1章第2話
「地上って何だ? この魔界とやらの他にも世界があるのか?」
とおれが訊くと、リオンは目を見開いた。興味深げだ。
「まさか、知らんのか?」
「知らん」
「地上と言ったら、火星の大地の上に決まっているだろう。太陽系第四惑星、マーズだよ」
「なるほど」
「……どうやら本気で知らんらしいな」
リオンは呆れているのか何なのか、よく分からない。
「カマをかけただけで、今のは嘘だ。地上というのは火星じゃなくて地球の大地の上、地球とは第四ではなく第三惑星のテラだ」
「ふーん」
「記憶喪失、という感じではないな。お前はこの世のものではないのか、それとも……まあよい。追及はおってする。ともかく、地上に向かうからには、支度の一つくらいしなくては」
「おれはこの格好でいいのか?」
ダンタリオンに半身を与えられた身なので、やっこさんが着ていた中世の貴族のような服を今、おれも纏っている。おれと同じく、ダンタリオンの半身として分かたれた身であるところのリオンも。……地球という観念は分からないのに、中世の貴族、というのは分かるんだよな。どうなっているんだろう。
「二十一世紀の地球で、お互いこの恰好は目立つ。着替えるぞ。来い」
「分かった」
リオンについて歩く。数部屋通り抜けたが、全部同じような部屋だった。本しかない。だが、何部屋目かで厨房に通じる扉が開いているのを見た。流石に厨房の中まで本で埋め尽くされてはいなかった。魔界の大公爵とやらも飯は喰うらしい。少し安心した。
「ここだ」
リオンが衣裳部屋へと通じるドアを開く。中は狭く、雑然としていた。ハンガーにかかってる服など一着もない。山積みだ。古着屋のワゴンセールみたいな有様だった。
「えーっと……確かこの辺に……あった。お前はこれを着ろ」
簡単な服を渡される。
「それから、こっちの下だったかな……あった」
本人も何か黒いドレスのようなものを山積みの中から引っ張り出していた。
「どこで着替え——」
と言おうとした矢先、リオンはするりと着ていた服を肩から落とした。ちょっと待て、お前、下着——
「なんだ、ハトが豆鉄砲喰らったような顔をして。お前もさっさと着替えろ」
「着替える場所は?」
「そんなものいるか。そこでちゃっちゃと着替えろ」
そう言われては仕方がないので、おれはリオンの方をなるべく見ないようにしつつ、ぱぱっと服を着替えた。
「さて、次はパスポートだ」
「……魔界から地上に行くのにはパスポートがいるのか?」
「余は地上が久しぶりだからな。偽造国籍を作っていたこともあったが、だいぶ前だ。もう使えなくなっている。国籍ごと偽造するより、パスポートの偽造の方がたやすい」
「魔王だか不法入国者だか分からんな……」
「やかましい。そういうものが得意な悪魔というのがいる。そいつに会いに行くぞ」
「どこへ」
「もちろん、街へ」
魔界には街があるらしい。そういうわけで、行くことになった。
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