第12話 現世に帰還 2

 服はボロボロ。心は……少々ボロボロ。

 しかし、体は、首にナイフが刺さっていたにも関わらず傷一つないし、風邪を引いている気配も無い。が、唯一の損傷は前髪か。

 そんなことを考えながら土砂降りの中、職場へと向かったいた。


『あ! 髪の毛もスキルで治すことは……出来ませんが、ことは出来ますよ! ──伸縮──ってスキルです。……あ、髪をというのは、髪をという意味では無くて、髪の毛自体をという意味です。……分かりましたか?』


 なるほど、じゃあ『伸縮』使ってみようかな。


 俺は髪の毛を意識しながら、そう心の中で唱えた。

 髪の毛を意識するのは意外と簡単で、目を瞑り、自分の体を想像して、髪の毛に意識を集中させると前髪が鼻にかかるくらいまで伸びた。

 だが一緒に他の髪も伸びてしまった。

 後ろ髪ともみあげが同じくらい、肩にかかるくらいまで伸びてしまった。

 縮ませようと頑張ったが、一緒に前髪も縮んでしまうため、あとで切れば良いかと思い、結局肩にかかる長さに戻した。


『あ、そういえば言い忘れてましたが、スキルには主に意識して発動するスキルと無意識に発動するスキルの二種類があって、意識して発動するスキルは意識したり考えたり、集中したりすると使用出来るスキル。無意識に発動するスキルは、常に使用されているスキルのことを言います。……例えば──健康──とか──修復──とかが無意識に発動するスキルに分類されますね』


 じゃあ『飛行』とか『強化』は意識して発動するスキルということか。ていうか職場まで『飛行』を使って向かった方が早いじゃん……


『あ、そうですそうです。言い忘れてました。あんまり目立つスキルを使うと、世界均衡ワールドバランスが崩れてしまうので、使用は控えてください。ゲームに例えれば、MMORPGにチーターが居たら運営は修正しないといけませんよね? その運営がこの世界で言う私と言うことです。でも、バレなければ犯罪も犯罪には、チートもチートにはならないということです。……って今、こいつ自分の仕事が増えるのが嫌なだけなんじゃない? って顔しましたね!? …………ゴホン。とりあえず、あなたはこの世界の──ゲームで例えればチーターなんです。そんなあなたがチートスキル全開に使ったら、世界均衡ワールドバランス──ゲームでいうゲームバランスが崩れてしまうということです』


 すると、俺の脳に響く声は少し間を置いてから、話を続けた。


『──と、言いたいところだったんですが。今はそんなことを言ってられな──って、この話は安全なところに着いたらゆっくり話しますので、今はそのセクシーな服を着替えましょうっ!』


 俺は、俺の脳に響く声──は、もう十中八九神様なので、神様と呼ぼう──の話を聞き終わると、『伸縮』と言うスキルはどんなものでも伸縮できるのかという疑問が……


『あ、──伸縮──は、触れているものならどんなものでも伸ばしたり、縮ませたり出来ますよ! 生き物でも、植物でも、きんでもダイアモンドでも』


 俺は、頭の中で『伸縮』と唱えながら意識を腕に集中させた。

 すると、案の定腕が伸びた。が、感覚も見た目も変なので、すぐ元に戻した。



 ◇



 雨に打たれ約30分。

 伸びた髪の毛も一瞬にして、肌に張り付くまで濡れてしまった俺は、で甘宮の屋敷に着いた。……とは言うものの全く疲れてないが。

 そして、大きな扉を開けるとやはり、白い髭を生やした執事さん・ナオヒサと黒い髪のメイドさん・フユカが立っていた。


「今日はマ……コ、コウタロウさんとは御一緒じゃないんですね」


 ん? いま皇大郎のこと誰かと言い間違えそうになってなかったか? まぁ気のせいか。


 メイドさんのその質問に対し、俺は頷くと、メイドさんは俺の服をまじまじと見たあと、「着いてきてください」と一言行って歩いて行ったので、俺も靴を脱ぎ、靴下も汚くなっているため一応脱いでメイドさんに着いていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る