サブスクとか無料とかについて
ここ数年でエンタメの受け取り方はとても変わったように思う。
むろんその萌芽はもっと以前からあったのだろうが、個人的には特にここ数年でその傾向が急速に強まったように感じている。
大きな要因はサブスクリプションの普及とYouTubeなどの無料動画サービスの普及にあると思っている。
サブスクリプション……通称サブスクとは月に一定の額を払い、そのサービスを幾らでも受けられるというものである。音楽や動画の配信サービスが一般的だと思うが、整体通い放題というのも見たことがあるし、『牛角』でひと月食べ放題というのも話題になっていた。
ここでは主に音楽や動画コンテンツについて取り上げたい。
しばし自分語りをさせていただく。
私が最初にCDを買ったのは中1の時だった。ミスチルとCoccoのアルバムを両者とも律儀にファーストアルバムから買った。両方とも中古だったと思う。新品で1枚のCDに3000円出すことは中学生には厳しかったからだ。ただ両者とも人気アーティストだったので、中古とはいえそんなに安くはなっていなかった。ミスチルの方はミニアルバム扱いだったのでもう少し安かったと思うが、Coccoのアルバムは1800円だった。
その後も中古CDを探すのが習慣になっていった。たまに500円とか300円で良いCDを発見すると嬉しかったものだ。WANDSのアルバムは80円で買った。ただ当時も「中古CDや中古本を買うことは製作者側に一銭も入らない」として問題視する声はあった。
聴きたい音楽が増えてくると次に利用したのがTSUTAYA等のレンタルショップだ。CDを300円でレンタルしてきて自分で録音するのだ。カセットテープ、MD、デジタルのWALKMANと再生機器は変遷していったが、一時期は毎週TSUTAYAに通って何かしらを借りていた。
東京に出てきてブックオフを巡るようになると、格安コーナーでいかに掘り出し物を探り当てるかという感覚で、ジャケ買いも結構した。ジャケット(CDの外装)のみからその音楽の雰囲気を想像して買うという行為のことだ。大外れ!というものにはほとんど当たっていないが、今も継続的に聴いている作品もあまりないかもしれない。
中古CDのことばかり書いてきたが、音楽は自分の生活にとって比重の大きなものになっていたので、好きなアーティストのCDは中高生の頃から新品で買っていた。別に製作者側に還元を……とか思っていたわけではなくて純粋に早く聴きたかっただけだが。
あとはタワレコに通うようになったのも結構大きいと思う。タワレコではかなりのCDが試聴出来るので、そこで一聴き惚れして買ったものも多い。
まあそんな感じで狭い部屋には何百枚ものCDが溜まっていったわけだ。
しかし私のこうした音楽体験は今の若者にどの程度理解されるのだろうか?
彼らの多くは「音楽はネットで聴くもの」と思っているだろう。CDという存在を見たこともない人間ばかりの世代になるのも、もうすぐのはずだ。
YouTubeに関して言えば私も10年前くらいから利用していたが、音楽を聴くためにはほとんど利用していなかった。当時はまだ、違法にアップロードされた不完全なものか、公式なものでも曲の一部だけの公開だったり……というのが一般的だったからだ。
それがここ数年で一気に事情が変わった。公式のミュージックビデオをCD発売前後にアップするアーティストが非常に多くなった。「その曲がどれほど多くの人に聴かれているか」の指標がCDの売り上げ枚数ではなく、再生回数によって計られるようになってきているのだろう。
少し前に「YouTubeでしか音楽を聴いたことがない」という音楽専門学校の新入生に対して講師が「せめて音楽の道を志すのならば、作り手に還元する意識を持とうぜ!」という話をして、その新入生がCDを買った……という話がされていたが、もうそれも時代遅れになりつつあるのではないだろうか?
私も今ではYouTubeとSpotifyという音楽配信サービスでほとんどの新しい音楽を聴いている。時には自分の持っている音楽でさえそっちで検索したりする。
映画等の映像作品についても述べてみたい。
私は自分のテレビというものを長らく所持していなかった。テレビを購入したのは一人暮らしを始めて1年ほど経ってからだ。従ってTSUTAYAに行ってもDVDを借りてくるという習慣は最初なかった。エロも紙媒体に頼っていたわけだ。
映画のDVDを時々レンタルするようになっていったのはプレステ2を購入してからだ。洋画・邦画問わずちょこちょこ借りたが、映画に関してはどちらかというとマイナーな作品が好きなので、近所のTSUTAYAのラインナップにはやや不満だった。映画に関しては音楽ほど多くを費やしてきたわけではないが、こちらも本当に好きな作品は購入した。
そういえば前の職場に、ほぼ毎日映画を1本以上観ることを日課にしている同僚がいた。多い時は1日3本とか観るそうだ。それでも彼の部屋には未視聴のDVDが積まれていた。彼も中古ショップで掘り出し物を探すことを習慣としていたが、ネットショッピングでも買い漁っていた。私と同じ安月給にも関わらずである。
彼はそれだけの金額を投じたことを後悔しているだろうか?……と言うと多分そうではない。彼はジャケット等も含めて作品と捉えていた節があるし、そもそも彼が好きな多様な映画が現在の配信サイトで網羅出来ているとは思えないからだ。
映画と音楽とでは、まだこの網羅率の差が大きいように思う。
しかし当然一部の映画ファンの中には「配信サイトで映画見放題になるなら、あんなにDVD買う必要なかったじゃねえかよ!」と憤慨している人もいるだろう。
こうした状況の変化は何をもたらしたのだろうか?
受け手にとっては好ましい変化だろう。好きなコンテンツを安価・無料で幾らでも享受出来るのだ。マイナーな部分に関してはまだカバー出来ていないところもあるが、大半の人にとっては充分だ。
言うまでもなく全ての作品を観ることは不可能だから、取捨選択はものすごく早くなる。少しでも面白くない、好みに合わない……と感じたならばすぐに次の作品にスキップすれば良いのだ。
音楽……というかJpopに関しては、イントロが短くなった、展開や曲調が目まぐるしく変わる曲が多くなった……というのは割と有名だろう。個人的にはヒャダインの登場が象徴的だと思っているが、彼の登場は10年以上前なので、最近ではそうした傾向はさらに強くなっているのだろう。
映画やドラマの映像コンテンツに関してはどうだろうか?
制作の仕方にまで……という点ではJpopほど影響は受けていないと思う。
ドラマなどはむしろ、単純な視聴率に一喜一憂して方針を転換していた昔よりも長い判断が許されるようになったり、視聴者の一気見を前提とした作品作り出来るようになったり……と商業性とのバランスで言えば、作りたいものを作り易い環境になったとも聞く。
一方の受け手には飽食の時代らしいストレスもある。
一部の人間は「常に観ようと思う作品が溜まっている」という状態を抱え込むのだ。バカげた話に聞こえるかもしれないが、それがストレスにもなるし、視聴する際も作品自体を楽しむという姿勢が崩れ、義務的に消費してゆく……という傾向に陥っている視聴者も多いのではないだろうか。
実はこうした傾向はこの場所、カクヨムにも当てはまる。
もちろん文筆というのは多岐にわたるから、例えば専門的な学術書だとかがカクヨムで読めるようになるとは思わない。小説の場合でも、直木賞・芥川賞を取ったような作品とはまだまだ質の面で差があるのだと思う(私はこうしたジャンルに詳しくないので、具体的にどう差があるのか述べられないが)。
ただライトノベルなどは出版化もされているわけだから、カクヨムでランキング上位に来るような人気作品はクオリティの面であまり差がなくなっているのだろう。カクヨム出身の大ヒット作家でも生まれれば、それが評判を呼び、さらに書き手が増え、クオリティも増々上がってゆく……という好循環になるのかもしれない。
真剣に「何か人生の教訓が得られなければ活字を読む意味など無い!」という人もいるだろうが、多くの人は何となくの暇つぶしや現実逃避として小説を読む。どんな姿勢も自由だし正しい。
小説のそうした要件をカクヨムは無料で満たすことが出来るのだ。
私もカクヨム内で様々な作品を読むようになった結果、金を出して本を買うことは減った。現状で私と同じよう傾向の人がどれだけいるかは分からないが、出版業界にもやはりこうした流れは及んでゆくのではないだろうか。
ただ出版物に関しては「ほとんどの人間は一ミリも興味を抱かないが、ごく一部の人間は1万円出しても買いたい!」という類のものが多い。他にも「やはり文字を読むには紙媒体でないと!」という層も根強かったりと……一様には語れないが。
カクヨムでより多くの読者を獲得するためには、恐らくこうした傾向を踏まえて作品を書いてゆくことも重要だろう。読者層を明確に定め、イントロで心を掴む、とにかく飽きないように展開してゆく……近年のJpop的なアプローチがPVを獲得するには正解だと思う。
しかし個人的には、消費されてゆく作品よりも、心に残り何度も読み返されるような作品にこそ価値があると思うし、そうしたものを書いていきたいと思っている
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