突撃! 隣のローネ村!
何やら駐留軍の偉い人と話をしてくるらしく、フィナンジェとはいったん別れた。
ランはお供の二匹を連れて村の中を散策してみることにした。
「何かさっき、フィナンジェの顔が青ざめてたけど、どうしたんだろう? ただ村にやってきて、皆さんとお話しして平和的に解決しようというだけなのに」
ね~、とユニコーンに同意を求めようとするもサッと目を逸らされ、続いて鬼熊にも同じリアクションを取られた。
ランは特に気にせず、のほほんと村の中を歩いて行く。
とりあえず村人から話を聞いてみないことには行動しにくいので、彼らと接触を図ることにした。
「お、あんなところにお母さんと小さな娘さんが。あのー、ちょっといいですかー? お聞きしたいことが……」
「はい?」
ランが声をかけた美しいご婦人と、その後ろに隠れるようにしている気弱そうな女の子が顔を向けてきた。
「私は聖じ――じゃなくて、えーっと……」
聖女という身分が割れると情報収集に差し支えるため、隠しておいた方がいいかもしれない。
ランはいったん口を閉じてから思考を巡らせた。
「わ、私はラン! 近くの山に住み着いた普通の森ガールです!」
「も、森ガール……?」
(しまった、森ガールなんて最近では通じないか!? 私も小さい頃に聞いたくらいだし。いや、そもそも乙女ゲーの中で使われていないか)
するとご婦人は哀れむような目を向けてきて、ポンと肩を叩いてきた。
「独りで山に住むなんて、きっと壮絶な人生を送ってきたのね……。わたしでよければ、人間社会のことを教えてあげるわ」
何か勘違いされているようだが、聖女という身分を隠せれば問題ないので気にしないでおいた。
「はい、このローネ村のことをお聞きしたいのです!」
「それじゃあ、川に洗濯に行くから、そのあとにでも――」
ランは気が付いた。
ご婦人が大量の汚れた衣服が入った籠を持っていることに。
「それじゃあ、私もお手伝いします! 洗濯しながらでも話していただければ!」
ランは洗濯程度なら楽勝だと思って、胸を叩いて任せろというポーズを取った。
***
「ゼェ……ハァ……」
川辺にやってきたランは、ただの洗濯でバテていた。
それもそのはず――このファンタジー世界の洗濯はそれなりにハードなのだ。
無駄に文化をそれっぽくしている設定なため、洗濯機などはない。
そもそも、洗濯板すら存在しないのだ。
スカートの裾を掴んで持ち上げながら、素足で洗濯物を踏み洗いするのみ。
それだけならまだ平気と思うかもしれないのだが、汚れを簡単に落ちやすくする石けんもないので大変だ。
(そういえばネットで見たけど、洗濯板とか石けんって、十六世紀頃に普及したんだっけ……。お城なら魔法でパパッとやってくれてたけど、小さな村に魔法使いはいないか……)
ちなみに今回は石灰を汚れ落としに使っているのだが、中世のある地方では子どもの尿を用いていたケースもある。
洗濯とは今よりもずっと過酷なものだったのだ。
「あら? 森に住んでいるのに意外と体力がないわね?」
「ないね~お姉ちゃん」
ケロッとした顔で洗濯物を踏み続ける母子は涼しげな顔で笑っていた。
現代人や城暮らしとは違うポテンシャルを感じてしまう。
「お、鬼熊とユニコーン……洗濯物踏み踏みは任せた! 洗濯物を傷付けないようにね!」
『グマー!』
『ヒヒーン!』
お供の二匹は器用に洗濯物を踏み洗いし始めた。
鬼熊はどうやってか爪を引っ込めて洗っている。
洗い熊――という言葉が浮かんだのだが、さすがに巨大すぎてイメージが違いすぎる。
「お姉ちゃんすごーい! 動物さんとお友達なの? あ、自己紹介がまだだった。あたしはフリア、お母さんはヴィジー! 妹のフリンは~……足が速いからお使い頼んでて今いないからあとで紹介するね」
「よろしくね、フリアちゃん。ヴィジーさん。私は沢山のモフモフとお友達になって、モフモフ王国を作ることが目的なの」
「モフモフ王国!? なんかすごい! お姉ちゃんは可愛い動物さんたちの王様だね!」
(現状、怖いゲートキーパーたちに祭り上げられた魔王様ですみません……)
そうこうしている内に、二匹のパワーによって大量の洗濯はすぐに終わった。
人間なら大変なものも、テイムで強化された動物の筋力なら一瞬である。
しかも、ただ力が強いだけではなく、敏感な嗅覚や触覚で汚れに反応していっているために衣服の傷みも少ない。
「あらあら、こんなに洗濯が早く終わるなんて……初めてのことだわ。ありがとう、ランさん」
「いえいえ、お安いご用です! ……って、私じゃなくて、この二匹のおかげですけど」
ランは二匹を撫でて労う。
二匹は気持ちよさそうに目を細めていた。
ついでにランは抱きついて、モフモフ分を補充。
フリアも真似をして楽しそうにモフモフしていた。
――――
あとがき
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
などと感じて頂けましたら、下の方の★か、ビューワーアプリなら下の方の矢印を展開し、ポチッと評価をもらえますと作者が喜びます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます