聖女的交渉術
「さてと、帝国兵をぶっ潰してご退場願いますか!」
あのあと修道院すべての治療をすぐに終わらせてしまったラン――いや、ただ一人だけ横暴な帝国兵は治療せずに放置しておいたが――とにかく、帝国兵が集まっている民家へ向かっていた。
魔王のような表情を浮かべながら、左右に戦いたくてウズウズしているペット二匹をお供にしている。
「お、おい……ランちゃん。どうするつもりだよ……?」
「おや、フィナンジェさん、さっきまでは私に対して涙目になりながら膝から崩れ落ちて感謝をしていたのに。どうして今はそんな不安げなんですか?」
「そ、それは別にいいだろう!? ……誰にも言うなよ、特にあの王子とかには」
「はいはい、男の子ってそういうところを気にしますよね」
フィナンジェは珍しく年相応の照れ顔で、ゆでだこのように真っ赤になっている。
大商人の跡取りという部分で気を張っている以外は、まだまだ子どもなのだ。
「ほんっとにランちゃんは聖女っぽくないよな……」
「んー、聖女ってすべてを救わなきゃダメみたいなところがあるじゃないですか。でも、私は助けたい相手だけを助けて、倒したい相手だけ倒す! 私の歩いた道が聖女らしさとなるのです!」
「……つまり、何となくか?」
「平たく言っちゃえば、何となくですね!」
「まぁ、たしかに教科書通りの聖女なら修道院の横暴な帝国兵も治療していただろうな……」
ランはあのあと、最初に治療しろとか言ってきた自分勝手な帝国兵を放置し続けたことを思い出した。
最後まで治療されず、周りの元気になった患者にクスクスと笑われていた。
「死にそうでもないし、改心もしてない。痛みで反省しながら、自力で治してくださいということですよ」
「……ところで、倒したい相手だけ倒すって……他の帝国兵を倒すってことか?」
どうやらランの心が言葉に出てしまったようだ。
慌てて取り繕うことにした。
「そ、そんなわけないじゃないですかー。曲がりなりにも聖女なんですから、暴力とかは振るいませんよ?」
「さっきの言葉からしてかなり不安だけど……。一応、王国と帝国の国際関係もあるし、ここはオレ様の交渉に任せてほしい」
「うん、もちろんですとも! この私が、そんな簡単に手を出すように見えますか?」
「そうだな、聖女だもんな」
そうこうしている内に、帝国兵たちが居座っている民家に到着したのであった。
***
民家の壁がド派手な音をして吹き飛んでいた。
ボロ雑巾のようになった帝国兵が転がっていく。
「ら、ランちゃん!?」
「フリンちゃんのことを『小さくて見えないから何度も脚を踏んじまった』とか言ったのでつい」
ランの怒りに反応したユニコーンと鬼熊が帝国兵を蹴散らしていっている。
帝国兵も剣で応戦しようとしているのだが、魔力で強化された毛皮には刃が全く通らない。
逆にユニコーンが蹴れば帝国兵の鎧はひしゃげ、鬼熊がパンチをすれば帝国兵は面白いように弾かれて飛んでいく。
二匹による一方的な蹂躙と言っても過言ではない。
「あ、でもでも、ペットが勝手にやっているだけで、私は直接手を出していないしセーフなのでは?」
「ランちゃん……キミって奴は……」
フィナンジェは頭を抱えてしまっている。
その瞬間――ペットと聞いた帝国兵の一人が、ランを直接狙いにやってきた。
主人であるランさえ倒せばどうにかなると考えたのだろう。
刃がランに突き立てられようとしたそのとき、フィナンジェが横から出てきて短剣で弾いた。
帝国兵は滑稽にも剣を落としてしまう。
「キミだって女の子なんだから、少しは気を付け――」
「く、くそっ! なんでガキ一人に怪我させた程度でオレたちが!?」
ランはその帝国兵の言葉を聞いた瞬間、再び沸点まで怒りが達した。
「どりゃぁ!!」
拳を強く握り、思いっきり帝国兵の顔面に叩き付ける。
脳を揺らされて倒れる帝国兵。
ランは拳がじんじんするので、自らに回復魔法を使う。
「ら、ランちゃん……」
「あ、直接手を出しちゃいました。えっへへ……」
そこでランは少し気まずくなってきた。
フィナンジェが交渉をしようとしていたことを思い出したのだ。
この状態ではそれも不可能だろう。
「あの……フィナンジェさんのジャマをしてしまってごめんなさい……」
「いや、いいさ。オレ様の代わりに怒ってくれたようなもんだしな。スカッとしたよ、ありがとう。キミのそういうところが尊い価値であり、好きなんだ」
何か良いシーンっぽく見えるが、死屍累々で帝国兵が転がっていた。
白目を剥いてピクピクと痙攣している者、モンスターを操る女魔王とうめき声をあげる者、武器を捨ててガタガタと震えながら死んだフリをしている者。
一方的な蹂躙――もとい聖女的交渉術は終わった。
ちなみに手加減を指示していたので死者は0のようだ。
――――
あとがき
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
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