最強のモフモフ王国
「……説明してもらおうか、ラン殿?」
「あの、その……えーっとね……」
正座をして反省しているランと、腕組みをして睨んでいるタタン。
心配してユニコーンがやってきたのだが、そのただならぬ雰囲気をジッと見守っていた。
「て、テイムスキルに目覚めちゃったみたいなの……」
「テイムスキル?」
そういえば――とランは思い出した。
タタンが存在していた乙女ゲーの世界には魔法はあるのだが、テイムスキルというものが存在していなかった。
乙女ゲー、ダンジョン運営ゲー、テイムゲーの三つが合体したような世界に最近なったばかりなら、タタンが初耳なのはおかしくない。
「効果は、たぶんモフモフ可愛い動物をテイムできるスキル……かな?」
「……モフモフ可愛い動物? 念のために聞いておくが」
「うん」
「もしかして、拙者の狼男としての姿が――」
「モフモフ可愛く見えました」
なぜかタタンはショックを受けた表情をしていた。
そして、握った拳をワナワナと震わせながらランに近付く。
「百歩譲って、拙者がモフモフ可愛いという戯れ言は認めなくもない。それはお主の主観だから否定はできない。しかし……テイムできたということは動物扱いか!? 曲がりなりにも狼男だぞ!?」
「うーん、まぁ、そういう細かいことはいいんじゃ?」
「細かいことなのか、それは……」
タタンは情けなく泣きそうになりながらも、成人男性として必死に堪える。
今は銀色の狼男なので滑稽だが。
「はぁ~…………。次に質問なのだが、この急激なパワーアップは何なんだ。拙者だけに秘められた力が解放されたのか?」
「いや、秘められた力って……」
「笑うな」
タタンがメチャクチャ睨み付けてきている。
泣きそうになったりと忙しい忍者である。
「だってさ~……アレを見てくださいよ」
気が動転しているらしいタタンに対して証明するために、客観視できるものを示すことにした。
ランは先ほど現れたクマにもテイムを使っていたのだ。
いつの間にかクマは一回り大きくなり、額から角が生えていた。
妖怪の一種とされる鬼熊である。
「普通のクマもテイムしたら鬼熊にパワーアップしちゃったし、そっちのユニコーンだって元はヨボヨボの老馬だったし。たぶんテイムすれば何でも強くなるっぽい」
「……忍びの里で恐れられた狼男の拙者が……普通のクマや、ヨボヨボの老馬と一緒の扱い……」
「あ、なんか眼のハイライトが消えてる」
タタンの心ここにあらずといったところだ。
ちょっと慰めてあげることにした。
「ほら、別にテイムっていったって普通に話せてるから支配とか洗脳じゃなさそうだし、タダでパワーアップできたって喜ぶところじゃないの?」
「……狼男としてちょっと格好良いイメージとか、尊厳とかそういうの……」
「意外と女々しい」
タタンは一通りうずくまって落ち込んだあと、すっくと立ち上がって真面目な顔でランに質問をした。
「この尋常ではない力を使って、ラン殿はどうするのだ? もしや、世界を――」
「モフモフ王国を作る!」
「ふっ、やはりそれか。獣人たちも安心して住める――」
「可愛いモフモフな動物を一杯集めて、モフモフし放題な私の王国!」
「んんん……?」
「えっ? 何を驚いているのですか? モフモフ王国と言ったら、それ以外の意味はないでしょう?」
一瞬、タタンは混乱した様子を見せる。
しかし、意味ありげに笑みを浮かべた。
「表面上はそういうことにしておきたいのか。どこまでも食えぬ奴よ」
「本気で何言ってるんだろう、この忍者」
ランは深いため息を吐いてから、ユニコーンを手招きした。
「いい? 誰がどう見ても可愛い動物たちじゃない。眺めていると心が安らぐでしょ?」
近くに来たユニコーンを撫で撫で。
ユニコーンは鼻を鳴らして興奮していた。
――と、そこに通りすがりの一般人がやってきた。
「すみません、ニッシュ村までの道を聞きたいのですが……」
牧歌的な格好をしている中年夫婦だ。
最初は和やかだったが、ランの近くに居る面々に気付いて目を見開く。
「ひっ、狼男に角の生えたクマと馬……!?」
「お、おい。拙者は狼男だが、別に人を襲ったりは――」
タタンが弁解に入ろうとした瞬間、ランに撫でられて興奮していたユニコーンが角を光らせて先端からビームを発射した。
唐突すぎるが、ビームとはあの
「……は?」
ビシュッという、日常生活では聞かない空気を焼く音が響き、森の木々を斜めに切り割いていく。
ズシンと大木が地面に落ちる音が震動として伝わり、身体を一瞬浮かせる。
「ッうぎゃああああ!? 魔王の軍団だぁーっ!?」
幸いにも無傷だった中年夫婦は脱兎の如く逃げ出していた。
「………………」
残された二匹は気にせず、二人の方は無言だった。
しばらくして、タタンがボソッと呟く。
「魔王の軍団」
「違います、モフモフ王国ですよ」
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