車の魂 03・13・2022
車の魂 03・13・2022
三崎伸太郎
私は妻が幸福かどうかしらない。妻が私と一緒に我慢を続けていることは事実だ。
私は社会のゴールを超えても未だヨタヨタと走り続けている。既に声援は途絶え、近くには誰もいない。背番号も無い。一流ではないからだ。
住宅街を走っていると、家々の駐車場には真新しいSUVや高級車が停まっている。
私は20年以上も乗った三菱ランサーを、定年にしてやろうと思った。ボディのペイントは剥げ、少しオイルも落ち始めた。私は車に、もう少ししたら楽にしてやるから、未だよろしくねと車のボディを叩きながら、車を走らせていた。
車も意思が通じるのか、会社の駐車場でエンジンがかからない時、何とか家まで頼むよとお願いする。エンジンがかかり車は走る。家から会社は、会社まで何とか頼むよと言いながら使っていた。
しかし、私は少しの幸福を妻に与えようと、三菱ランサーをドーネーションに出した。洗車して掃除し、ワックスをかけた。たぶん廃車された後は潰されてしまうか、部品の販売店に行くかだろう。それでも、しばらくはワックスで雨風に耐えられる。
私は家内を連れてカー・ディーラーに行った。
彼女は日産のキックスを選んだ。どうして、この車かと言うと「車が微笑んだからだ」と言う。新車で2022年、未だ僅か18マイルしか走っていない車だ。
「車が微笑んだから」との言葉に、車種は違っても三菱ランサーの魂が移っているのかもしれないと、私は買うことに決めた。
車に魂等と笑う人もいるかもしれない。しかし、私は車に話しかけながら家と会社を往復してきたのだ。私達は友達だった。
三菱ランサーが選んだ後継者は、日産キックス。流石に友は、私達の年齢を考慮したのか、安全性の機能を沢山持つ車を選んでくれたようだ。
小型のSUVは、私に対する金メダルだと妻が言った。
これからも私は、支払いのためにヨタヨタと走り続ける。
私にゴールは無いようだ。定年とか仕事を辞める年齢は、背番号の無いランナーには無い。
応援も無い。走り続ける。
走り続けて、足が止まる時が定年だよと、何処からか声がした。
私は、ゆっくりとペット・ボトルの水を飲んだ。
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