いざ、ローネ村へ

 ランは表向きである〝聖女〟としての状況と、降ってくる隕石のことを話した。

 最初は驚いていたフィナンジェだったが、今は顎を触りながら思案げな表情を見せている。


「なるほど……。普通なら信じられないけど、ランちゃんの話なら信じるよ。キミの言葉はどんな宝よりも価値があるからね」


「あはは……私には過ぎた言葉ですが、ありがとうございます。それで、隕石を止めるためにはフィナンジェ様の持つ天空神のブローチが必要なのですが……」


「へぇ、オレ様が持っているとよく知っていたね。元々はランちゃんへのプレゼントだから、渡してあげたいところなんだけど……」


 ランはその言葉に首を傾げた。

 覚えているイベント的には、フィナンジェが天空神のブローチを持って入れさえすればすんなりと終わるはずだったからだ。


「言いにくい事なんだけど、ランちゃんが城からいなくなったと聞いた時のショックで落として、壊れてしまったんだ」


「えぇっ!?」


「困ったな……コレは特殊な職人がいなきゃキチンとした修理ができない」


「そ、その職人さんに修理していただく場合はどれくらいかかりますか?」


「移動だけで往復一ヶ月くらいはかかるかな……。これじゃあ、もう……」


 希望が絶たれたという宣言をするフィナンジェは暗い表情で頭を抱えたが、対照的にランは前向きな笑顔を見せていた。


「よし! それなら村人たちを私たちで避難させましょう! 村は隕石で吹っ飛びますが、命あっての物種です! それに米粒でくっつければ天空神のブローチも使えるかもしれませんし!」


 この行動で一件落着、シンプルで簡単な解決方法だ。

 ランはそう思い込んでいた。


「いや、ランちゃん……。あの村――ローネ村の置かれた状況から考えると一筋縄では……」


「え? 何か複雑な事情でもあるんですか?」


「……はぁ。まぁいいさ、どっちにしろランちゃんは止めても止まらないだろう。ローネ村へ移動しながら話をするよ。オレ様もそれなりに因縁がある村だし」


「因縁……?」


 そういえば、本来このイベントでフィナンジェが闇墜ちして破滅フラグをもたらしてくるのだから、ローネ村ともそれなりに関係があるのだろう。

 ランはボタン連打でイベントの大半を飛ばしていたために、詳しいことは知らなかったが。




 道中にゴブリンが出たら怖いので、ユニコーンの背に乗って移動して、その後ろから鬼熊も付いてきてもらっている。

 ユニコーンの手綱を握っているのはフィナンジェで、ランは背中でしっかりと掴まっている格好だ。

 密着すると否応いやおう無しに男性らしい体付きを感じてドキドキしてしまうが、なるべく早く移動した方がいいので仕方がないと言い聞かせる。

 ちなみにユニコーンは死ぬほど不機嫌になっている。


「さてと、まずはどこから話そうか」


「あ、大体はテキトーに飛ばしちゃって平気です。前々からそういう性分なんで」


 ランは説明書や、ゲーム内のテキストをよく読み飛ばす方だった。


「そ、そうか。では、まず微妙な関係にある我らが〝フォンテーヌ王国〟と、隣国である〝ゴルディ帝国〟なのだが、今から行くローネ村には帝国の駐留軍がいる」


 ランはボンヤリと思い出していた。

 たしか王国と帝国は表向きは和平を結んでいるのだが、裏では帝国が虎視眈々と狙っているとか。

 フィナンジュは手綱を御しながら話を続けてくる。


「帝国の方が圧倒的に武力が高いから、下手に追い出すこともできないってエクレール王子は嘆いてそうだ。まぁ、オレ様はルベール商会の特需で儲けさせてもらっている。村の帝国兵たちはお得意様でもあるってわけさ」


「へ~」


 何か難しい話してるな~、立場ある人って大変なんだな~。という感覚で聞いているラン。


「そういう事情から、帝国兵が〝王国の聖女〟であるランちゃんの話を素直に聞いて、はいそうですかと避難してくれるか微妙なところでもあるな」


「なるほど~。村に着いたら帝国兵さんとも少しお話ししてみないといけませんね~」


「なんてのんきな……。ある程度はオレ様が渡りを付けてやれるけど、基本的に相手は敵みたいなものだぞ……? 何だったら村人だけ避難させて、帝国兵は隕石で――」


「しませんよ」


「なぜだ? 聖女という立場があるからか?」


「私が聖女であろうとなかろうと、何かそういうのは〝嫌だから〟です」


 フィナンジェは黙ってしまった。

 不思議に思ったランだったが、掴まっているフィナンジェのお腹の辺り――腹筋がプルプルと震えているのがわかった。


「ぷっははは! 嫌だからって理由だけで!? 本当かよ!? やっぱり面白すぎるぜ、ランちゃん!」


「な、何で笑うんですか!? よくわからないけど、バカにされている感じが……」


「あはは、悪い悪い」


「そういえば、まだフィナンジェさんと村との因縁というのを聞いていないような? 商売のお客さんというだけではなさそうですし――」


 ランはその先を聞こうとしたのだが、このタイミングで前方に何かが出現していた。


「おっと、アレが噂の――ゴブリンって新種のモンスターか」


 緑色の肌をした小さなゴブリンたちが、集団で立ちはだかっていた。




――――


あとがき



面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

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