第3話 種族をこえた愛

 「ティア……それ恋ってやつじゃない?」

ダンテに出会ったあの夜から三ヶ月が経った。それでも訳のわからない感情は消えない。それどころかどんどん大きくなり、苦しくてたまらなくなったティアは気休めにでもなればとシュラウザに相談しにきたのだ。

「まさか!そんな御伽噺みたいなことってある?会話だってしてないのよ。」

「でもアタシ確かにアンタの容姿とか声に惹かれるけど、そんなにゴチャゴチャした気持ちにはならないわ。それともアタシがそんなふうに悩んでいるように見える?」

「いえ、全く見えないわ。」

シュラウザはそうでしょと言わんばかりにニヤついてもう一度、アタシは恋だと思うと言った。そういうものなのかと思いティアはしばらく黙り込んだ。

「それにしても海の魔女が恋だなんてね。しかも相手は人間かぁ……本当に御伽噺ね。」

「それなら私は最期は泡になっちゃうのね。」

そういうと二人してぷっと吹き出した。楽しそうな笑い声がこだまする。

「アンタが泡だなんて、フフッ絶対にありえないわ。あはっ変なの。」

落ち着いてからシュラウザは続けた。

「アタシ応援するわ。親友の尾ヒレは引っ張らないって決めてるの。間違っても御伽噺の魔女みたいなイジワルはしないわ。」

「ありがとう、シュラウザ。」

 それから二人は最近耳にした噂話とか今度はあの沈没船に探検に行こうとか取り止めのない話をした。親友と過ごす時間はあっという間なもので、もう家の外は暗くなっていた。

「あ、もうこんな時間。どうする?いっそのこと泊まっていく?」

「嬉しいお誘いだけど帰らなくちゃ。明日は早朝から魔法薬の調合をしたいの。」

そうしてティアはシュラウザの家から帰路についた。しばらくすると雨水が海面を叩く音が聞こえてきた。波もひどく荒れている。嵐が来たのだとティアは思った。少し急ごうと足を早めた瞬間

ゴロロッピシャッ!

雷の轟音が海を揺らす。思わず上を見上げると海面は夜では考え付かないほど真っ赤に輝いていた。一体何なのか確かめたくなって上昇する。次第に水が熱くなってゆく。

「火事だわ!きっと船が燃えているんだ。」

引き返そうと思ったその時、視界に人影を捉えた。

「……ッ!ダンテ!」

もがいていたダンテはティアが駆けつける頃には力なく波に揺られていた。ティアはとにかく早く浜辺へ連れて行かなくてはと思い必死に泳いだ。

 砂浜にダンテを寝かせすぐに心肺と外傷の確認をする。

「とりあえず目に見える怪我はないわね。気を失っているだけだわ。」

全身からどっと力が抜けた。

タコの血は酸素を運ぶ能力が乏しく、これは人魚になっても変わらなかった。身体に鞭を打ってここまでやってきたのだ、もう海に戻る気力もない。幸い嵐はもう去っていたからダンテの様子を見つつ休憩することにした。



 「うっ……あれ、僕はどうしてここに?」

5分ほどでダンテは目を覚ました。

「貴方嵐にあって溺れていたのよ。身体は大丈夫?何ともない?」

「君はあの時の……身体はなんともないよ。君が助けてくれたの?」

ティアはうなずいた。

「ありがとう。ねえ、名前聞いてもいいかな。」

「ティアよ。」

「ティア、綺麗な名前だね。僕、君を一眼見たときからずっとまた会いたいって思ってたんだ。一目惚れしたなんて言ったら……笑う?」

「笑う訳ないわ!」

勢いよくかぶりを振ったティアは不安そうに続けた。

「でも私人魚よ。それでもいいの?」

「人魚とか人間とか関係ないよ。種族とか関係なしで、ティア、君がいいんだ。」

ダンテがギュッと抱きしめるとティアはおずおずとその背に手をまわす。お互いの熱のこもった瞳を見つめあった。

「ティア明日も会いたい。いいかな。」

「もちろん。私、絶対に会いに来るわ。」

二人は口づけを交わしそれぞれの家へ帰っていった。

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溺れる人魚 雪柳 @KegawaninattaNeko

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