エピソード8 コロナウィルス 塩やきそば
8-8=N
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もう私の事は放っておいてくれないかな...
自暴自棄になっている妻は悔しそうに言った
そして翌日、彼女は実家に帰ってしまった
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3ヶ月前、僕たちはコロナウィルスに感染してしまった
2週間の隔離の後、僕たちは陰性の診断を受け通常の生活に戻った
僕は無症状で事なきを得た、けれど彼女は味覚障害になってしまった
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僕が帰宅すると妻は中華麺を炒めていた
今日のは少し塩気が強いね
テーブルにつき一口食べてから僕は遠慮がちに言った
そう?
彼女も一口食べた
うぅん〜そうかな、よくわからない
僕には塩気が強すぎて食べる事が不可能なレベルだった
しかし彼女は平気なそぶりで何度も麺を口に運んだ
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2日後、妻は料理をしなくなった
何を食べてもおいしくないと言い、水とサプリメントの錠剤を口にしていた
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翌日、僕は妻を説得して総合病院に付き添った
様々な検査をした結果、コロナウィルスの後遺症による味覚障害の悪味症という診断を受けた
食べ物が何とも表現できない嫌な味になるという症状で、原因も不明だと医師は言った
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彼女の食生活は一変した
バナナ
お粥
ビール
口にするのはそれだけで、他は処方された薬といくつかのサプリメントを水で服用していた
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次第に妻の身体は痩せていき、精神状態も悪くなっていった
夫婦関係も比例するように悪化して、会話がなくなった
僕が家で食事をすると彼女の機嫌が悪くなるので、僕はほとんどの食事を外で済ませるようになった
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もう私の事は放っておいてくれないかな...
そして彼女は僕から離れ、実家に帰ってしまった
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*
2週間後の夕方、妻の母から連絡があった
電話の向こう側で義理の母は泣いていた
その日、妻は上層階にある実家のマンションから投身して自らの命を絶った
ベランダには裁断ハサミと彼女の舌が落ちていた、と義理の母は震える声で言った
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