ツルハシの似合う聖女/魔王

「よっこらせ! どっこいせ!」


 一言でいえば、ここは炭鉱のような場所だった。

 ひたすらツルハシで壁や床を掘る。


「ヘルベルト様、もっと腰を入れるとガッツリ掘れるぜ!」


「ああ、わかった。パンクラ」


 ここは地下五階――のさらに下――地下六階への中間というところだろうか。

 物理的にツルハシで掘って拡張している最中だ。

 ゲーム時代はDPを払って一定時間後にオート拡張だったので知らなかったのだが、この〝一定時間〟の最中で物理的に掘っていたらしい。

 リアルに掘るのと違って、DPを払ったおかげかダンジョンの形にそって綺麗に掘れて意外と楽しい。


「これは癖になりそうだな……」


「だろ!?」


 安全メットをかぶって額に汗水垂らして働くランと、一緒に身体を動かすのが嬉しいのか百点満点の笑顔を見せるパンクラ。

 その背後からイコールルが巨大な岩石を両腕で持ち上げて、パンクラの後頭部をダイナミックに殴っていた。


「あ痛っ!?」


「『だろ!?』じゃありません!!」


 岩石は砕けたのに、パンクラは無傷だ。

 やはりゲートキーパーは身体が頑丈らしい。


「ヘルベルト様に何をさせてるんですか、貴女は!!」


「だ、だってよ~、ヘルベルト様も手伝ってくれるって言ってたしよ~」


 ヘルベルトこと、ランは今更言えない。

 DP稼ぎを手伝うつもりだったのに、実はツルハシでダンジョンを拡張するのを手伝うことになっていたとは――


「そもそも、ダンジョンを掘ってくれるモンスターをDPで喚んだ方が効率的だと思うのです」


 いつの間にかやってきていた参謀のディーテフロン。

 さすがに冷静である。

 ランもツルハシを振るう腕が疲れてきていたので、その話に乗ることにした。


「うむ、その提案が出てくるまで敢えて待っていたのだ。敢えて……な」


「えぇっ!? そうだったのかヘルベルト様……申し訳ないことをしたぜ……」


「いや、パンクラと一緒にツルハシを振るえて楽しかったぞ。何事も経験してみるというのは、とても有意義なことだ」


「「「ヘルベルト様……!」」」


 なぜかパンクラ……だけではなく、イコールルとディーテフロンまで感涙にむせいでいる。


(ヘルメット被ってツルハシを振るっただけなのに!? せめてもうちょっとカッコイイことで、このシチュエーションに辿り着きたかったわよ!)


 そんな複雑な胸中だったが、頑張って魔王っぽく振る舞わなければならない。

 死にたくない。


「では、今後の方針としてはDP稼ぎということだな」


「そういうことなのです。DPは基本的に〝外部のモンスターを倒す〟〝ダンジョンに入ってきた冒険者を倒す〟〝何か実績になるようなことをする〟というので手に入るのです。しかし……」


 ディーテフロンは途中で言葉を濁してしまう。

 たぶんランも考えていることだろう。


「ここは元の世界とはルールが違う。同じようにDPが稼げるかわからない……というところだな?」


「さすがヘルベルト様、その通りなのです」


 現状、確認されているのは人攫いゴブリンを倒したときの1DP、モンスター初討伐記念で1000DPというところだ。

 ゲーム時代はシステム上、スタート時に1000DP持っていたし、初討伐記念で1000DPはもらえなかった。

 色々と手探りでやらなければならないということだ。


「基本である〝モンスターを倒して1DP〟が手に入ったということは、同じく基本部分の冒険者を倒すことでもDPが手に入ると思われるのです」


「ふむ……」


 ランは渋い顔をした。

 ゲーム時代は冒険者をダンジョンに誘い込んで、殺してDPに変換しても何も思うところはなかった。

 しかし、実際リアルに生きる人間たちを同じように扱うには抵抗があるのだ。

 そこらへんをどうにかするアイディアはあるのだが、今ここで話しても不審に思われるかもしれない。


「とりあえず、当面はDP稼ぎをどうするか……というところだな」


 ゲートキーパー三体も納得したようで頷いている。

 下手をするとDPに関係なく暴走して、王国中の人間を皆殺しにして支配しようとする可能性もあったので、ランはひとまずホッとした。

 しばらくはDP方面に意識を釘付けにできそうだ。

 本来、ゲートキーパーは人間を虫けら程度に思っている恐ろしい怪物なのだ。

 美しい顔に惑わされて、そこを忘れてはいけない。


「そのために、お前たちにやってもらいたい重要な仕事がある」


 その言葉に三体は表情を明るくする。


「ヘルベルト様から直々のお仕事ですか!?」


「よっしゃ! どんな強敵だってオレの拳でぶち殺してやるぜ! 人間の軍隊を相手にするのか?」


「虫けらたちを効率よく蹂躙する案をご用意するのです?」


 ランはゆっくりとかぶりを振り、魔王っぽい表情で意味ありげに笑った。

 緊張の面持ちをしたゲートキーパーたちの注目が集まる。


「ククク……ダンジョンの外に私の家を作ってもらおう」

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