軍靴の音に怯える村
ヴィジーとフリアの親子から村の現状を聞くことが出来た。
どうやら帝国兵たちの横暴は目に余るものだったらしい。
それほど生活の豊かではない村人たちの家や食料を接収して、我が物顔で居座っているという。
国に所属する兵士とは思えないくらい粗暴な連中だ。
そこらの山賊や海賊と変わらないだろう。
今までルベール商会の使いとしてやってきているフィナンジェがなんとか帝国兵たちを抑え込んでいるらしく、それがなかったらヴィジーとフリアもどうなっていたかと考えてしまいゾッとする。
ちなみに先ほどの大量の汚れ物も、帝国兵から押しつけられたものだ。
他にも村人たちは、無償で様々なことを奉仕させられている。
そんな風に扱うなんて酷いと、ランは憤慨したのであった。
さっそく善は急げと、他の建物より少しだけ大きい村長の家に案内してもらったのだが――
「エドガー村長。外からやってきたお客様を紹介します。こちらランさんです」
「初めまして」
体格の良い中年村長――エドガーに、ランはお辞儀をした。
「ランさんは森に住み着いていて、人間社会について知りたいそうです」
「動物さんたちの群れの王様……リーダーをしているんだって!」
せっかくの紹介だが、ヴィジーとフリアはとてつもなく勘違いされそうなことを告げていた。
当然、それを聞いた村長のエドガーは――
「動物に育てられた野生児か……大変だったんだな……」
という反応をしてきた。
ランは聖女から野生児に進化した。
「まぁ……帝国兵の奴らに好き勝手にされているこんな村だが、自由に見ていってくれ……」
エドガーは深いため息を吐く。
ランがここに来るまでに見てきた村人たちの表情も似たり寄ったりだった。
駐留軍というシステムすべてが悪いとは思わないし必要なケースもあるのだろうが、ここの帝国兵はそうではない。
実際、この地域は熊がいる程度なので他国の駐留軍は過剰だし、ランの経験的に新たに現れたゴブリンも熊よりは危険ではない。
(いや、それよりも――)
今は帝国兵ではなく、もっと優先すべき危機が迫っていた。
それを伝えなくてはならない。
「エドガー村長、実はお伝えしなければならないことが……」
「ん?」
「このローネ村に隕石が落ちてきます!」
ランは真剣な表情をして告げた。
村一つが大変なことになるというのはそれなりに伝えるために勇気が必要だ。
清水から飛び降りるとまではいかないが、相手が慌てふためくだろうことが想像できてしまって、それなりに覚悟がいるのだ。
「……何を言ってるんだ? 頭大丈夫か、この野生児?」
(――そう、このように真実を知って慌てふためいて……は?)
「そ、村長……ダメですよそんなことを言っては。ランさんは人間社会に慣れてない子なんですから……」
「そ、そうか……帝国兵のことでつい、可哀想な子に配慮する余裕すらなかった……許してくれ……」
メチャクチャ優しい眼を向けてくるエドガーとヴィジーの大人コンビ。
まだ小さなフリアは頭にクエスチョンマークを浮かべている。
ランは状態が飲み込めず、数秒後にやっと言葉が出せた。
「……え? あの、隕石が降ってきて村が大変なことに……」
「そうかそうか……うん。大変だったんだな、ランさんは!」
「村でゆっくりしていってね!」
ゆっくりしていったら隕石が降ってきて私まで死ぬわと突っ込みたかったが、ここはグッと堪えた。
どうして隕石が降ってくるということを信用されないのか考える。
それは初対面で森に住む頭おかしな野生児と勘違いされてしまったためだろう。
ならば、ここはもう正体を明かしてしまってもいいかもしれない。
「ふふふ……」
「ら、ランさん……急に笑い出してどうしたの?」
「何を隠そう、実は私は聖女なんです!!」
ランは言ってやったとドヤ顔を披露した。
王国や教会から地位を保証されている聖女なら信頼度抜群だろう。
「可哀想に……自分を聖女だと思い込んで……」
「えっ、いや、本当なんですって……」
村長は本物の聖女以上に慈愛に満ちた眼をして、ランの肩をポンと叩いた。
「聖女様が森の中で動物の群れのリーダーなんてやってるわけないんだぞ? 何か食べるか? お腹がいっぱいになったら気分も落ち着くぞ」
「あ、たしかにお腹が減ってきている。いただきま――じゃなくて、本当なんですってぇぇぇ!?」
「よしよし、わかったわかった」
これでは埒があかない。
どうしようかと悩んでいたそのとき――
「修道院にいるケガ人たちに食事を持っていったあと、ランさんも一緒に食べましょうね」
「――ケガ人、それだ!!」
突然、ランは大声をあげて三人を驚かせた。
――――
あとがき
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
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