方言について
何年か前に『方言女子』というテレビ番組があった。
そういうのがある……と話題になっていたのを覚えているだけで実際に観たのかは定かではないが、要は可愛い女子にその地方の方言で視聴者に向かって告白をさせる……という短いシチュエーションドラマだったと思う。
視聴者は「やっぱ福岡弁の女子はかわいいよな!」とか「いや広島弁こそが至高だ!」とか「意外と津軽弁の女子もアリじゃねえか?」とか「いや結局最強は京都弁だろ!」とか言って盛り上がるのである(主にネットで)。
そういう作り込まれたものも良いのだが、しっかりとした標準語を話していた人から不意に出てくる方言に勝るものはない。これは異性・同性問わずである。
特に好きなのは、昔のことや地元のことが話題になった途端に急に出てくる方言だ。
「ちょっと昔の話になっただけで、なんでそんな容易く方言になるん?」と可愛くて仕方ない(相手がおっさんでも)。
きちんと標準語という体裁を守ってきた人が、思わず素の部分を見せてしまった……というのが堪らないのだと思う。
しかし、なぜこんなことが起きるのだろうか?
人は周囲に流されやすい生き物だという。標準語ばかりを話す集団の中で方言を出すのはかなり難しいが、電話で家族と話せば一発だ……というのはよく聞く話だ。
でも、ただ地元のことや地元に住んでいた頃のことを思い出すだけで、一気にイントネーションがその土地のものに変わるのだ。そういう人は、思い出や地元のことをそれだけきちんと想起しているのかもしれない。
少なくともそういう人は良い人……接しやすいヤツであることは間違いないと思っている。
逆に普段から方言バリバリの人もいる。
私は現在東京に住んでいるのだが、東京というのは多くが地方出身者の寄せ集めで、生粋の東京出身者というのは少ない。
大抵の人が(無意識のうちに)皆に合わせて標準語になっていってしまう中で、普段から方言を守って話すというのは結構難しい気がするのだが、そういう人は意識的に周囲に迎合しないようにしているのだろうか?それとも何も意識せずに自分を貫き通してしまう人間なのだろうか?
そういう人に反感を持つわけではないのだが、少し構えてしまう面はあるかもしれない。
しかし、実はそういう人に憧れているのかもしれない……という気もする。
私自身は愛知県の出身だが、方言というものがほとんど出ない。
出身地の話になり、私が愛知の出身であることを伝えると、「全然(方言などが)出ないね~」と言われたことが何回かある。
原因ははっきりしている。
身近な人との会話によってではなく、主にテレビやラジオ、またはマンガや小説によって言語能力を獲得してきたからに他ならない。……友達があまり居なかったと言い換えても間違いではない。
名古屋弁というと語尾に……「みゃー」とか「ぎゃー」を付けたり、相手のことを「おみゃー」と呼んだり……といったイメージだと思う。
実はこれを素で話しているのを聞いたことは一度も無い。
世代的に廃れつつある部分もあるのかもしれないが、私の出身が名古屋市内ではなく隣接する別の市であることが大きいように思う。生粋の名古屋っ子には未だ正統な名古屋弁が受け継がれている……と聞いたことがある(素で話しているのを聞いたことは無いが)。
私の出身地は岐阜県にも隣接しており、そちらの方言の方が身近では勢力が強かったように思う。
また、別の身近な方言と言えば母親の出身地である三重県のものだ。
三重の言葉は名古屋弁より関西弁に近いのだが、かなりニュアンスがキツかったような印象がある。相手に何か尋ねる時の言葉が軽くケンカ腰(使っている側にそんな意図はないのだが)に聞こえて、子供の時は少しビックリしたような思い出がある。
最近は全然行けていないのだが、一時期はよく一人で旅行に行っていた。
当然観光地巡りもするが、地方都市をやたら歩いたり、ローカルな電車に乗ったりするのが、その土地の〈らしさ〉をより感じられる気がしてとても好きだ。
話される言葉というのも大きな要素で、電車内の高校生同士の会話にはつい耳をそばだててしまう。彼らが何も意識せずに使っているその言葉にも、その土地土地の必然性があるのだと思うからだ。
気候、文化、産業、その地が周辺の地域の中で果たしてきた歴史的役割……など様々な要素が言葉にも表れているのだと私は思っている。
日本各地、方言は様々だ。
アイヌ語はまた別言語ということになるだろうが、例えば津軽弁を話す人と沖縄の方言を話す人が直接コミュニケーションを取るのはなかなか苦労することになるだろう。同じ日本語圏内という括りにあるにも関わらずである。
世界には日本よりも広い国がある。
当然物理的な距離が遠ければ言葉も遠くなるのだろう。
そういった人達同士でもコミュニケーションが取れるように、各国の標準的な国語が定まっているという事実が凄いと思うし、そんなことが成り立っているのが不思議な気もする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます