エピソード5 タコ
8-8=N
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ねえ、おじさんは宇宙人でしょ
隣に座っている女の子が不意に僕に話しかけた
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僕は東京へ向かう新幹線の中でシートバックトレイを引き下ろし、タブレットを立てて仕事の資料を読んでいた
*
6歳くらいの少女は興味深そうに僕のタブレットの画面を見つめていた
母親らしい女性が少女の隣の窓側座席で頭を傾かせて眠っているのが見えた
*
確かに宇宙の言葉のように見えるよね
僕は少し小さな声で少女に返事をすると、少女はタブレットから僕の顔へ視線を移した
でもね、これはアラビア語という言葉の文字だよ
僕は学校でアラビア語を少し勉強したんだ
少女は異星人をみるような眼差しで僕の顔を見ていた
*
何て書いてあるの?
少女の小さな口元が動いた
僕はタブレットを少女のほうに向けた
アフリカにガンビアっていう国があってね、その国のバンジュールっていう所でとれるパームオイルについて書いてあるんだ
これはね、そこの国の人が使う言葉の文字だよ
少女は永遠に通じないエイリアンの話を聞いているようだった
*
僕が自分の説明について後悔し始めた時
ガンビア
と少女は言ってクスクスと笑いだした
おじさんおもしろ〜い....
ねぇ、おじさんの手を見せて
と肘掛けに置いてある僕の手を少女は見た
僕の手?
と言いながら少女の前に手を差し出すと、不思議な生物を見るように数秒間観察していた
少女は小さな人差し指で
これなあに?
と僕の中指の先のほうに指をさした
*
少女が何を知りたいのか理解が出来ないまま、僕は指摘された自分の中指を見つめた
*
ああ、これ?
これはね、ペンダコ
ペンダコっていうタコだよ
*
タコ?
少女は再び僕の指先を見て、ケラケラと笑いだした
僕も少女につられて笑顔になった
*
ねえ...おじさん、
やっぱりおじさんは宇宙人でしょ
と少女は言い、嬉しそうに僕の顔を見上げた
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