「逆転人生ー宗教2世 親に束縛された人生からの脱出」について
今回は先日5月10日にNHKで放送された同番組の感想などを書いていきたいと思います。
なぜこうした文章を書くのかというと、私自身も番組内で扱われていた『エホバの証人』(以下はJWと略記)という宗教の2世として育てられてきたからです。(番組内でJWという名称は出てきませんでしたが。)
私自身の体験などは以前の項『続・宗教2世問題について』に書いてありますので、興味を持たれた方は読んでいただければ幸いです。
さて今回の番組の主人公は作家の
恐縮ながら、私は同氏の『解毒』というセンセーショナルな表紙の本を見かけたことがあるのですが、パラパラと見ただけで読了はしていません。
また、この番組『逆転人生』に関しても、存在は知っていましたが、きちんと観たことはありませんでした。
番組内容は現在40代半ばの坂根さんの半生を振り返るというものです。
この文章では番組のあらすじをあまり細かく辿ることはしませんので、必要な方は是非とも再放送等をご覧ください。
さて、まず私が目を惹かれたのは再現ドラマのJWの再現性の高さです。
温かく親密な集会の雰囲気を私もとても懐かしく思い出しました。集会前に縄跳びで遊ぶということは多分許されないと思いますが(笑)、兄弟姉妹の接し方や王国会館内部の雰囲気はとても再現性が高かったと思います。
またそれに続く、巧妙な子供の支配の仕方もかなり正確に表現されていたように思います。
ハルマゲドンによる滅びをとても忌むべき恐怖として植え付ける一方、「エホバはあなたのその行動をどう思われるかな?」という問いによって子供自身に行動を選ばせる、という婉曲で巧妙な支配の仕方です。
この子供自身に考えさせ決定させるというプロセスが実に巧妙なのです。2世の子供たちは言葉を覚えるのと同様に教理を教え込まれていますし、問いという形式をとりつつも言外のプレッシャーが強くあるので、子供がそこから外れた答えを出すことはほぼ出来ません。
もちろん子供たちも成長してゆき外の世界に触れるにつれ、JWの教えに疑問を抱くことが増えてゆくのですが、幼児の頃からのそうした教育により自分が今までそうしてきたという事実が積み重なってゆくと、子供自身も過去の自分の言動と整合性を取ろうとします。こうして自分が選択してきたことと親に強制されてきたこととが、本人にとっても曖昧になってゆくのです。
つまり「世から離れていなさい」という教理は、教会の教えに疑問を抱かせないためのものなのです。
番組中でも坂根さんが触れていましたが、教理による規制は生活のありとあらゆる場面に及びます。交友関係、テレビ、ゲーム、読む本、マンガ、音楽……全てに親の検閲が入ります。私自身も母親に見つかって捨てられた本やマンガが沢山あります(笑)
また坂根さんも陸上部に入ってみたかったということを述べておられましたが、私自身も部活をやれなかったことを今でも後悔しています。
あとは、JWのことを知らない方には衝撃的だったかもしれませんがムチという名の体罰です。これは「愛ゆえのムチ」であり、教育上必要なこととして当時は教団内で推奨されていました。
私も幼児の頃はVTRと同様に、何かある度にゴムホースで尻を叩かれました。物理的な体罰の効果というものは幼児にとっては効果が大きく、親に対してイヤという素振りすら出来なくなっていきます。
人格形成期におけるこうした体験によって主体性を奪われ、「自分のやりたいことが分からない」「自分にとっての喜び・楽しいことが何なのか分からない」まま成長して大人になってゆく2世信者がとても多いように思います。
ただこの辺りは世代や家庭毎によってもかなり実態が異なります。近年は教育のためにムチを打つことはしないそうです。
私が組織を離れたのは15年以上前になりますので、雰囲気も現在とはかなり異なっているのかもしれません。
いずれにしろ再現VTRはかなりよく出来たものだったと思います。
Twitter上の反応などを見ると「当時のことを思い出し気分が悪くなった」という元2世の方が多数おられたようです。
私自身はそうした心理的なダメージを受けることなく番組を観られたので、酷いトラウマとなってい方と比べればマシな方だったのかもしれません。
その後の坂根さんの結婚・離婚による排斥や、復帰を求める態度はやや特殊だと思います。
組織内で結婚して外の世界を知らないまま家庭を築いていった方たちは多くいると思いますが、坂根さんのように離婚して別の信者と再婚する……という事例はかなり少ないと思います。
この点に関して番組内では「坂根さんのように問題を起こした人間は無視されるのが暗黙のルールだった」という表現がありましたが、実際にはこれは暗黙のルールではなく、はっきりと明文化された教団の公式な指示でした。番組による再現はとても正確なものでしたが、この一点だけは指摘させて頂きたいと思います。
この差異は微妙なものに思えるかもしれませんが、教団に残っている側の後ろめたさがかなり違います。
排斥された人間に対しては街で偶然会った時に挨拶することも許されていません。暗黙のルールであれば、他の信者の目がない状況では普通に接する信者もいるかもしれませんが、明文化されたルールを積極的に破れるような人間ならば宗教者にはならないでしょう。
そしてこれは家庭内にも当てはまります。家庭内の誰かが排斥されたということになれば、同じ屋根の下で暮らしながらも言葉を交わすことも許されないという状況もあります。親子・夫婦・兄弟・姉妹であってもです。
こうした状況になることを恐れて、信仰心がもう無いにも関わらず教団での生活を捨てられない、という人も居るそうです。
その後、坂根さんは精神科を経てなんとか社会復帰し、社会の厳しさに触れていく内に「母親も宗教に縋るしかなかったのだ」と悟り、親を許せるようになる。そして苦しい半生を綴ったブログが出版社の目に留まり、作家デビューを果たすことになります。
これが同様に苦しんでいる人々の心に刺さり、そして母親を完全に許せるようになり、人生逆転……ということになります。
番組作りについて、番組に対するJW二世と一般の人との受け止め方の違い、自己責任についてなど、まだ書きたいことはあるのですが長くなりそうなので稿を改めたいと思います。
(続く)
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