無限迷宮リバベール
家の中に設置されている転移陣からダンジョン――無限迷宮リバベールの最深部に転移したランとゲートキーパーたち。
ランは気は進まないながらも玉座に腰掛ける。
「うむ、この度は大義であったぞ」
「「「ハッ!」」」
(いちいち跪かせるとか気が滅入るわ~……)
ゲッソリとした表情になりそうなのを我慢しながら、このタイミングでしか話せないことを告げることにした。
「さて、お前たちもタタンを自らの眼で見たな? アレがこの世界の人間だ。狼男ではあるがな」
「はい、しかとこの目で」
イコールルが返事をしてくれたのは丁度いいので、話を続ける。
「どう思った?」
「それは……」
「良い、私のことは気にせず話せ。今の場では遠慮する方が罪というものだ。お前の率直な意見が聞きたい」
「失礼ながら……妾たちゲートキーパーと比べるとかなり脆弱な生き物だと思えました」
ゲートキーパーって基本的にボスだし、特にこの三人は強いからな~。と内心頷いてしまう。
「そうだな、その通りだ。しかし、王国の人間は知る限り、もっと脆弱な者が多いのだ。つまり――」
「つまり……?」
「冒険者も脆弱で、お前たちのような強すぎるゲートキーパーがいるダンジョンに通い続けてくれるかどうか、ということだ」
ランの言葉に、ゲートキーパーたちはハッと顔を見合わせた。
割と当たり前のことを言っているのだが、ゲーム時代は冒険者が無条件でウジャウジャやってきたので仕方がない。
たぶんアレはシステム的なもので、冒険者の思考など考慮されていなかったのだろう。
だが、ここは実際の人間と同じ思考を持つ冒険者を相手にしなければいけない世界である。
絶対に勝てない無限迷宮リバベールに入ってくるなど自殺行為そのものだ。
「そ、それなら我らが手加減をして、一定の割合でわざと負けるようにすれば……」
「いや、冒険者もバカではない。真剣に命のやり取りをしないのなら見破られるのも時間の問題だろう」
「たしかに……申し訳ございません。人間を侮った発言をしてしまいました」
「良い、私に遠慮せず言葉を交わしてくれることは非常に嬉しく思う。……さて、ゲートキーパーの問題もあるが、冒険者側にも問題がある」
「そ、それは……?」
「以前は無限に湧いて出たような冒険者だが、こちらの世界は魔王も不在だったために、冒険者の絶対数が少ないのだ」
たぶんこの世界を構成する大半の要素が乙女ゲーで、そちらの設定では冒険者などフレーバーテキストで多少ある程度の微妙な要素だったのだ。
そこから危険なダンジョンにやってくるような冒険者はさらに少なめだろう。
一瞬で食い潰してしまいそうだ。
「なるほど……」
「そこで、この二つの問題を解決するための方法を考えた」
「さすがです、ヘルベルト様。そのために独自に動いていらしたのですね」
そういうわけでもないんだけどな~……と思いつつも話を続ける。
「まず……ゲートキーパーの件だ。これは私がテイムした動物を使おうと思う」
「テイムした動物……。つまり、自由意志を奪って、現地の生物を現地の冒険者にぶつけるという資源活用ですね……! なんと情け容赦ない鬼謀!! 素晴らしい!」
「ごほんっ、人聞きの悪いことを言うな。テイムした鬼熊が戦闘狂で、戦いたがっていたから同意を得たまでのことよ。私がテイムした中でこのようなモノがいたら、ゲートキーパーにしていくという話だ」
「はい! 表向きはそのような理由にしておきます!」
表向きってなんだよ、と突っ込みたいが話が長くなりそうなので先を続ける。
「現在、冥界の守り手メノデスの加護は、リバベール内に張り巡らされているな?」
「はい、魔力炉〝ウェスタの火〟を六人の処女たちが守り、その力でメノデスの加護も維持しております」
「うむ」
メノデスの加護とは、張り巡らされた内部での蘇生を容易にするためのものである。
これがあればゲートキーパー及び、道中に出現する雑魚モンスターもペナルティ少なめに生き返らせることが可能だ。
「当然のことながら、私のペットたちにも適用させる。死んだら悲しいからな」
「なんたる御慈悲……!」
(本当は可愛いモフモフには戦ってほしくないけど、燃えたぎる野生の闘争本能というものを消費したいと本人たっての希望なのだ。せめて福利厚生はしっかりしたい。……っと、まだ話が残ってたんだった)
反対されたら嫌だな~と思いつつも、ランは魔王っぽい堂々とした口調で告げた。
「さらにこのメノデスの加護の範囲を、冒険者たちにも適用したいのだ」
「なっ!? 敵にですか!?」
「ああ、たしかに敵だ。しかし、彼らがいないとDPが稼げない。この言葉の意味をわかってくれるな?」
察してくれ~テーマパークにやってくるお客様みたいなものなんだよ~と空気を出そうと必死なラン。
それに気が付いたのか、イコールル、パンクラ、ディーテフロンは顔を見合わせた。
「もしかして、ヘルベルト様は何度も生き返らせて、惨たらしく殺し続けるという魔王的なお考えを……」
「さすがだぜ……ヘルベルト様。オレたちの拳に何度も何度も血を染み込ませる取り計らい」
「戦闘による人体実験を無限に繰り返せるのです!」
(え~~~~~!? めっちゃバイオレンス!?)
しかし、納得してくれたところに変な反論をして水を差した場合は話がなかったことになるかもしれないし、それどころか魔王っぽくないということで反逆されて破滅ルート一直線の可能性もある。
藪をつついて破滅フラグが出ることだけは避けたい。
「ククク……」
ランは意味深に笑って、どうとでも取れるようにして〆とした。
とりあえず、これで間近にある破滅フラグはないはずだ。
こちらの居場所を知っているエクレール王子にも納得してもらったし、その忍者であるタタンとも仲良くなった。
今のところ、ゲートキーパーたちに殺される雰囲気もない。
――そう安心していると、何か必要以上に強い視線を感じた。
「……ど、どうしたのだ。イコールル?」
「いえ、何でもございません」
ちょっとイコールルからの視線が怖いが、大丈夫だと思いたい。
これで、もう今の乙女ゲーのルートで破滅フラグと呼べるモノは――
(ん、ちょっと待てよ。たしか、お城での魔王が存在しているかの〝ホーリー・サーチ〟を試した数日後、何かイベントが起きたような……)
まだあまりやりこんでいないので、すっかり忘れていたことがある。
だがしかし、それは日数は共通でも、ルートによって起きたり起きなかったりする。
それは――隕石落下イベント。
ある日〝サーチ〟をしたら近くの村に隕石が落下するというのが見えるという、突拍子もないネタイベントである。
しかし、これが連鎖的に攻略キャラの一人である大商人の息子〝フィナンジェ・ルベール〟の闇堕ちに繋がって、聖女が金の力で追い込まれて殺されるというバッドエンドに繋がるのだ。
(といっても、これは別ルートでの話。絶対に隕石なんて降ってこないし安心♪ ……なんだけど、何か胸騒ぎがする……)
ランは念のために〝ホーリー・サーチ〟を行った。
すると――
(あああああああああ!! 一週間後に降ってくる隕石が見えたああああぁぁぁッ!!)
ランはゲートキーパーたちの前で絶叫するわけにもいかず、ただ無言で白目を剥いていた。
――――
あとがき
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
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