第2話:異世界カクテルバー

 本気で悪いと思っている神様は、至れり尽くせりの能力をくれた。

 この世界最強の神龍が相手でも、タイマンはれる戦闘力。

 元の世界にあった全ての酒を再現できる、知識と魔術魔力。

 元の世界にあった全てのカクテルを再現できる、原材料を育て作ることができる、知識と魔術魔力。


 それだけでもありがたいのに、それだけではなく、即物的な金銀財宝。

 お陰で直ぐに店を借りてカクテルバーを開業する事ができた。

 しかも転移させてくれたのが、この世界でもっとも繁栄している皇都だ。

 どれほど能力があろうと、お客さんのいない場所でカクテルバーを開いても、誰も来てくれませんからね。


 ただ、私が辞退した能力もあります。

 それは魅了の能力、人から無条件に愛される能力です。

 この能力があれば、カクテルバーは大繁盛するでしょうが、魅了の能力で店が繁盛しても意味がない、というか、どうにも嫌なのです。

 だから魅了の能力は辞退しましたが、全くゼロという訳ではありませ。

 ゼロでは、どれほど居心地がよくて美味しいお酒をだしても、忌み嫌われて店に来てもらえないので、人並みの魅了の力はつけてもらいました。


「いらっしゃい、こちらにどうぞ」


「おう、ウィスキーをストレートで」


 今日一番のお客さんはドワーフ族の職人です。

 刀鍛冶として名の売れた人だという噂は聞いていますが、個人情報を踏み込んで聞いたりはしません。

 話したくて来ている人からはお聞きしますが、話すのが嫌いな人も多いのです。

 このドワーフ職人さんは、ただただ強い酒が飲みたいだけです。


「うぃいいい、相変わらず美味いのぉお、ここの酒は。

 どうじゃ、おかみ、いいかげん儂にこの酒を樽ごと売ってくれんか?」


 毎回の事ですが、ドワーフ族の酒好きには困ったものです。

 毎回店でしか出せないと言っているのに、諦めることなく交渉してきます。

 ですが、絶対に売るわけにはいきません。

 誰か一人に売ってしまったら、皇都中のドワーフ族が売ってくれと押しかけてき、収拾のつかない状態になっています。


 それでなくても、開店当初に皇都中のドワーフ族が店に押しかけてきて、踏みつぶされる恐怖感に、思わず能力全開で叩きのめしたことがあるのです。

 それ以来、この店に来れるのはドワーフ族でも選ばれた勇者だけになっています。

 眼の前の刀鍛冶ドワーフは、皇都でも指折りの戦士でもあるのです。

 まあ、彼にしても、全ドワーフの期待を背負っているのでしょう。

 この小さな店ですから、入れるドワーフが限られているのです。

 彼が酒を買って帰らなければ、他のドワーフは酒を買うことができません。


「ちょっと待てね、今新しい屋敷を借りて、醸造所を造ろうと思っているのよ。

 そこが完成したら、もっと沢山のお酒が造れるから、それまで待ってね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る