天空神のほこら

 帝国兵数十人は全員が治療されて、正座で並ばされていた。

 その前にはランとフィナンジェが笑顔で立っている。


「えーっと、というわけで私のサーチスキルによると、数日後に隕石が降ってきて死んじゃうことになるので、死にたくなかったら文句を言わずに村から立ち去ってください。立ち去らなければ先ほどのように死ぬような思いをしてもらうことになります」


 帝国兵たちから『ヒィッ』という声が聞こえてくる。

 よっぽど、ユニコーンと鬼熊に無双されたことがトラウマになったのだろう。

 対人戦闘ならともかく、動物に蹂躙されるというのは訓練をしていない。

 心が折れるのも当然である。


「も、もしかして何度も治療と半殺しを繰り返して……。ハハハ……仮にも王国の聖女がそこまでするはず――」


「ランちゃんはやるよ、商売の神にかけて保証する。それにさっきの地獄絵図を思い出すんだ。現実逃避をしてはいけない」


 フィナンジェが帝国兵に釘を刺すと、全員がビクッと身をすくませた。

 どうやら観念したようだ。

 帝国兵の隊長と思われる一人が、荷物をまとめるなどの指示を出し始めた。


「ふぅ、コレにて一件落着かな。……あ、そうだ。天空神のほこらって、ここらへんにあるんだっけ。念のために見ておかないと」


「ああ、たしか村人がそう呼んでた場所なら――そこにあるぞ。オレたち帝国兵の汚れた衣服置き場になってるけど」


「え……」


 今まで気が付かなかったのだが、帝国兵から出る大量の汚れ物が置かれている場所――何か盛り上がっていると思ったら、小さなほこらが下に埋まっていたのだ。

 そちらの方に意識を向けると、怒りの魔力が迸っているのが感じられた。


『吾輩は許さぬ……許さぬぞ……』


 ランにだけ怒気の籠もった不思議な声が聞こえた。


「ちょ、ちょっと急展開過ぎない」


『貴様らを逃がす前に天罰を下すのだ……』


 空からゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……と大気が揺れるような音が響いてくる。

 嫌な予感がして頭上に眼を向けると――


「わーおほしさまだー」


 そこにあるモノを見て、ランは思わず現実逃避で棒読みになってしまう。

 肉眼で見えるくらいの距離に巨大なモノ――隕石が迫ってきていた。

 他の人間もそれに気が付いたのか大慌てになり、ランに質問を投げかけてくる。


「ま、まだ数日の猶予があったんじゃ!?」


「それが……どうやら天空神のほこらを汚された神様が、予定を早めちゃったみたい……」


「えぇーッ!?」


 突然すぎる事態に思考が上手く回らなくなるのは当然だが、ランは乙女ゲーの理不尽展開である程度耐性が付いていたので他より早く立ち直った。


「今すぐ村のみんなを避難させないと! まだ落ちてくるまで時間があるから、間に合うかもしれない!」


「わかった。オレ様は村長のところに行ってくる」


 さすがにフィナンジェは頭の回転が速い。

 個別に呼びかけるより、先にトップである村長を通してから一気に村人全員に伝えた方が混乱が少ないと考えたのだ。


「よ、よし! オレたち帝国兵は撤退――」


「事情を知っているあなたたちも村人の避難に協力してもらうわよ。それとも、また私のペットたちとじゃれ合いたい?」


「ひっ、わかった手伝う!!」


 無事に脅し――もとい説得して帝国兵も手駒にすることに成功した。




 ***




 それからはスピード勝負だった。

 村長から各家庭へ帝国兵経由で通達して、スムーズに避難を進ませる。

 走ることが難しいお年寄りなどはフィナンジェや、ユニコーン、鬼熊などが手伝う。

 そうして何とか森の離れた場所に避難が完了した。

 ここまで順調にいったのは、どうやら修道院で『聖女様が隕石落下を警告している』と話が先に広まっていたためのようだ。


「意外と修道院のことが功を奏したのね……」


 避難場所の森の中で人数確認を手伝っているランは、一人でうんうんと納得していた。

 そこでふと――思い出した。

 治療したてでまだ歩けない女の子のことを。


「誰か、誰か娘のフリンを見ませんでしたか!?」


 そのヴィジーの呼びかけを聞いて、確信に変わった。


「まだ……フリンちゃんが村に……。行くよ、ユニコーン、鬼熊!」


『ヒヒィーン!』


『グォン!』


 ランは躊躇せずに走り出そうとした。

 その肩をフィナンジェが掴んで止めた。


「危険だ、ランちゃん。行くならオレ様だけでいい。……なんで……どうして、そんなに誰かのために行動できるんだ」


「そんなの理由はいりません」


「だからなんで……ッ!?」


 フィナンジェは焦燥した表情で強く言い放ち、ランの両肩を震える手で掴んでいた。

 たしかにランが行けば救出の確率は大幅に上がるだろう、しかし――

 大切な価値ある者――妹とランを天秤にかけられている状態で気が気ではないのだ。

 それは自分の命すら投げ捨ててもいいと思えるほどの宝物なのだから。

 そんな中、ランはいつもの明るい表情で笑って、いつもの言葉を紡ぐ。


「何となくですよ」


「……こんなときまで軽いなぁ、ランちゃんは……。わかった、オレ様も一緒に連れて行ってくれ。妹の行動範囲ならある程度わかる」


 本当ならランに任せてもいいところなのだが、それでもフィナンジェは兄として危険地帯に飛び込もうとしている。

 それを見ていたランは、お兄ちゃんって格好良いなぁと思ってしまった。


「わかりました。ただし、ユニコーンは乗せるのを嫌がっているので、鬼熊に」


「ああ、振り落とされないようにしがみ付くよ」


 二人と二匹は、隕石が迫るローネ村へ向かうのであった。




――――


あとがき



面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

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