第二章 隕石! 阻止! ラン!

やってきた爆弾その2

 ランはもう一度、頭の中を整理した。

 サーチスキルを使ったら一週間後、近くの村に隕石が落ちてくるというのが見えた。

 これはサーチスキルの間違いかとも思ったが、メタ的に考えるとゲームの〝イベントガイド機能〟に即したモノで、魔王の時に一度当たっているので今回も当たる可能性が高い。


 ヘルベルトとして考えたら放置しても平気なイベントだろう。

 だが、ラン個人としてはそんなことはできない。

 見ず知らずの人間とはいえ、隕石で大勢が犠牲になってしまうのだ。

 それにうろ覚えだが、この隕石イベントを失敗すると乙女ゲー側の攻略キャラである若き大商人〝フィナンジェ・ルベール〟がなぜか闇墜ちして、ランに破滅フラグが襲いかかってくるのだ。


 一応、ダンジョンキーパーに守ってもらい、フィナンジェから物理的にガードしてしまうというのも考えたが、普通に毒殺などの暗殺で死ぬ予感しかしない。

 噂では王国の国庫より金を持っているというルベール商会――その跡継ぎであるフィナンジェが財を尽くす破滅フラグに怯えながら一生暮らすのなんて、まっぴら御免だ。


 というわけで、この隕石をどうにかしなければならない。

 しかし、常識的に考えて、村一つを吹き飛ばす隕石をどうにかするなど不可能である。

 そこで乙女ゲーの攻略アイテムを使うのだ。

 天空神のブローチというのをフィナンジェが持っているので、それを村の祭壇に捧げれば不思議パワーで隕石が消えるという。

 さすがゲーム、何でもありだ。


「何というご都合主義! さて……急いでフィナンジェを探さないと……」


「ん? オレ様がどうしたって、ランちゃん?」


「うわぁっ!?」


 ランの独り言だったはずが――突然の反応に驚いてしまった。

 聞き返してきた声は、フィナンジェその人である。

 髪は銀色、癖っ毛をオシャレに編み込んでいる。

 少し筋肉の付いた男性らしい体付きで、健康的な褐色の肌をしていだ。

 その身体を最高級素材のシャツとベストで包み、さらに希少なマジックアイテムの宝石で着飾っていて財力の高さがうかがえる。


「なんで慌てるのさ、ランちゃん?」


「ひわっ」


 オリエンタルな耳飾りを揺らしながら、ランに顔を近づけてきた。

 軽い口調なのに、低く重い声のギャップで耳がゾワゾワしてしまう。


(急に近付くなー! 面長の綺麗な顔をしたイケメンが近付いたらキョドるだろー!!)


 本心を言えないランは後ずさって距離を取り、大きく息を吸い込んでから、礼儀正しく淑女がするような一礼をした。


「ご機嫌よう、フィナンジェ様」


「ああ、ご機嫌よう、ランちゃん。――オレ様が見初めた最高の価値を持つ女性」


 挨拶もして冷静になったランは、どうしてフィナンジェがここ――ランの家の前にいるのかという疑問が浮かんできた。

 こんな裏山のダンジョン前なんて普通は目的無く来ないし、山道からも少し離れている。

 それにエクレールがランの居場所を話すことも、タタンが尾行されたというのも考えにくい。

 相手は余裕タップリの笑みを向け続けてくるだけなので、ランは仕方なく単刀直入に聞いてみることにした。


「あの、フィナンジェ様はどうしてここへ……?」


「ん~、本当なら商売的に公にしたくない情報だけど、ランちゃんにならいっか」


「あ、はい。聞いたことは黙っておきますので」


 そんな重要な情報を話してくれるというので、ランは緊張してゴクリとツバを飲み込んだ。


「実は、この周辺で珍しいモンスターが出たらしいんだ。一見すると小柄な人間のようだが、どうやらそいつはゴブリンというモンスターらしい。どうもコイツが言葉を話して、しかも人を浚って売るという商売までしているという情報を得てね。同じ商売人としては興味を持ったわけさ」


 ランは自分が遭遇した人攫いゴブリンだろうと察した。


「んで、このゴブリンのルート周辺を調べていたら、見たこともないダンジョンと家――そしてランちゃんを見つけたというわけだ」


「あ、あはは……さすがの行動力で……。それで、フィナンジェ様はお一人で?」


「ああ、そうだ」


 いつも護衛を潜ませているエクレールと違って、一人でモンスターを調べていたというフィナンジェが心配になってしまう。

 その意図を気付かれたらしく、フィナンジェが再び詰め寄ってきた。


「おいおい、もしかして、オレ様がモンスターなんかにやられると思っているのか? 腕っ節は強くないが、金を注ぎ込んだマジックアイテムを装備しているんだ。この魔力が込められた宝石たちがオレ様の護衛さ」


「そうなんですね、安心しました」


 高そうな宝石を見せるフィナンジェだったが、何かを思い出したのか溜め息を吐いてしまう。


「……とは言っても、それとは別のもう一つの目撃情報……物凄い危険な魔法を使う馬形のモンスターというのがいるらしくてな。そちらと出会ったらオレ様でもどうなるかわからん……。周囲の木々を遠距離から一気に斬り倒すとか、剣聖か賢者の領域だろう」


 こちらも何か聞いたことがあるとランは思ったが、きっと知らない馬形のモンスターが別にいるのだろうと思い込みたかった。

 思いたかったのだが――タイミング悪くユニコーンが傍らにやってきた。

 そして、男であるフィナンジェに向かって角を光らせて、


「ストーップ!! この人にビームを撃っちゃダメ!! 知り合いだから!!」


『ヒヒーン……』


 ちょっとだけ残念そうにするユニコーンをフォローするために撫でてやり、落ち着かせて一安心。


「ら、ランちゃん……その馬は……」


 ……一安心するも、誤魔化せない状況になって引きつった笑みを浮かべるしかない。


「こ、この子はモンスターじゃないですよ! 私がテイムしたペットです! 割とどこにでもいるお馬さんな感じですとも、ええ!」


「そ、そうなんだ……」


 きっと強引に押し切れたのでランは内心ガッツポーズ。

 ではなく、そんなことより、フィナンジェがいるのだから隕石のことを話すべきだろうと思い出した。



――――


あとがき



面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

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