ラジオについて
ここ数年、移動中はほとんどラジオばかり聴いている。
最初は週に1、2番組を聴いているだけだったが、時が経つにつれて聴く番組が増えていき、今では移動中はラジオに埋め尽くされている。
近年はまたラジオの魅力が見直され、聴取率も上がってきているらしい。
要因の一つはスマホの普及にあるそうだ。
昔は陰キャが深夜に部屋でラジカセで聴くか、専用のラジオ受信機でおっさんが競馬中継を聴いているようなイメージだったが、スマホで簡単に聴けるようになったことはラジオを聴き始めるハードルをぐっと下げたようだ。
加えて画期的なのがradikoというアプリの登場だ。radikoのプレミアム会員(月300円ちょい)になればタイムフリー・エリアフリーで、日本全国のどの番組も一週間以内であればいつでも聴けるようになった。何の所縁もない地方のローカル番組を探ってみる……というのもロマンがある。
さらに言えばYouTubeの普及は大きいだろう。本来で言えば違法なのでお勧めするわけにはいかないが、検索すれば多くのラジオ番組がアップロードされている。こちらはアップロードされていれば昔のものも聴くことが出来るが、不確実なものだし、あまり有名でない番組に関しては誰もアップロードしない。そもそも違法だし。
ただ実際の所はYouTubeをきっかけにラジオを聴くようになった人も多いと思う。もっとシステムが整理されラジオ局にきちんと還元されるようになって欲しいと思う。
移動中がラジオで埋め尽くされてきたのはここ数年だが、思い返せば高校生の頃もラジオを聴いていた。
当時は自分の部屋やテレビというものがなく、明確に自分の所有物と言えるのはラジカセだけだった。
もちろん当時はタイムフリー機能などはない。時間になったらヘッドホンを付け、ラジオのスイッチを入れ、周波数を合わせて聴き始めるのだ。
今は移動中か家事をしながら聴くことがほとんどだが、当時はラジオを聴き始めたら他の作業はストップしていた(親へのアピールとして教科書は広げていたかもしれないが)。今の方が便利なのは間違いないが、当時の方が集中して聴いていたというのも確かだろう。
高校生の当時よく聴いていたのはNHKーFMの『ミュージックスクエア』という番組だ。たしか月~木の21時から22時30分くらいだったと思う。これは純粋に音楽番組だった。
その頃はCDを試聴するということも簡単ではなく、音楽雑誌に載っていた気になるバンドの音源に触れられる機会というのは非常に有り難かった。「テレビの音楽番組のランキングで入ってくるほどは売れていないけど、今の若者の鳴らす音楽」……というものをとてもリアルに感じられた。
この番組には30分くらいのゲストコーナーがあって毎回結構深い話をしていた。音楽を始めるようになったきっかけから、製作過程に至る苦悩などもかなり赤裸々に話すアーティストも多かった。
当時は音楽雑誌もよく読んでいたが、やはりアーティスト本人の声が聴けるというのは魅力で、実際の話し方も含めてより生の人間性に触れられた気がする。
とにかく思春期に触れたこの番組で、自分の音楽的志向は作られたように思う。
高校を卒業してからは生活リズムが変わったこともあり、ラジオを聴くことはあまりなくなった。
だが先述した通り、およそ10年前にYouTubeをきっかけに再びラジオを聴くようになった。ほぼ全て深夜ラジオだが。
その最初のきっかけとなり、現在も一番好きなラジオ番組は有吉弘行の番組だ。(有吉氏があまり世間に広めるな!という旨を言っていたことがあるので番組名はあえて伏せる。調べればすぐ出てくるが。)
当時、毒舌芸人として再ブレイクしてきた有吉氏が私は大好きだった。立場が上の人間に対しても捨て身で噛みついていく……一見滅茶苦茶のようにも思えるが、実はその言葉は視聴者がうっすら思っていたこと言語化したもの……という芸風にとても爽快感を感じていた。
ある日YouTubeを眺めていたら、そんな彼のラジオ番組が出てきた。
当時はまだ自分はパソコンでしかYouTubeを視聴する環境がなかったのでそこまで深くはハマらなかったのだが、やがてスマホを手に入れ、移動中に聴くようになると毎週の一番の楽しみへとなっていった。
同番組は「マジでこれ電波に乗せて放送して良いの?」と思うようなヒドい芸能人への悪口と下ネタを基調とする番組だ。
有吉氏は現在はテレビではほぼMCを努め、常識的な振る舞いを求められることが多くなったが、ラジオというホームになるとまだまだ尖っている。尖っている……というか人とは違った感性を前面に出している。いや、それも常識的に物事を判断し言葉にする能力が優れているから笑いになるのだが。この部分を説明するのは難しいのだが、少し聴けば有吉氏が本当に話芸の実力があることが分かると思う。
だが実は私がこの番組で一番好きなのはその部分ではないのだ。
職人たちから送られてくるネタメールのコーナーが最も好きなのだ。
この番組でもネタコーナーは幾つかあり、徐々に変遷していっているが、基本的には芸能人への悪口と下ネタだ。とにかくヒドい。
直接的にメチャクチャな言葉で悪口を言うパターンもあるが、「よくそんな所見つけてきたな!」とか「何年前の事件を未だに引っ張り出してきてんだよ!」というような性格の悪さが見えるパターンも多い。
下ネタに関しては直接的に変態なものも多いが、もう何周も周り過ぎて一般人からすれば「何でそこに性的興奮を覚えるのかまるで理解出来ない」というものも多い。
また意外な笑いとしてはネタ職人の強烈な刃が自分に向かう、というものがある。
彼らは自分たちがロクでもない人間であることを自覚しており(むろん実生活では定かではないが)、その自虐は時に文学的ですらある。……いや私はとにかくこの部分がメチャクチャ好きなのだ。現代日本の一番のブルースはここで聴けると半ば本気で思っている。
お笑い芸人の瞬発力やその場での対応力は本当にすごいが、時間を掛けて練られた一発のネタに関してはネタ職人の方がすごいのではないだろうか。
このようにリスナーの参加度合いが大きい、番組を共に作っていく感覚が強い、というのはラジオの大きな魅力の一つだと思う。
当然と言えば当然だが、番組によってスタイルは全然異なってくる。
引きこもりと陰キャのバイブル『オードリーのオールナイトニッポン』はオードリーの二人の近況エピソードトークを基に二時間ずっと漫才をしているような番組だ。ネタコーナーはほとんどなく10年以上このスタイルを続けているのは本当にすごいと思う。
自他共に認めるオードリーチルドレンと言えるのがcreepy nutsだ。なぜにオードリーチルドレンが漫才師ではなくヒップホップアーティストなのか?と問いたくなるが、彼らの基盤となっているのはオードリーとRHYMESTERなのだそうだ。
『creepy nutsのオールナイトニッポン』では、まあとにかく喋り倒す。MCバトル日本一に三度輝いているラッパーR指定が喋れるのは理解出来るが、それ以上に喋り倒し暴走するのがDJをしている方のDJ松永である、というのは意味が分からない。
ふざけた部分だけでなく、オードリーチルドレンらしく近況の仕事上の悩みを赤裸々に語るのも特徴だ。
『DCガレージ』はアルコ&ピースというお笑いコンビの番組だ。
元々は有吉氏の番組のアシスタントをきっかけにラジオ芸人となった彼らだが、この番組ではそれぞれの特徴を存分に発揮している。もっともらしいトーンでウソをつき続ける平子氏。川崎のヤンキー出身らしく、絶妙に粗野で、調子乗りで、コミュ力を発揮する酒井ちゃん。
この番組のネタコーナーは多くはないのだが、終盤にある「LIFE」というコーナーは絶品だ。有吉氏の番組のネタコーナーとも近いが、不条理なショートショートの文学作品が新たな価値観を創出していっているような気さえする。まあ基本的には下品なネタなので合わない人も多いかもしれないが。
アルコ&ピースの二人に乃木坂46の中田花奈さんがアシスタントとして加わったのが『沈黙の金曜日』である。
密室感の強い『DCガレージ』とは違いこの番組は割りとポップだ。
男女が混在する番組はポップになりやすいし、この番組はゲストとして若いアーティストやアイドルが登場することもそうした雰囲気作りに影響しているのだろう。これはラジオに限らずだが番組や共演者によって自分の役割を変えられる演者は有能だと思う。
この番組での中田花奈は出色だ。
もともと学習能力とレスポンスに優れているのだろう。深夜ラジオを多数聴きすぐにアルピーに順応した。
尖った発言をして世間的な乃木坂のイメージとのズレを心配したアルピー二人に止められる……という構図がしばしばなのだが、かなりキツい毒舌を吐いても彼女の印象が悪くならないのは、覆せない根本の育ちの良さがあるからだと思う。
他にも紹介したい番組は色々あるのだが、長くなるのでこれで終わりにしたいと思う。
改めてラジオの魅力とは何だろうか?と考えてみる。
一つはやはりどこでも聴ける、何かをしながら聴けるという手軽さだろう。特に歩きながら聴くのは有酸素運動的な効果も相俟ってか、気分が良い。
もう一つあるのは、情報が制限されているからこそ聴き手の想像力が働くという点だ。情報は多ければ良いわけではない。少ない情報にこそ聴き手は集中するのだ。ラジオは番組の性質上出演者も少なく、聴き手もよりパーソナリティの人間性を知りたいという要望が強くなる。……この深さこそがラジオの魅力だろう。
ともすれば初めて触れる人間には入りにくいスノッブな世界になってしまうことは欠点でもあるが。
よく言われるのは、ラジオに於いてはリスナーとパーソナリティとが一対一の関係性である、ということだ。
テレビはどんなバラエティ番組でも「求められる役割を演じる」という部分が強い。より多くの視聴者に向けた最大公約数の番組を作っていく……というものがほとんどだろう。
対してラジオはどうしてもパーソナリティの素が出る。同じような芸能人が出ていても番組作りの根本的な思想が違うのだ。
メディアが凄まじい勢いで発展していっているこの時代に於いて、今後ラジオはどうなってゆくのだろうか?
結論から言えばラジオはなくならないと思う。人は今後も音声だけのコンテンツを求め続けるだろう。
ただ媒体としてラジオ局というものが存続し続けられるかには疑問が残る。
YouTubeをはじめ無数の配信メディアが現れ、その気になればスマホ一つあれば誰でも自分のラジオ番組が始められる、という状況に既にある。人気のある有名人の話が聴きたい……というだけであれば(そしてそういう需要もかなりあるだろう)、ラジオ局という仲介者を通す必要もないだろう。
だがすぐに全てのラジオがそうしたものに取って替わられるかというと、そうではないと私は思っている。
やはり現行のような番組のクオリティを保つためには、人が集まってくることがどうしても必要だ。
視聴者や投稿者がある程度まとまって存在することでしか保てないクオリティがあるし、SNSや他のメディアとの関連した企画などはそれをまとめる存在がどうしても必要だろう。
まだまだ現行のような、ラジオ局の作るラジオ番組は強いと私は思っている。
下品で口汚く、人間の正直な部分を見せてくれる深夜ラジオという文化が私は大好きだ。
死ぬまでラジオを聴きながら世間に悪態をついていたい。
だからこそ……ラジオの一部分を切り取って叩きの対象としてネットに上げることは本当にやめて欲しいと思う。
追伸……数えたら週に14~18番組ぐらい聴いていた。
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