天空神のブローチ

 隕石が迫っているローネ村。

 そこにフリンだけではなく、もう一人の人物が残っていた。


「……もうオレに構うな。テメェだけで勝手に逃げろ」


 修道院でケガをしていた帝国兵である。

 彼は結局、横暴な態度をとり続けて聖魔法による治療を受けられなかったのだ。

 そして、ほぼ全員から嫌われていたために、隕石からの避難のときも気にかけてもらえずに放置される結末となったのだ。

 だが、例外が一人だけいた。

 フリンである。


「帝国兵さん、コツコツと成すべき事を成していけば、宝石を磨くように価値を高められるってお兄ちゃんも言っていました! 諦めてはいけません!」


「なにワケのわからねぇことを言ってんだ……」


 フリンは、ケガをして動けない帝国兵をズルズルと引きずるように運ぼうとしているが、幼い少女が体格の良い大人を移動させるのは困難だ。

 汗だくになり、衣服を掴む指がすべって転びそうになりながらも、未だにローネ村の中にいる。


「ガキ、なんでオレを助けようとするんだ? テメェのケガだって、オレと同じ帝国兵がやったもんだろう?」


「そうですね、あなたと同じ帝国兵です。本当は怖いです……。でも、動けずに死ぬのはもっと怖いと思います」


 フリンは二度と足が動かないと宣言されたときに、計り知れない絶望を味わった。

 動けない帝国兵にも、そういう気持ちがあるのではないかと感じてしまったのだ。


「だから、危険を顧みずに助けようとしてるってのか?」


「それに……わたしのケガが治ったのも聖女様の……神様のおぼしめしだと思うんです!」


「聖女……聖女ねぇ……。あのガサツな聖女がケガを治さなかったからこんな事態に。……いや、オレが素直に謝罪して治療を頼まなかったのが悪いか。それをしなかったせいでガキを巻き込んじまって最悪の気分だぜ、クソッ!」


 帝国兵は悔やむが、今更なにもできない。

 ただの人間に時間を巻き戻すこともできないし、落下してくる隕石をどうにかすることも不可能だ。

 天使のような心を持つ少女を巻き込みながら、頭上から降ってくるすべてを破壊する隕石を睨み付けるしかない。


「チクショウ、恨むぜ神様……。本当にいるのなら、使いでも送ってきてどうにかしてくれよ……」


 ――そのとき、力強い足音が近付いてきた。

 そちらを向くとユニコーンと鬼熊――その背に乗った人間が見えた。


「あ、アイツらは……」


「いた!」


 それはランとフィナンジェだった。


「フリンちゃん……と、あのときの帝国兵か~……」


「フリン、無事だったか!」


「はい、お兄ちゃんみたいに正しいと思うことを努力してみたんです!」


「お兄ちゃんみたいに……か。いや、感慨に耽るより先にやることがある。今からじゃ逃げる時間はない、急ごうランちゃん」


 二人はフリンと――ついでに帝国兵の無事を確認すると、近くにあった天空神のほこらに走った。

 一か八か、壊れている天空神のブローチを使って隕石を止めようというのだ。

 ゲームなら捧げ物として天空神を満足させることができて隕石は消滅する。


「ランちゃん、その壊れた天空神のブローチで大丈夫なのかい? オレ様としては、逆に怒らせてしまいそうな気がして使えなかったんだけど……」


「大丈夫です! フィナンジェ様! ちゃんと修理しましたから!」


「こ、この短時間で……すごいな……」


 天空神のブローチの壊れていた部分は辛うじてくっついてはいるが、何かカピカピになっている。


「お米は万能です!」


「それは修理とは言わな――」


 天空神のほこらに到着したランは、タッチダウンのように天空神のブローチを捧げた。

 その瞬間――神秘的な輝きが現れて声が聞こえた――


『どうも、ありがとう人間ども。神である吾輩をここまで侮辱した礼だ……、絶対に許さぬぞぉ……!』


「……ランちゃん、隕石がさらに大きくなったように見えるんだけど!?」


「これは予想外ですね?」



――――


あとがき



面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

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