転移して力を得たので、夢だったカクテルバーを異世界で開業したら、皇帝に溺愛されちゃった。

克全

第1話:転移

 私は山本綾子と申します。

 ごく普通の六十代のバツイチです。

 それなりに色々とありましたが、自分としては精一杯生きてきました。

 ですが、人生の先もほぼ見えるようになって、日々の生活よりも、長年の夢を選ぶことにしました。

 ずっとやりたいと思っていた、登山とバーの開店です。

 思い切って会社を辞め、貯金をはたき、国民金融公庫から借金しての開店です。


 友人と二人で始めたのはいいのですが、初めての水商売は簡単ではなく、夜のバー営業だけでは生活費を稼ぐのもままならず、友人は昼にアルバイトをはじめ、私はバーを昼はカフェにして、少しでも利益をだそうとしました。

 でも、そんなときに疫病が流行してしまったのです。

 国や県から開店時間の制限や休業要請が出され、店を開ける事すらままならなくなりました。


 借金を抱えたまま廃業してアルバイト生活をするのか、各種公共融資を利用して、借金を増やしてでも店を続けるのか、苦しい選択を迫られました。

 まあ、どうせ人生の先が見えたから始めた水商売です。

 今更借金が増えようと、店を潰してアルバイト生活になろうと、後悔などはしませんが、どちらを選ぶか決断を迫られたのは確かです。


 ですがそんな時に、神様の手違いで、異世界転移させられてしまいました。

 最初は随分驚かされましたが、神様に頭を下げて謝られたら、いつまでも怒っているわけにはいきません。

 嘆き悲しみ文句を言う時間があるのなら、そんな事をして神様の心証を悪くするくらいなら、神様が悪いと思っている間に条件交渉をすべきです。

 これでも長年営業職をしてきたのです、それなりの交渉はできます。


「神様、悪いと思ってくださるのなら、元の世界に帰してください」


「悪いが今回は色々な要因が絡み合っていて、元の世界に戻してやることができん。

 本当に申し訳ない、この通り詫びさせていただく」


「では、私はこの世界で生きていかなければいけないのですね?」


「そうだ、申し訳ない」


「悪いと思っておられるのなら、何か保証をしてくださるのですか?」


「そうだな、そうせなばならないな、では若さと寿命をあげよう。

 今のままではどんどん体力が落ちてしまうし、直ぐに死んでしまう。

 一番体力のある十六才に若返らせてやろう。

 寿命もハイエルフ並みの三千年としてやろう」


「それはありがたい事ですが、この世界は平和で安心して暮らせるのですか?

 長い寿命を頂いても、直ぐに殺されたら何の意味もありません」


「そうだな、残念だが、この世界は貴女が以前いた国のように平和ではない。

 戦闘力がなければ、簡単に理不尽に殺されてしまう、弱肉強食の世界だ」


「だったら神様、戦闘力と私の夢をかなえる力を保証してください」


「分かった、この世界でも最高の戦闘力を与えよう。

 だが、その力を使って悪事を働くようなら、天罰を下すぞ」


「それで結構です。

 別に世界制覇がしたいわけではありませんから。

 ただ理不尽に殺されるのが嫌なだけですから」


「分かった、それで、夢をかなえるための力とはなんだ?」


「それは……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る