今は地図アプリもGPSもあるからな。ここが何処なのかくらいすぐに分かる。いちいち移動するのに空を飛ぶ必要などない」
で、今度は通話モードにしてタクシーを呼んだ。声はキョドっていたが、場所は正確に説明できた。
「ダンテ。タクシーが来たら、運転手に憑依せよ」
「え。なんで」
「血染めの服で、抜身の刀を提げてタクシーに乗るつもりか? 通報されてしまうわ」
「そうか……言われてみれば。仕方ないな」
しばらく待っていると、タクシーは来た。ドアが開く。マヤの霊体の姿で車内に侵入し、おれは運転手の意識を乗っ取った。
生身の人間に憑依するのはこれが初めてになるのだが、この状態で何ができるのか、何が起こるのか、おれはだいたい把握している。意識を奪われた人間の持っていた知識や経験、技術をおれは全て使うことができる。おれが憑依から抜けた後、憑依されていた人間は自分が憑依されていたという記憶を持つことなく、その間自分は自分の意思で行動していたのだという認識を自然に持つことになる。なお、神や悪魔を乗っ取った場合については相手の力とのせめぎ合いがあるから、この限りではない。
というわけで、リオンとダンテの身体を乗せ、おれは睡雲閣までタクシーを走らせた。到着。リオンが下りようとしたので、おれはそれをやんわりと止める。
「待て。金は払え」
何しろおれが運転手に成り代わっているのだから誤魔化しようはあるのだが、燃料だってタダではなし、おれは無関係な赤の他人にいらぬ迷惑をかけたくなかった。
「チッ」
「金なら持ってる癖に……」
正確な金額は聞いていないが、睡雲閣の宿泊費だけで結構なものだ。もちろんおれの分も全部リオンが出している。なんたって、魔王だからな。
「そういう問題ではないのだ。いちおう、悪魔としての矜持というものがあるからな」
「おれの目が黒いうちはそういうのは許さん」
「チッ」
不服げではあったが、リオンはメーター通りの金額を置いて席を立った。おれはダンテの肉体に戻る。本来の主を取り戻したタクシーはそのまま走り去っていった。
(こんなところに拠点を設けているのか、汝らは)
いやまあ、拠点って言うか……ただ投宿しているだけだけど。ともかく怪しまれないうちに部屋へ向かう。
「さて。何から話したものか。そもそもおれにはスサノオがいきなり襲ってきた事情が全く分からんのだが」
(では我が最初に、もっとも重大なことを説明しよう。どうやら汝らは本当に知らんようだからな)
「うむ。ダンテならともかく、余が狙われるとは思わなかった。あのことなら百年も経ってるのに」
あのことって何だ、と思うが、それより草薙の話を聞かねばならない。
(主の御姉君、つまり
言葉が続く。
(御乱心にあらせられるのだ)
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