焚き火飯、鮎の塩焼き
ユニコーンに『勝手にビームを撃たないように』と注意したあと、近くの川に辿り着いた。
馬車に乗っているときに見た程度だったので不安だったが、ダンジョンからはそんなに遠くない。
生活用水の確保はこれで平気そうだ。
DPを使って水を得る必要もなくなる。
「うわー、魚が泳いでる!」
サラサラと流れる川の水の中に、泳いでいる魚影が見えた。
太陽の光が木々から差し込み、透明度の高い水質が魚の元気な姿を映し出している。
「ラン殿、魚なぞが珍しいのか……?」
人間の姿に戻ったタタンが訝しげな瞳を向けてきている。
「あ、いや~、その……」
転生前のランは都会っ子で、こんなにも綺麗な川で泳いでいる魚なんて見たことがなくて、キラキラした眼で物珍しそうに眺めてしまっていたのだ。
「ああ、失礼した。聖女という身分なら、このような下々の魚など見たことがなかったか」
下々ってお魚さんに失礼でしょうが、と突っ込みたかったが止めておいた。
「この魚、なんて名前だろう……食べられるのかな……」
「
「へぇ~……へぇぇぇ~~!! タタンさんって物知りなんですね!!」
「い、いや……そんな物知りというほどでは……」
タタンは照れてしまったのか、ぶっきらぼうに背を向ける。
「……食べるか?」
「うん! 丁度お腹が空きました!」
――すると、タタンは森で材料を調達してきて、釣り竿や餌、鮎を入れる
「物知りな上に、ササッとアウトドアをこなしてしまうタタンさん……有能すぎる」
「褒めても何も出んぞ。ほら、自分で釣ってみろ」
「はーい」
ランは渡された釣り竿を手に持つと、すでに餌が付けられていた糸を川の中に垂らした。
魚がかかったか分かるようにするパーツである〝浮き〟の代わり――空気が多く含まれた植物の実がプカプカ揺れている。
「まぁ、釣れなくても拙者の鮎を分けてやらんこともないがな。自分で釣った方が美味いのだが――」
「あ、何か引いてる!」
「なに!? 早すぎるぞ!?」
聖女の運命力か、ビギナーズラックか――ランは爆釣だった。
釣れに釣れて神がかっている。
魚籠に入りきらないほどで、タタンが一匹を釣る時間さえ与えない。
「釣れちゃった! 初めてなのに釣れちゃった!」
「くっ、何かイラッとする……。何なのだ本当にお主は……」
型破りすぎる聖女に対して呆れかえったようだったが、タタンは気を取り直して鮎の塩焼きの準備を始めた。
既に用意してあった枝などでサッと焚き火を起こし、鮎に塩振りや串打ちなどの下準備をして、それを地面に突き刺して炙るように焼いていく。
ランは特にすることもないので、興味深くジーッと眺めていた。
ファンタジー世界に鮎というのもアンバランスだが、日本製のゲームが元となっているのでそういうこともあるのだろう。
だがしかし、目の前で手際よく作られていく鮎の塩焼きはゲーム的なご都合作業ではなく、実際のアウトドアの上手さという感じだ。
きっと、野外の活動が多くて手慣れているのだろう。
「何か、タタンさんの人生が滲み出るような鮎の塩焼きですね」
「不思議なことを言う」
「食べる前からわかります。しっかりとした動きで信頼できそうってことですよ」
「……エクレール殿下にも同じようなことを言われたことがある。なるほど、殿下ほどの方が気にかける聖女というのも納得だ。拙者も……」
「ん? 何か言っ――」
乾燥しきっていない焚き火の弾ける音で、無意識にランを認めてしまったタタンの言葉が聞こえなかったのだ。
キョトンとしながら聞き返すランに対して、誤魔化すように鮎の塩焼きが差し出された。
「喰え。焼きたてだ、熱いぞ」
「はーい」
程よく焦げ目の付いた鮎の塩焼き。
焼き魚の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、大自然の中で自分が釣ったというのもあって最高のご馳走に見えてくる。
ファンタジーで仲間と一緒に焚き火をしながら、こうやって焼き魚を食べるというのは誰もが一度は憧れるシチュエーションだ。
「いっただっきまーす!」
今ばかりは聖女らしさを捨てて、がぶっと豪快にかじりついた。
火傷しそうになるが気にしない。
ホクホクの白身が、シンプルな塩の味付けで至高の一品となっている。
「シンプルイズベスト! メチャクチャ美味しい!!」
「たかが焼き魚一つでそんなに喜ばれるとはな……」
「焼き魚も美味しいし、それをこんなにすぐ作れちゃうタタンもすごい! もう毎日作ってほしいくらい!」
「なっ!? ま、毎日作ってほしいとか、年頃のおなごが軽率に使うな……」
「んぇー?」
ランは思考力をすべて味覚に奪われていたため、特に気にせずバクバクと食べ続けるのであった。
ちなみに鬼熊は川の中に入って手で鮎を捕って、ユニコーンと一緒に仲良く食べていた。
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