第二章 ダンジョン前! スローライフ! 狼男忍者!

ユニコーンは処女以外に懐かない

「さてと、そろそろダンジョンの中に入って、ゲートキーパーたちと今後のことを相談しないと……」


 ランがダンジョンの外で少し休憩して、そんなことを呟いていたときだった。

 ユニコーンが何かを〝大きなモノ〟を咥えてやってきた。


「ん? 何コレ……? って、人じゃないの!? しかも、この忍者の格好……見たことがある……えーっと、たしか――」


 ランはゲームの記憶を思い出していた。

 このファンタジー世界で珍しく、和風キャラの忍者がエクレールに仕えていたはずだ。


「そうだ、飛影タタン。攻略はできないけど、口に巻かれたマスクの下がイケメンで、結構人気があったはず」


 ゲームキャラが目の前にいるというのを改めて噛み締め、少し嬉しくなってしまった。

 ……なのだが、冷静に考えると何かしらの用事でエクレールが寄越したのだろう。

 それをたぶん、ユニコーンが気絶させてしまっている。

 あまりよくない状況だ。

 今もユニコーンが機嫌悪そうに、白目を剥いているタタンを木にベチベチ打ち付けたりしている最中である。


「ユニコーン、ストップ! なんでそんなにタタンのことが嫌いなのかわからないけど、エクレール様の配下だから傷付けちゃダメだってば!」


『ブルゥウ』


 ユニコーンは『チッ、仕方がねぇな』とでも言わんばかりに、咥えていたタタンの服を放して地面に放り投げた。

 ゴロリと転がったタタンだったが、息はしている。

 怪我もなさそうだし、気絶しているだけのようだ。

 もうダンジョンの中に向かわなければならないランは、タタンの背を木に預けさせて、ユニコーンに指示を出す。


「もしかしたらクマでも出るかもだから、タタンが起きるまで守ってあげてね」


『ヒヒィ~ン』


 微妙にやる気がなさそうだが、ユニコーンは了承してくれたようだ。




 ***




「我らが偉大なる魔王、ヘルベルト様のご到着です!」


(あ~、こんな厨二病な名前付けなければよかった……。実際に呼ばれるとすごい恥ずかしい。なんで魔王を作曲したシューベルトに、それっぽくヘルを組み合わせたんだろう当時の私。シューベルトさんに謝れ)


 ここは魔王ヘルベルトが支配するダンジョン――無限迷宮リバベール。

 本来のゲームシステム的には、魔王が〝何でも願いが叶う場所〟があるという地下深くを目指して、ダンジョンを拡張していくという感じだ。

 最終的には数百層になるのだが、現在のダンジョンは初期状態のためにたった五層。

 ランとゲートキーパー三体も、その最下層に設置された魔王の間につどっている。

 強制的に玉座に腰掛けられさせているランは居心地が悪い。


「……うむ、面を上げよ」


 しかし、魔王っぽく振る舞わなければ見限られて、フリー素材織田信長の如く配下に裏切られて本能寺コースだ。

 跪く最強に近い人外たちを、ランは見下すように嗤う演技をする。


「ふっ」


 特に意味はない。


「ヘルベルト様におかれましては本日もご機嫌が麗しく――」


「余計な前置きはい。本題に入ろう、イコールル」


「はっ!」


 ランは、丁寧な口調のイコールルの言葉を遮った。

 話が長引けば長引くほど、魔王としての偽りの姿にボロが出るためだ。

 もしバレたら――吸血姫と呼ばれるイコールルが血の一滴まで吸い尽くしてくることだろう。ランはミイラの自分を想像してしまいゾッとする。

 今も何故かジ~ッと、尋常ではない眼力で視線を向けてきている。


(ひぃぃぃい……絶対に何か感付いてるよイコールルさん……)


 ドキドキと激しく警鐘を鳴らす心臓を落ち着かせながら、魔王っぽい表情を作る。

 片目を大きく見開き、見下すような首の角度で意味深に含み笑いをする。

 下手をするとウィンクに失敗した不器用ガールみたいになってしまうので注意だ。


「既に前回、私の方針は話したな。その先も全て私が決めてしまっては、ことがスムーズに運びすぎてしまってつまらない。そこで退屈しのぎにお前たち三体の意見も聞こうではないか」


「「「ハハッ!」」」


 正直、ゲームのときと違って何を考えているのかよくわからないので、まずはゲートキーパーたちの顔色を窺ってから、どう動くのか考えたい。

 ランの内心はメチャクチャ小物である。


「じゃあ、まずはオレ、パンクラから話すぜ!」


「うむ」


 魔王と話せて嬉しいのか、パンクラは興奮気味だった。

 異様な大きさのガントレットがガッツンガッツンと床に当たってうるさい。


「いつも通り、まずはダンジョンを下に拡張していこうぜ! ヘルベルト様! これをしなきゃ話にならないぜ!」


「ああ、その通りだ」


 地下数百階に広げるかはともかく、多少はダンジョンを拡張していった方がいいだろう。

 なぜなら、その作業に没頭させることによって、ランへの注意が逸れるからだ。

 元々はダンジョン運営のためのゲートキーパーなので、不満なども解消されるだろう。


「ヘルベルト様も手伝ってくれれば、心強いんだけどな~……」


「こら、パンクラ。ヘルベルト様にそんなことをさせるわけにはいかないでしょう」


「えぇ~」


 なぜかパンクラの提案を、イコールルが却下しようとしている。

 ランは首を傾げた。

 協力するといっても、ダンジョンの階層はDPを注ぎ込んでしばらくしたら増えるものだ。

 つまり、この場合は〝DP稼ぎを魔王に手伝わせる〟のが心苦しいということなのだろう――と考えた。


「良い良い。私とて、可愛いお前たちのためならそれくらい協力しよう」


「えっ!?」


 イコールルが驚いた表情を見せている。


(たかがDP稼ぎに協力するというので、そんなに驚くのか……)


 ランは不安になってきた。

 大丈夫かな……? という気持ちでパンクラに顔を向けると――


「はい、これ! ヘルベルト様用のだぜ!」


 どこからか持ってきたツルハシと安全メットが用意されていた。

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