03 2日目 ENDmarker.
---『買奈月何、heardまで残り数時間』
16時50分。
宿題をなんとかして早めに終わらせて、森林公園に向かう。
入り口で、彼を待った。
予定時間は、17時半。昨日私が、そう言った。でも、結局、彼の言った時間に来てしまっている。
きっと彼は、17時半まで来ない。彼は、ちゃんとしているから。私とは、違って。
入り口にあるベンチに、座った。やっぱり、早く来すぎたかな。
「あれ」
声。
彼。
「17時半集合じゃなかったっけか」
「早く終わったから。そっちは?」
「抜けてきた。やることないから、いったん下見しようと思って」
「なら、よかった」
「どうした?」
彼の目。私の目を、見る。視線を逸らした。
「目の下にくま。つかれてるのかと思って」
「寝てないだけ」
「じゃあ、今日の予定は無しにしよう。身体のほうが大事だ」
「いいの。つかれてないから」
「いや、その顔で言われてもな」
「自慰してたの。一晩中」
口をついて、ほんとのことを言ってしまった。つかれてるのかもしれない。慌てて手で口を覆う。
「あ、ごめん聞いてなかった。抜けた連絡をしてて。なんだって?」
彼。端末を見てた顔が、こちらを向く。口に当てていた手を、ひらひらさせてごまかした。
「あ、いや。たいしたことは言ってないから。とにかく大丈夫」
「そっか」
「行こう。森林公園」
---『将兵、ENDmarker.』
森林公園のデートは、滞りなく終わった。
入り口に、戻ってくる。ベンチの近く。
もともと、見所がそこそこある場所だから。遊園地なんかよりも、よほど楽しい。
「たのしかったな」
「ローラーコースターでおしりがいたい」
「だから段ボール敷けって言ったじゃん」
「行けると思ったのよ。短めだったし」
おしりをさする彼女。
デート開始前、この入り口で。ここで、衝撃的なことを言った。たぶん聞かれたくないことだと思って、とっさに聞いてないふりをした。
もしかしたら、何か、心が不安定なのかもしれない。
聞くのが正解か。聞かないのが正解か。
「あのさ」
二択に追い込まれたときは、選択肢を広げるのが、正しい判断。
「次も、どこか行くか」
「次って、いつよ」
「いつだろうなあ。予定が空くのが分からねえんだよなあ」
「じゃあそのとき誘いなさいよ。いまどきの若い子みたいな適当な誘いかたしないで」
「ごめん」
選択肢が広がらない。次に会う算段が、つかない。
少し、不安になった。
捨てられるかもしれない。
でも、それは、彼女にとって、最善の選択なのだから。引き留めようとするのは、間違っている。
「次も、森林公園がいい」
「あのさ」
無言。
「どうぞ」
「いや、次の予定を」
「森林公園がいい。それだけです。あなたの番」
三択目が、いちばんしんどい。でも、言っておいたほうが、いいかもしれない。
「別れたいなら、いつでも言ってくれ」
彼女。無言。
「俺には、その、そういう、なんというか、深入りするような、そういう、ものはないから」
「どういう意味」
「そういう欲求が、俺にはないから。満足させられない」
「聞いてたの?」
「ごめん」
「じゃ、別れよっか」
「ああ」
「じゃあね」
彼女。手をひらひらさせるしぐさ。
---『買奈月何、ENDmarker2.』
立ち去ろうとして。
どうしても、できない。
立ち止まった。
後ろに戻る。
「なんで?」
聞いた。
彼。
困惑する素振り。
「なんで?」
もういちど、訊いた。
「いや、なんとなく」
彼の答え。煮え切らない。
「なんでこの流れで、別れる、って言う話になるの」
自分の気持ちが、わからなかった。
友だち以上恋人未満。そのはず。おたがいに深入りしないのが、ルールだったのに。
別れようって言われたら、別れないと。
「だめ。理由を言わないとだめ」
これ以上は、深入りできない。
今すぐ、ここを立ち去るべきだった。
「ごめんなさい。忘れて」
もういちど、彼に背を向ける。
歩け。一歩を踏み出せ私。もう彼とは、終わった。終わったんだ。帰らないと。彼のもとから、立ち去らないと。
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